ウィリアムside拾い者

フォルの足跡を辿って来た私の目の前に、美しい泉のほとりが飛び込んで来た。森の奥にこんな場所があるなんて、聞いた事が無かった。


しかもフォルの蹄の跡は、泉の水辺の際で消えていた。私は何か痕跡がないものかと周囲を見回した。少し先の地面にキラリと光るものがあるのを見つけた。



それはフォルのたてがみに編み込まれていた銀色のリボンだった。私はそれを拾って、辺りを見回した。すると目の前の木の影に、見たことのない風貌の魅惑的な青年が立っていた。


びっくりした私はその青年に呼び掛けた。すると、肩までの黒い髪に、ここら辺では珍しい黒い瞳の青年は、裸に近い格好で私の目の前に現れた。



腰に木のツルの様なもので編んだものが巻き付いていたけれど、チラチラとシンボルが見え隠れして、かえって視線を集めて卑猥に感じた。


青年は小柄ながらバランスの良い体つきで、無駄のない筋肉が美しささえ感じた。手足に生々しい引っ掻き傷があったが、身体は古傷なども無く、つるりとして滑らかに見えた。



少し切長の印象的な眼差しは、何を考えているのか分からなかったけれど、柔らかそうな唇は赤くてふっくらしていた。私はその唇と眼差しに何かが絡め取られる気がして、慌てて何者かと尋ねた。


その青年は名をハルマと名乗った。聞きなれないその響きをもう一度尋ねる前に、後ろから追いついて来た副指揮官たちに邪魔されてしまった。



私と同じでハルマと名乗る青年の姿に呆然とした彼らに、私は何となく彼をジロジロ見られたくなかった。会ったばかりの彼にこんな事を感じるのもおかしな話だ。


すると青年は私達に、森を出たいので一緒に行きたいと言ったんだ。私達は顔を見合わせて、この人間の様に見えるけれど、見慣れない青年についてヒソヒソと話し合った。



「本当に人間なのか?我々とは顔つきも身体つきも違うぞ。しかもこんな森の奥深くに居るのも変だ。魔物の類ではないのか?」


そう言う騎士が居れば、一方でチラチラとあの青年を見ながら顔を赤らめる若い騎士もいた。


「不運があってここに置き去りに合ったのかもしれませんよ。あの串刺しの怪物から逃げようとして、ここまで来てしまったのかもしれません。」



結局、あの青年のことは想像でしか分からなかったが、私達よりもひと回り小さな青年が脅威になるはずもないし、捨て置けないと意見の一致を見た。


私達が彼にその事を伝えようと振り返ったのと同時に、彼は一言何か言い放つと、泉の中へジャブジャブと勢いよく入って行った。私たちは彼に岸に戻る様に必死に呼びかけたけれど、彼はあっという間に水面に首だけ見せながらスルスルと泳いで行ってしまったんだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る