22話 兄妹の絆、そして和解1

 ―――次の日。


「壱流ありがとう。少しは休めたし、今から狗遠の所に行ってくるわ」

「姉貴、僕もついていきます!」


「幻夢。あなたは病み上がりでしょう? 戦いが終わるまでここにいてもいいのよ」


 壱流のアジトなら安心だし。


「何言ってるんですか? 姉貴の一番目の舎弟としてついていかない選択肢なんてないです! それにかなり悔しいですけど、この教師、腕だけはいいんですよ」

「褒めてくれて嬉しいよ、幻夢くん。しかし、あれだけ負傷してたのに、わずか数時間でこれだからね。君の身体は研究材料としては申し分ない」


「ヒッ! 姉貴、やっぱこの人とんだサイコ野郎ですよ!!」

「幻夢をからかうのもそのへんにしとけ」


「ははっ、ごめんごめん」


 ほら、やっぱり……。白銀先生がどういう人かは会話してみて少しだけわかった。それでも謎な部分のほうが多いけど。


 それに私と同じ特別な血を持っていて、いくら戦闘力が人並みより高いっていっても白銀先生の強さは限度をこえている。

 正直、この人が仲間でよかったと心からそう思える。こんなの敵に回したら想像するだけでも怖い。


「でも、キミには興味あるよ? 炎帝さん」

「え?」


「だって、キミはオレと同じだからね」


「闇華は俺の女だ。手を出したらお前でも許さねえぞ」

「僕だってゆるしません! 姉貴は僕のです!!」


「2人とも苦しい」


 壱流は後ろから幻夢は前から私を抱きしめる。


「手出しするつもりはないよ。今はね。それにほら。オレは、キミたちより年上だから奪おうと思ったらいつでも……」


「「なっ!」」

「龍幻!」


「やっぱり姉貴狙いだったんですね!?」

「茶化されてるのよ壱流、幻夢」


 私は半ば呆れ顔で2人に言い放つ。


「そ、それならいいけど。龍幻、本気じゃないよな?」

「オレがこんな子供相手に欲情すると思ってるのかい?」


「姉貴はたしかに身体は小学生と変わらないくらいペッタンコです。けど、大人になれば今よりすこしくらい可能性は……いった! 姉貴、なにも殴ることないでしょ!?」

「誰が小学生と変わらないって?」


 私は幻夢に殺気を飛ばす。


「や、闇華。落ち着け」

「私は冷静よ。よっぽど癇に障ることが無い限り怒ったりしないわ」


「姉貴の殺気マジこわいです!」

「幻夢くんもまだまだだね。炎帝さんが成長するのはこれから。今はまだ未発達なだけ」


「龍幻、お前! そんなこと言ったら火に油を注ぐことに……」

「炎帝さん。キミは将来どんな大人になるんだろうね」


 不意に手を触られた。

 白銀先生、急になにを言い出すの?


「キミが立派な女性に成長するのが今から楽しみだよ」

「!」


 手の甲に口づけをされた。


「龍幻!!」

「姉貴、離れてください! この教師、サイコだけじゃなくロリコン野郎です!」


「そこまで警戒しなくていいだろう? ほんの戯れだよ。そうだよね、炎帝さん」

「は、はい」


 たわ、むれ。

 ただのスキンシップってこと?


「コレはキミが扱うには少し早すぎるかもしれないけど渡しておく。これはオレからの餞別みたいなもの。気をつけて行っておいで」

「行ってきます」


 耳元で囁かれた言葉。

 私のポケットに入れられたそれは……。


「龍幻、ここは頼んでいいか?」

「あぁ、任せて」


「壱流、まさか貴方も狗遠のところに?」

「当然だろ? 恋人を1人で危険な場所に行かせると思ってるのか?」


「恋人ぉ!? 姉貴、それはどういうことですか!」

「え?」


 私もそれは初耳。

 たしかに壱流に好きだといわれたし、私も言った、けど。でも、そのあとにどうするかなんて考えてなかった。


「幻夢には言ってなかったな」

「壱流まって。私も聞いてな……い、壱流?」


「狗遠のとこに行く前に少し話がある。

いいか?」

「え、えぇ」


「壱流さん、それを口実に姉貴と2人きりになるつもりですね!?」


 幻夢は壱流に突っかかってたけど、多分今回のは違う。だって、壱流が普段よりも真剣な目をしていたから。


「龍幻。いい、よな?」

「壱流が決めたことだし構わないさ。炎帝さんがそれを聞いて納得するなら、オレからいうことはなにもない」


「そう、か。闇華、とりあえずこっち来い」

「わかったわ。幻夢ごめんね」


「姉貴……」

「行ったようだね。壱流、本当にキミはあれをやろうとしてるんだね」


「龍幻先生、教えてください。壱流さんは姉貴になにを……」

「キミも戦いについていくんだろう? なら、嫌でも見れると思うよ。きっとキミなら、いや、キミだからこそアレをしても失敗することはない。元闇姫がどこまで自分の力に出来るのか今から見ものだよ」


「先生、あんたっていったい……何者なんですか?」

「ん? オレかい? オレは壱流の世話役であり元闇姫の師匠であり、そしてただの研究者だよ。そう、ただの、ね」


* * *


「壱流、話ってなに? 幻夢と白銀先生がいる前では言えなかったの?」

「……」


「ねぇ壱流」


 壱流は押し黙ったまま、私の手を強く握った。


「付き合うとかって話なら今じゃなくても……壱流!?」

「強さがほしいか? 大切な人を守れるくらいのチカラが」


「ほしい。家族を守れるんだったらなんでもする」


 壱流は抱きつき言い放つ。でも、当たり前のことを言ってどうしたのかしら。実は私が怖がってるとか覚悟ができてないって、そう思ってる?


「今なんでもするっていったよな」

「え」


「ちがうのか?」

「いったわ。でも、それとなにか関係があるの?」


 歯切れが悪い。普段ならもっと早く本題を話すのに。今日はどうしちゃったの?


「俺ならお前を、闇華を強くできる」

「それはどういう意味で言ってるの? 修行相手なら後日でも……」


「俺の血を流し込めばお前は吸血鬼になれる」

「!」


 その話は聞いたことがある。たしか、そう、狗遠がいっていた。一時的だけど、特別な血を持つ5人は吸血鬼になることが可能だって。だけど、成功した例はほとんどないって話していた。


「死ぬかもしれないが、お前なら出来るって俺は信じてる。お前なら俺の力を制御出来るはずだ」

「それはそうかもしれない。けど、壱流はそれでいいの?」


「一時的な効果しかない。特別つっても元々はただの人間だ」

「私が心配してるのはそこじゃなくて」


「ハンパものの吸血鬼の俺にそんなことが出来るのかって?」

「それをして壱流にもしものことがあったら……」


 私のせいで壱流まで死ぬようなことがあったりしたら、私は……。これ以上、仲間が目の前で苦しむのは耐えられない。


「俺は大丈夫だ。龍幻にも許可はもらってる」

「……」


ああ、だからさっき白銀先生と。


「あとはお前が、っと、無理強いはだめだな」

「やるわ」


「!?」

「聞こえなかったの? やるっていったの」


「おまっ……。こんな数分で決めなくても」

「むしろ時間がないくらいよ。私たちがこうして会話してる最中だって仲間は怖い思いをしてる。だから、やるなら早く済ませて」


 覚悟ならとっくにできてる。

 私に迷う選択肢なんてない。

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