第91話 マミカ絶体絶命! まさかの百合展開?

 あっという間にルーテシア艦隊を撃滅してしまった揚羽たちの乗る鉄甲船団は、すぐにミーアオストクの港に姿を現した。


 圧倒的軍事力を誇る大帝国のルーテシアが、他国の軍に攻め込まれるなど前代未聞の出来事であった。



 ズドドドンッ! ドドンッ!


 ヤマトミコ艦隊から砲撃した魔法弾が飛来し、一瞬で沿岸砲台が壊滅する。


 ヒュゥゥゥゥーッ! ドガァァァァーン!


 一発も発射しないで破壊されたのを不思議に思うはずだが、海軍壊滅の報が一般兵に洩れ、砲台を守る者が一斉に逃げ出したのだからどうしようもない。


 そんな訳で、開戦序盤から艦隊を失い士気もガタ落ちのルーテシア帝国だった。中央から遠く離れ組織も腐敗した極東ルーテシアでは仕方がないのかもしれない。




 スタッ!

 タラップを降り大陸の土を踏んだ揚羽が第一声を上げる。


「ここが大陸か。もっとこう華やかなイメージを持っておったのだが、何やら寂れておるな」


 揚羽が言うように、港から見えるミーアオストクの町並みは寂しげでお世辞にも発展しているようには見えない。


「揚羽サーン、それは仕方がないデス」

 揚羽の横に立ったフロレンティーナが話しかけてきた。


「帝都がある西の方は栄えてイマスデスガ、極東ルーテシアは開発が後回しにされてイマスデス。長引く軍事独裁政治で国民の暮らしも疲弊ひへいしてるデース」


「であるか! 遠い大陸も夢の国とはゆかぬのか……」


 揚羽の顔が少し陰る。夢に溢れたワンダーランドを想像していた彼女にとって、現実の大陸は楽園ではなかったようだ。何処の国も庶民の暮らしが厳しいのは変わらないのかもしれない。


「それよりフロレンティーナよ、もう大丈夫なのか?」


「だ、ダイジョーブじゃないデスヨ! 死ぬかと思いマシタ! 絶対に沈まないって言ったデスヨ。アナタと一緒だと命がいくつあっても足りないデース!」


「ふっ、世の中に絶対などという物は絶対にない!」


 フロレンティーナの文句も聞かず、揚羽はズンズン行ってしまう。この傲慢で横暴なところも彼女の魅力だ。文句を言いながらもフロレンティーナが彼女の後をついて行く。


 ◆ ◇ ◆




 沿岸砲台も壊滅しヤマトミコ軍の上陸を許した知らせを受けたマミカは、進軍する敵をどうするのか悩んでいた。


「援軍は来るはず……それまで持ちこたえるか? しかし、完全に戦力不足だし……」


 ヤマトミコの主力を上陸させた時点で詰んでいた。制海権を握られ、敵は続々と軍を送り込んでくるはずだ。


「海で隔てられた両国の戦争では制海権の掌握しょうあくが勝利の条件だし。海軍が全滅したら、もうどうしようもないじゃないのぉ!」



 これがアレクサンドラ政権時であれば、人命など全く気にせず次々と大軍を投入し、屍の山を築きながら勝利していたであろう。

 何しろこれまでのルーテシア帝国軍といえば、どれだけ兵の損耗率が激しくとも負けを認めず、次々と人的資源を投入し勝つまで戦い続ける悪名高さだったのだから。


 しかし、今のアリーナ政権は無益な戦争を回避する立場である。マミカも、生きてナツキに逢うのが最優先であり、ここで徹底抗戦して戦死するのは避けたかった。



「どうしよう……ショーグンを精神掌握セイズマインド記憶操作マニュピレートメモリで操って人質に。いや、ヤマトミコ乙女は捕虜になるならハラキリするとか聞いたような? どどど、どーするし!」


