第5話 原因

 学校に着くとキヨカが校門でこちらに手を振っていた。

ものすごく目立っている。

浮いた話のひとつもない品行方正なキヨカが待ち侘びるような相手。

校門の黒山の人集りはキヨカが原因だったようだ。

周囲の生徒がマドンナが誰に手を振っているのか確認しようと

躍起になっているのがここからでも伺える。

入学以来無遅刻無欠席を貫いていたが帰宅したい気持ちに押しつぶされそうだ。

踵を返し蔦に覆われた私の城に帰りたい。

こんな公衆の面前で話しかけられてしまえば穏やかな日常に戻ることは

できないだろう。

そっと場を離れようとした瞬間。

キヨカが声を張り上げ待ち人を呼んだ。

「アズサ。待ってたよ」

一斉に振り返る群衆。

殺気の篭った視線が刺さる。

終わった。

さらば日が当たらずにいることができた平穏な日々。

涙が出そうになりながらキヨカに手を振りかえす。

もうどうにでもなればいい。

過ぎ去ったことに囚われてはいけないと自分に言い聞かせる。

「だめだ全然割り切れない。もう帰りたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る