第102話 ネルネルのドリルで道を拓け!

 ドヤ顔になったシラユキが言う。自分なら謎の文書を解読できるはずだと。


 このシラユキ、肝心な時にポンコツ気味だが、基本スペックはどれも最高レベルに高いのだ。人を圧倒するほどの美しい容姿とトップレベルの頭脳。男女問わず踏まれたいと思わせてしまう完璧な曲線と肉付きをした脚。


 ちょっとコミュ障だったり胸が控え目だったりするのも問題無いのだ。



「ナツキは手紙が途中で敵の手に渡るのを恐れて、わざと解りづらく書いているだけ」


 シラユキの言葉に二人の大将軍が違う反応をする。


「なるほど!」

「そんなの分ってるんだナ」


 ポンと手を叩いて初めて気づいた反応のロゼッタと、ちょっと拗ねているネルネルだ。


「でもナツキきゅんとエッチな触手プレイもしたいんだナ」


「「それはダメ!」」

 シラユキとロゼッタの声が重なる。ナツキがネルネルの変態趣味にハマったら大変だ。



 気を取り直してシラユキが手紙の文章を解説し始めた。


「こほん、この『ネルねぇの大きくて長くて太くて逞しいアレ』とは、ネルネルの闇の触手のこと。そして『穴をホジって会いに来てくれる』は、地面を掘って敵の包囲を抜けて来てくれという意味」


「そうなんだ、凄いよシラユキ」

 ロゼッタが褒めまくる。すぐ落ち込む彼女に気を遣っているのかもしれない。


「むぅ、わたしだって同じこと思ったんだゾ。特に難しい暗号でもないのダ」

 やっぱりネルネルは少し拗ねている。



「ところでネルネルの触手って穴掘れるの?」

「知らないんだナ。やったこと無いゾ」


 ロゼッタの素朴な疑問に、あっさり知らないと言うネルネルだ。これにはシラユキがボソッと文句を言う。


「ふっ、自分のスキルなのに知らないとか……ダメダメ」

「き、聞こえてるんだナ! 用も無いのに地面に穴掘ったりしないんだゾ」


 確かに用も無いのにわざわざ穴を掘って地中を進もうなど考えないだろう。


「たぶんナツキきゅんは、闇の触手刺突ヘンタイスタブで石の天井を貫くのを見たからなんだナ」


 ネルネルが言っているのは、帝都で一緒に戦った時に下水道から地上に出る時のことだろう。あの時、確かにネルネルは触手を何本か合わせてから捻じり、ドリルのようにして大穴を開けていた。



「試しにやってみるんだナ」


 ぐにゃぁああぁ~ん!

 ネルネルの周囲に闇のオーラが展開する。いつ見ても怪しい暗黒物質だ。


 ギュワァアアアアァーン!

 大量に出した闇の触手を束ね高質化させる。それを回転させるように捻じり大きなドリル状にした。


「よし、潜ってみるゾ」

 ネルネルが巨大ドリルを回転させる。


 ギュワァァァァァァーン! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 固い地面が掘削され、見る見るうちに触手ドリルが地中へと潜って行く。誰もが思っていたより掘削スピードは速いようだ。


 ギュワワワワワワ――すたっ!


「これならゲルハースラントの包囲を突破できそうなんだナ」


 穴の中からスポンッとネルネルが飛び出る。シュールな光景だ。


「凄いよネルネル!」

「意外と万能触手」


 まるでモグラのように地中を進んで飛び出たネルネルに、ロゼッタもシラユキも感心している。

 さっきまで拗ねていたネルネルもご機嫌だ。


「これは使いやすいんだナ。闇の触手掘削獣ヘンタイドリルラドンと名付けるんだゾ!」



「それにしても、ナツキ君は凄いよね。一度見ただけでネルネルのスキルの使い方を考えちゃうんだから」


 ナツキを褒めている時のロゼッタは嬉しそうだ。まるで自分のことのように。


「ふふっ、さすがナツキ。デキる子♡ 私の弟くん♡」


 シラユキに至っては自分が褒められているかのようにニヤニヤしている。もう末期的だ。



 技の名前も決まったところで、さっそくネルネルがナツキに会いに行こうとする。しかし、他の姉が余計なことを言い出すのはオヤクソクで――


「では、私が一緒に行く。やはり弟くんには私が付いていないと」


「シラユキが残らないと敵を食い止められないよ」


 一緒に行こうとしたシラユキが、ロゼッタに止められる。シラユキの大魔法がなければゲルハースラントの大軍を止める手立てがない。


「うっ……そ、それは……」

「シラユキは留守番なんだナ」

「だよね、代わりに私が行くよ」


 しれっとロゼッタが一緒に行こうとする。これには留守番確定したシラユキの目つきが鋭くなった。


「じょ、冗談だよ。怒らないでよシラユキ」

「べ、べつに……怒ってない」

 どっちもどっちな二人だ。


「ちょっと行ってくるから二人は帝都を守るんだゾ」


 やっぱりナツキがいないとやる気は出なそうな二人を残し、ネルネルが闇の触手掘削獣ヘンタイドリルラドンで地中に消えていった。


 ◆ ◇ ◆




 帝都が落ちるのではと噂が広がり混乱していたボドリエスカの街だが、奇跡の勇者ナツキの噂を聞いた街の人々の気分は一変する。いまやナツキは貞操逆転帝国の女たちにとって憧れの存在なのだ。


