第2話 高校生活の始まり (2)
「す、好きなことは魔法です! これからよろしくお願いします!」
来栖は勇気を振り絞るかのように突拍子もないことを言い放ち席に座った。俺も含めたクラスの全員が呆気にとられた顔で来栖を見る、その後その顔は怪訝なものとなっていく。皆こう思ったのだろう何言ってんだこいつと。張本人の来栖も俯いて何も言わない。教室の空気がおかしなものになる。
ーーパチパチパチ
千羽先生が拍手したことで、それに合わせ周りの生徒も拍手する。これによって教室の空気は元に戻り来栖の発表が無かったことになったかのように次の生徒の自己紹介へと自然に流れていった。
しかし今の発言はとんでもないものだった。なぜなら魔法なんてものは嫌われている、それは社会の常識だ、魔道科というか魔道家で育ったやつには好きなやつはいるかもしれないが、それは魔道家という特殊な環境が産み出したものであって、一般的に魔力が高い人間も低い人間も魔法を嫌いな奴はいても好きな奴なんていない、それを好きだなんていうとは見た目に反して変人だったとしか思えない。
その後自己紹介が進んでいき最後まで終わる、あの女以後特に目立ったものはなかった。
「じゃあ、ちょうどいい時間だし休み時間ね」
終了を告げるチャイムがなるにはあと数分が必要だったが、その言葉によって休み時間になる。生徒の中にはさっそく自己紹介で得た情報を使い新たな友人を作るため周りに話しかけているような奴もいた。俺はそんな奴らを大変そうだなと思いながら雑談に包まれていく教室の中で一人休み時間を過ごしていた。
「あの、音宮さんですよね」
「はい」
今日見るアニメのことを考えていた時、隣からいきなり例の女が話しかけてきた、正直あまり関わりたくないが相手を怒らせて名前を覚えられるみたいたことが嫌なので返事をする。
「音宮さんは部活に入らないんですか?」
「入らないよ、部活に時間使うなら帰ってアニメ見る方がいい」
これは本心である。この学園では部活は強制されていないのでありがたくその恩恵を受けるつもりだった。
「そうですか……」
「来栖さんは部活決まってないって言ってたよね、どの部活が候補なの?」
まあ興味はないがここで話を終わらせるというのも印象が悪くなる。こういう時は相手に話させるのが楽だ。自己紹介の印象が強く名前がすぐ思い出せたのは幸いだった。
「私は…まだ部活をどうするか迷ってます」
部活に入るかどうか自体迷ってるのか、ん? 魔法が好きということはーー
「そうか魔法が好きなら風紀委員に入るのか」
風紀委員は生徒会のもと学内の治安維持を務める。なので魔法の使用が常に許可されている。実態は生徒会にこき使われる雑用でそれなりの時間拘束されるが、先ほど周りがしていた雑談によると卒業後進路に有利になるためわりかし人気らしい。
魔法科の人間が魔法を使うなら風紀委員か二年の授業を待つしかないため、彼女が部活に入らずに風紀委員になるというのは自然に思えた。
「それは……」
「じゃあ続きを始めましょうか」
来栖は暗い顔になり何かを言いかけたが休み時間の終わりを告げるチャイムと千羽先生によって会話は中断される。俺は来栖とはあまり関わりたくないと思っているので以後会話が再開されないことを祈りながら先生の話を聞く態勢を整える。
「次は係を決めてもらいます」
そう言うと千羽先生は係の一覧が載ってる紙を皆に配った。係決め、なるべく楽なものを選びたいというのが人間の心理、しかし明らかに楽そうなのは倍率が高くなる。単発でなおかつ楽で他の人に見つかりにくい係を探すことが大切だ。
「まずクラス委員を決めてもらってそのあとその人に司会をしてもらおうかしら」
クラス委員は鈴森という女生徒にすんなり決まった。
「クラス委員になりました鈴森です。よろしくお願いします。では早速ですが次に風紀委員を決めたいと思います」
風紀委員か、倍率は高そうだからな、となりの来栖はなれるのだろうか。何人かの生徒が立候補するため手を挙げた、当然横の来栖も手を挙げるだろうと思い、そちらに目をやると彼女は悩んだ表情を見せていたが手を挙げてはいなかった。
なんで立候補しないんだ、風紀委員にならないと三年から始まる魔学まで魔法なんてろくに使えないのに、別に魔法は好きだが使いたいわけではないみたいなことなのだろうか。その後俺は狙い目の楽な係はすんなり取れた。
「じゃあ今日はこんなところで解散ね、明日までオリエンテーション期間で来週から通常授業だからね」
そして今日も速攻教室を出る。ただ教室内では案の定昨日とは違い楽しそうな話し声が聞こえた。
翌日そろそろ新鮮味も無くなってきた校門を通りながら昇降口へと向かう。しかし人集りができており何やら大声も聞こえる、朝っぱらから揉め事のようだった。
「ですから直してください!」
風紀委員の腕章を腕に巻いた男がそう言うと
「なんでお前に俺の髪色を帰る権利があるんだよ!」
風紀委員に対して言い返したのは同じクラスの確か……立川とか言うやつだ。奴の髪色は未だ金のままだった。
「校則には書かれてませんが生徒会則には髪は黒髪と書かれています」