 最強の精神系魔法使いであるマミカなら、一人でヤマトミコ軍と衝突しても何とか生き残るのは可能だろう。


 しかし、ミーアオストクを守備する自分の部下数万を置き去りにするわけにもいかない。更に、部下を犠牲にでもしたら、ナツキに合せる顔が無いのだ。


「どうするどうする、どうするアタシ。と、とりあえず時間稼ぎでもしてみるとか?」


 うんうんと悩みながら、援軍が来るまで時間稼ぎの結論になった。


 果たして、この決断が吉と出るか凶と出るか。いや、エロと出るか百合と出るか。


 もし運命を司る神がいるとするならば、何かと苦労が多いこのマミカを、早くナツキが幸せにしてやって欲しいと願うところである。


 ◆ ◇ ◆




 沿岸施設を制圧した揚羽たちは次々と軍を進め、マミカのいる城を包囲してしまう。補給路も断たれ完全に孤立状態だ。



「揚羽様、包囲完了しました。水攻めですか兵糧攻めですか?」


 鼻を擦りながら羽柴きりが得意げに言う。こう見えて彼女は城攻めの名手だ。


「けっ、相変わらず桐はサルみたいな顔して小賢しいのお」


 そう言ったのは柴田しばた小鳥ことり。大柄な女性の少ないヤマトミコの中でも、数少ない恵体女である。


 ちょっとぽっちゃり……逞しい肉体をした格闘系スキルを持つ女だ。名前が小鳥なのに見た目が怖いので、敵からは鬼小鳥と呼ばれている。豪快で真正面からの戦いを好む。

 因みに桐とは犬猿の仲だ。


「正面から攻めるのみが戦いではないでござろう……。無駄に兵を失うより良いではないか……」


 桐が小声で呟くと、やはり小鳥が反応してしまう。


「何か言いましたかな!?」

「い、いや、何でもござらん」


 そこに人の良さそうな女が割って入った。


「まあまあまあ、記念すべき大陸での戦ですよ。ここは仲良く行こうではありませんか」


 前田まえだ白梅しらうめである。スラっと細身で艶やかな黒髪の女。大人しそうに見えるが、実は槍の達人であり、ヤマトミコでは天下無双の槍使いとして名高い。


 普段は大人しいのに槍を持つと性格が変わると噂されている。




 そんな揚羽の部下たちがワイワイやっているところに、城門を開けマミカの部下が出てきた。彼女は真っ直ぐ一番豪華な鎧を着た揚羽の許に向かうと、西洋式の礼をした。


「ヤマトミコの征夷大将軍織田揚羽様、ルーテシア帝国大将軍が城に招待いたします。どうぞ」


 うやうやしく話す女兵士に、揚羽は乗り気になってしまう。


「なるほど、大陸共通語がよく分からんが、招待すると言っておるのだな」


「揚羽様、学校で習いましたよ」

 桐がツッコんだ。


「知らん!」


 そう言いながらも女兵士と会話は成立している。

 揚羽は女兵士の招待を受けてしまう。


「面白い! どれ、帝国の城とはどんなものか興味があるぞ!」


「お待ちください、揚羽様。これは罠でございます」

 すぐに桔梗ききょうが止めに入る。


「そんなことは分かっておる。興味があるのだ。こんな面白い余興には乗ってやらねばヤマトミコナデシコの名が廃るというものだ」


「し、しかし……」


「桔梗! 辛気臭い顔してないで行くぞ! おぬしらも来い!」


 桔梗の制止を振り切り、揚羽がズンズン城門に向かってしまう。その後に桔梗や桐たちが続いた。


「ワタシも行きマース」

 フロレンティーナも揚羽について行った。


 ◆ ◇ ◆




 城の大広間に通された揚羽たち一行を、城主であるマミカが出迎える。


 そう、ヤマトミコ軍幹部を自分のテリトリーに引き入れて、様子を見ながら精神系魔法で対処するつもりだ。出来るだけ時間を稼ぎたいが、もしもの時は一人で全員を相手にするつもりでいた。


 ただ、こんなあからさまに怪しい手に乗るとは思っていなかったのだが。



「ようこそミーアオストクへ。私が大将軍のマミカ・ドエスザキです」


 笑顔を作って挨拶するマミカだが、微妙に眉間の辺りがピクピクしている。



「うむ、織田揚羽である!」


 ガシッ!

