第12話 ウィリアムside私の馬の機転

そいつは突然現れた。魔物退治も無事終わり、こちらの損害も最低限で済んで、私達はホッとして王都目指して森を抜けようと歩き出していた。


耳をつんざく恐ろしい鳴き声が辺りを響かせたと思った時には、目の前に居た数人の騎士や馬が吹っ飛ばされていた。それでも私達は、魔物ではない、見たことのない大きなモンスターに間髪入れずに必死に剣を突き刺した。



しかし恐ろしく硬い皮に阻まれ、そして大きな鋭い角を振り回されて、そう、なす術がなかった。私達には逃げることしか出来なかったが、倒れている怪我人や負傷した馬たちを放っていけないのは明白だった。


しかもそのモンスターの足の速さも分からず、逃げることが得策かも判断出来なかった。私たちはある意味死闘を覚悟したのだ。


こいつが死ぬか、我々が死ぬか。私が剣を握り直した瞬間、私は勢い良く振り落とされた。フォルが身体を捻って勢い良く後ろ足で立ち上がったからだ。



私を振り落としたフォルは私をチラリと見ると、モンスターに向かって大きくいなないた。後から聞くところによれば、見ていた騎士曰く、大きく歯を剥き出してモンスターを威嚇したかの様だったらしい。


するとモンスターは標的をフォルにしたのか、勢い良く走り去るフォルを凄まじい勢いで追いかけ始めた。周囲の木々を薙ぎ倒しながら走るモンスターの姿は、もし私たちが逃げても直ぐに追いつかれただろうと明らかなほどの速さだった。


「今のうちに怪我人を救助!動けるものは動け!撤退!」



指揮官の号令で私達はハッとして、呆然と見ていた状況から覚醒して、慌ただしく撤退の準備をした。その時、私の側に副指揮官が来て言った。


「フォルは賢い馬だ。きっと、何か考えがあってあの様にしたのだろう。我々の時間稼ぎをしてくれたのかもしれない。今は何も考えず、フォルの作ってくれた貴重な時間を無駄にするな。」



私はもう一度フォルが走り去った、無惨になぎ倒された森を見つめると、歯を食いしばって目の前の作業に当たった。私達は明らかにフォルに助けられたのだ。


一頭の馬の機転で、私達の命が救われた。それは明白な事実だった。私達は沈痛な表情で黙々と怪我人を馬の背に乗せ、王都へと急ぎ歩み始めた。


私はどうしてもフォルを置いてこの場を立ち去るのが忍びなくて、もう一度フォルの消えた森を見つめた。



「…フォル、無事で居てくれっ。絶対に…迎えに来るからな!」

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