立川にすごまれても一歩も引くことなく風紀委員の男はそう言い返した
「校則に書かれてないならいいじゃねーか!俺は中学時代から髪は金にしてんだよ、校則で禁止されててもな!」
俺が来る前からずっと言い合っていたのだろう、互いに埒があかないという表情だった。
「直さないというなら指導室に来てもらいますよ!」
「うるせぇなぁ、なあ痛い目にあいたくなければそこどけよ」
「あいつ火魔法使えるぞ!」
立川の手から炎が出る。それと同時に周りの野次馬たちも騒がしくなった、校舎内で平然と魔法を使うとは本格的に危ないやつだな。
「魔法は便利だよなぁ、ムカつく奴がいたらぶっつぶせるしよぉ」
立川も魔法が好きなのかと一瞬驚いたが、あれは便利と言ってるだけで好きとか嫌いって感じではなさそうだ。
「ま、魔法も使いましたね、それも重大違反です!指導室に来てください」
風紀委員の男もそれに応え水魔法を使用し手から出た水が辺りを漂う。二人の間には緊迫した空気が流れる。
「ちょっと脅してどかそうとしただけじゃねぇか、本気でやる気かよ、なら」
そう言うと立川は火魔法を撃ちつけた、立川から放たれた炎は周りの温度を上げながら風紀委員に向かっていく。風紀委員も慌てて水魔法を撃ち魔法の相殺を試みた。一瞬魔法がぶつかる激しい音が聞こえた後、炎は全ての水を一瞬で蒸発させ、勢いそのまま風紀委員の体を炎で包む
「ぐあーー!」
炎に囲まれた風紀委員は悲痛な叫び声をあげる。とばっちりで魔法が俺にも飛んできてはたまらない、先ほどより彼らから距離を取ろうとする。
「危ねぇ!」
「普通に魔法使いやがった!」
立川の魔法は野次馬たちをビビらせるには十分で多くの生徒たちは慌てて逃げ出したため混雑は改善され俺も後ろに下がることができた。その場には俺も含め自分はいまだに野次馬をしてやろうと考えてる奴らが何人か残ったが、当然危険はあるためそこにいるもの全員が張り詰めた空気に包まれた。
「俺はバカだけどなぁ魔力だけは高いんだよ、少し火傷するぐらいの威力でそんな叫ぶな、服も燃やしてねぇんだし」
立川はそう捨て台詞を残しその場から離れようとしたその時、バリッという爆音と共に辺りが白に点滅し、直後に光が立川に向かって激突した
「ぐっ…」
次の瞬間立川は倒れ込み、何も反応がなくなった。それと同時に風紀委員の男を包んでいた炎は無くなり、光が飛んできた方向を見ると二人の男女がこちらに向かって歩いてきていた。彼らはどちらも腕に生徒会の腕章を巻き、女は気だるそうに、男は楽しげな様子であった。
「この時期はこういう勘違いした輩が現れるから嫌いだわ」
場の空気を支配するほどの威圧感を出しながら女はそう呟いた。
「あららー気失ってるじゃん、やりすぎでしょ、治しとかないと、ついでに手痛くやられてる彼も」
そう言うと男は立川と風紀委員の男に魔法をかけ始めた。
「うぅ……」
意識は残っていた風紀委員の火傷の痕は生徒会の男の魔法でみるみる治っていった。あれは一部の魔道家が使える治癒魔法というものだろうか、存在するとは聞いていたがまさかこの目で見る日が来るとは思っても見なかった。
「こういうやつにはまず自分の弱さをわからせるのが大切なのよ、それに見せ物にもできるしね」
生徒会の女は周りで様子を窺っていた俺らを見ながらだるそうにそう言った。
「はいはいそうですね、じゃあ君、佐藤君とこの金髪の子を保健室まで運んどいて。あとこの子の意識が戻ったら指導室に連れて行くように伝えといて」
「了解しました!」
生徒会の男は近くにいた風紀委員を呼び手短に指示を伝える
「じゃあ僕らは戻ろうか」
そう言うと二人の生徒会員はその場から離れていった。
「あれが……生徒副会長と風紀委員長らしいぞ……」
「ひぇー魔法こわー」
野次馬の解説によるとあの女が生徒会副会長、男が風紀委員長であるらしい。しかし生まれて初めて目の前で魔法のぶつかり合いを見たな、立川も馬鹿なやつだなぁ、自分から揉め事を起こす奴はよくわからない。そう思いながら教室に向かおうと歩き始めたとき、この騒動を見ていたのだろうか昨日より暗い顔をした来栖がいた。
チャイムが鳴り千羽先生が話し始めても俺は来栖が気になっていた、別に一目惚れとかしたわけじゃないが隣のやつが魔法が好きとか言ってるくせに風紀委員に入らなかったり、いきなり話しかけてきたくせにそれ以降はずっと暗い空気を出し黙っていたら自然と気になるというものだ。ただ別にそのことを本人に聞いたりする気は毛頭なかった。その後は特に何事もなく通常授業前にやらなければいけないことを終わらせた。
「じゃあ来週から授業だから楽しく頑張りましょう」
まあ来栖のことはどうでもいいか、さっさと帰ってアニメの続きでも見るとしよう、どうせ高校生活も一番楽しいのはアニメや漫画を見ることなんだ。
そして俺はいつものようにすぐに教室を出て廊下を歩き始めた。
「すみません!」
帰り道が混雑する前に帰ろうとする俺の思惑は背中からかけられたその声によって四散した。
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