 前に出ようとする揚羽をフロレンティーナが止めた。


「待ってクダサーイ! 大将軍マミカは世界最強の精神系魔法使いデース! 射程範囲に入ると身体機能を乗っ取られマスデスヨ!」


 ゲルハースラントのスパイだけあってルーテシア帝国の内情にも詳しい彼女だ。マミカのスキルも把握していた。



「なるほど! 我を精神支配して人質にでもしようとしたか。面白い!」


 恐れるどころか面白がる揚羽だ。この女に常識は通用しない。


「チッ! あと一歩だったのに。アイカって名前にしとけば良かったし」


 そんな愚痴を漏らすマミカだが、フロレンティーナには情報が漏れているので無駄だろう。



「ま、まあまあ、今回の件はお互いに行き違いがあったようだし。サドノシマ砲撃は反乱分子が勝手に起こしたのであり、帝国は一切関知していません。ここは、ゆっくりと城に滞在して話し合うということで――」


 何とか話し合いに持ち込ませようとするマミカだが、速攻できりに見破られてしまう。


「揚羽様、このお方は援軍が来るまで時間稼ぎをしようとするつもりですぞ」


「ふむ、サルが言うのならそうかもしれぬな。しかし、援軍が来るまで一人で持ちこたえようとする意気込み、あっぱれである!」


 敵ながらマミカを感心してしまう揚羽、優秀な人材は部下にしたがる性格なのだ。



 そんなマミカにトドメを刺すような言葉をフロレンティーナがぶつけてしまう。


「援軍は来ないデース」

「「「えっ!」」」


 そこにいる全員が驚く。


「今頃は西側からゲルハースラントが侵攻しているはずデス。帝都ルーングラードは混乱していて援軍を送る余裕は無いデスネ」


「は? なんであんたがそんな情報を知ってるのよ!?」


 マミカの問いに、揚羽が代わりに答えた。


「この者はゲルハースラントのスパイであるからな」

「なっ!」

「援軍は期待できぬようだぞ。ならばどうする」


 揚羽の獰猛な虎のような黄金の瞳が輝く。

 マミカは必死に打開策を考えていた。



 どうする、どうするアタシ!

 本当にゲルハースラントが侵攻するなら帝都やアレクシアグラードが危ない。遥々遠く極東まで大軍を送る余裕は無いはず。

 でも、少数ならきっと――――


「そ、それね。軍は送れないけど、最強の戦士を送る予定だし!」


 マミカの話に揚羽が食い付いた。更にギラギラと瞳を輝かせて。


「ほう、最強の戦士とな」

「そ、そうそう、世界最強の剣聖とか世界最強の女戦士とか――」

「面白い!」


 部下が止めるのも聞かず、揚羽は最強の剣聖という言葉で完全に乗り気だ。


 ただ、その前にマミカには気になることがあった。さっきから揚羽の視線が自分の体をジロジロ見ているのだから。


 最強の剣聖に興味を示した揚羽は、目の前の可愛い女にも興味を持ってしまったようだ。その柔らかそうなフワフワの髪や小悪魔系の可愛い顔。細身なのに意外と脱いだら凄そうな胸や腰を。


 別の意味でマミカに危機が迫っていた。






 ――――――――――――


 またしてもマミカお姉様のピンチ。ナツキ君、早く彼女を幸せにしてあげてー!


 果たして援軍は来るのか?

 最強の織田家臣団相手にマミカは一人で……

 どうするマミカ!

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