 逃げ出そうとしていた市民は落ち着きを取り戻し、街の若い女たちはナツキの姿を一目見ようと軍の施設に押し寄せていた。



「きゃああああっ! ナツキ様♡」

「見て見て、あそこにいるわ♡」

「本物のナツキ様よ!」

「はぁああぁん♡ イケナイコトしたいわ♡」


 遠巻きにナツキの姿を見ては黄色い歓声を上げる女子。デノア幼年学校ではバカにされモテなかったのに、今ではモテモテになってしまった。


「あっ、皆さん、ボクたちが戦争を止めますから一緒に頑張りましょう」


 ナツキが女子たちに手を振ると、更に歓声が沸き上がる。


「きゃああああああっ! ナツキ様ぁ♡」

「私にもお仕置きしてぇ♡」

オレの嫁ナツキ様ぁああっ!」

「婿にしたい男ナンバーワン!」



 そしてナツキの隣にいるフレイアが、さっきから不機嫌になっていた。


「むっすぅ~っ」


 頬を膨らませて怒っているフレイアにナツキが気付く。


「フレイアお姉さん、どうかしましたか?」

「べ、べつにぃ……」

「もしかして……怒ってます?」

「怒ってないけどぉ。ナツキ、モテるのね」


 どうやらフレイアは妬いているようだ。他の女がナツキに色目を使っているのが気に入らないのだろう。

 ここで普通の主人公ならば困ってしまってヒロインの機嫌を取ろうとするところだが、我らのナツキはちょっと違う。


「フレイアさん、ボクは他の女の人に心移りしないから大丈夫です。フレイアさんは大切な人です。ずっと大事にしますから安心してくださいね」


 ズッキュゥゥゥゥーン♡ きゅんきゅんきゅん♡


「ふえぇっ♡ な、なな、ナツキ♡ それってプロ、プロポーズ♡ はぁあんっ♡ これ以上好きにさせてどうする気よぉ♡」


 真っ赤な顔を両手で押さえたフレイアが体をグネグネさせている。幸せそうで何よりだ。


 もちろんナツキはプロポーズしたわけではない。純粋に大切な人を守りたいという本心を打ち明けただけだ。やっぱり無意識に姉系女を堕としまくる男だった。


「フレイアさん、ボクは頑張ります! 戦争を止めて彼女候補のお姉さんたちが笑って暮らせる世界を創ってみせます!」


 ポンポンポンポンポン――


「うひぃ♡ ら、らめぇ♡ ナツキぃ、人が見てるからぁ♡」


 大勢の人が見ているのに真面目な顔したナツキがフレイアの体をポンポンしまくる。完全に油断していたフレイアは、大勢の部下や市民が見ている前でアヘ顔を晒してしまう。


「一緒にやりましょう! フレイアさんっ」

「おっ、おほっ♡ もうっ、ムリぃ♡」

 ポンポンポンポンポン――


 唐突に衆人環視の中で誇り高い大将軍の羞恥プレイが始まってしまい、周囲の女子たちがざわつき始めた。


「ああぁ……フレイア様が」

「これがナツキ様の鬼畜調教♡」

「クレア様がエッチ奴隷にされた技ね!」

「ひ、人前で……しゅごい♡」

「くうっ、なんて羨ましいんだ!」

「もうフレイア様もエッチ奴隷なのね」


「み、見るなぁ♡ あひぃ♡ 見ちゃダメぇ♡ はぁああぁん♡ もうナツキのバカぁ♡ んっひぃいいいいっ♡♡」


 フレイアが大変なことになっているのに、当のナツキときたら帝都を救うことで頭がいっぱいだ。彼女を恥ずかしい目に遭わせているのも気付かず燃えていた。


 こうして恐怖の大将軍フレイア・ガーラントの威厳とプライドは崩れ去り、代わりにナツキに対してドロドロデレデレの依存度だけが高まった。




 そんな、フレイアが極限の羞恥心でおかしくなっている時、帝都を取り囲むゲルハースラント軍を振り切ったネルネルがボドリエスカに到着した。


 ガタッ!

「ナツキきゅん、待たせたんだナ!」


 その時、ネルネルが見たのは、皆の前で羞恥調教され堕とされた事後のフレイアの姿だった。


「あ、あの、フレイアさん、大丈夫ですか?」

「おごっ♡ もうダメぇ♡ ナツキぃ、何でもするからぁ♡ ゆるじでぇ♡」


「ぐっひゃぁああああっ!」


 豪快にズッコケたネルネルの頭が嫉妬でおかしくなるのには十分だった。ナツキの無意識な姉堕ち技は、フレイアだけでなくネルネルの心にまで火を点けたようだ。


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