第13話 ウィリアムsideフォルという馬

「ウィリアム、必ずフォルの追跡をする。お前の馬のお陰で、騎士団は騎士数人と二頭ほどが怪我を負っただけで済んだんだ。」


そう言って私の肩を掴んだ後、疲れた様子で足を引き摺って官舎へ戻って行く副指揮官は、それでも随分気落ちしている様子だった。私の側にきた馬丁のロイは言った。



「副指揮官がフォルを見出したのですから、きっと置いてきた事を後悔しているんでしょう。フォルも副指揮官に随分懐いてましたからね。


私達は、アイツが森の中で一頭だけで化け物の様な奴と立派に対峙したと聞いて、驚きましたけど、一方でアイツならやるかもしれないって妙に納得したんです。

フォルは若い馬でしたけど、賢くて、妙な馬でしたから。…残念です。」



そう言って、やはりロイも肩を落として寂しげに歩き去った。落ち着かない馬達の騒めきが今日は妙に寂しげに聴こえて、私は拳を握って官舎へ歩き出した。


結局どう考えても、あれ以上の方法は無かった。フォルの取った奇跡の様な行動は、私たちを死の淵からあっけなく救い上げたのだから。



主人である私を振り落とした時はどうしたのかと呆気に取られたけれど、あの時フォルは私の方をチラッと見たんだ。確かに私には聞こえた。『ごめんね、ウィリアム』って。


官舎へ戻ると、私を見て数人の騎士達が集まってきた。彼らは何も言わなかったけれど、私の肩を強く掴んで頷いた。頭に包帯を巻いたリーダーが、魔物狩りに行かなかった騎士たちにも聞こえるように声を張って言った。



「皆聞いてくれ。魔物狩りはいつもの様に順調だった。しかし、対峙したことの無いモンスターに我々の行手は阻まれた。剣は硬い皮で弾かれて、大きな鋭い角で私達は馬ごと薙ぎ払われた。


私も騎士になって十五年経つが、全く経験のない事だ。明日、怪我の無い者は追跡討伐に行く。今回は鉛も突き通すサーベルを各自持参する事。鉛の網や重りも持っていく。

考えつくだけの重装備の上、参加する様に。解散!」



私達は各々身を清めに行ったり、食事を摂るなど、銘々が疲れた身体を揺り動かして動き出した。呆然としている私の隣に、学生の頃からの友人の騎士、ケインが声を掛けてきた。



「ウィリアム、お前の特別な馬が、皆を助けたと聞いたぞ?…今は森の中で寂しがっているかもしれないな。明日は俺も参加する予定だ。一緒にあの馬を撫でてやろう。

さあ、お湯を浴びてメシ食うぞ。明日は置いて行かれたとあの馬が拗ねていたら、森から引っ張り出さなきゃいけないからな?」



私はケインの励ましに少し笑うと、明日無事にフォルに巡り会える様に、強く願った。



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