三、

 ではこちらですね、と看護師は標本となった私の卵巣を目の前に置く。

 保存瓶の中に浮く物体は、自分のものとはいえ少しグロテスクだ。とはいえ、色といい形といい、やはり柘榴によく似ていた。

「シーリングはしてありますが、開けないでくださいね。標本以外での臓器所持は認められていませんから」

 今にも開けそうに見えたのか、念を押すように看護師は言う。改正臓器移植法でそう決まったのだと、以前読んだ約款にもあった。感染の可能性を防ぐため、一律禁止にされているらしい。

「では一週間はご自宅で安静に。二週間後に機能チェックへおいでくださいね。詳しくは、専用ページでご案内しております」

 看護師は最後の案内を終え、保存瓶を綿が敷き詰められた木箱へと収める。予想外に高級な扱いを受ける分身に、なんとなく居た堪れなくなって頬を掻いた。

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