11話 リベンジマッチ2

 あれから数週間が経ち、学校にも慣れてきた。クラスには上手く馴染めてる自信はないけど、友達はいるし。


「炎帝さんって、クール美少女って感じだよなぁ」

「わかる! 炎帝さんと付き合えたら超幸せ!!」

「炎帝さんに釣り合う男って、相当スペック高いだろうな~」


「………」


 最近、男子の視線が気になる。なにやら、私の知らないところでわたしのウワサが……。


「闇華ってばモテモテ~! それで、クラスに気になる男子はいないの!?」

「私、誰かと付き合うとか考えたことなくて」


「闇華ほど美少女なら男選び放題じゃない!? もったいない~」

「それとも、闇華ちゃんはもう気になる男の子がいたりするの?」


「とくにそういうのはない、かな」


 高校生って恋バナ? とか好きよね。私は他人にそんな話をしようとは思わない。けど、これって私のほうが変?


 あれから壱流は1度も学校に来ていない。 体調は大丈夫かしら。白銀先生は毎日来ているようだけど、なかなか2人きりになる機会がなくて壱流のことを聞けずにいた。


 毎日ちゃんとご飯は食べているの? 総長として無理はしてない? 吸血鬼になって後悔は?

 ……こんなこと友達に相談することじゃない。壱流のことは常に頭から離れない。


「じゃあ、幻夢くんともなにもないわけぇ?」

「だから幻夢はそういうのじゃなくて」


「なぁ、聞いたか? また隣町に出たって」

「闇姫だろ? 知ってる。ウワサによると、めっちゃ美人らしい」


「なんでも既に10人以上の男に奢ってもらったとか」

「彼氏が何人もいるって話だろ?」

「俺の聞いた話では、お気に入りの男と毎日寝てるって」


「……」


 この教室で、闇姫という言葉を度々聞くようになった。


 いまだに偽闇姫の手がかりは掴めていない。隣町に行くべきなんだろうけど……。


 偽闇姫に仮に会ったとしてなにを言えばいい?


 『悪さをするな』『本物の闇姫は私です』

 そんなことを言って偽闇姫が悪事をやめるとは思えない。


 恋人が何人もいるとか男に奢らせてるとか、私が闇姫だった頃そんなことをしたことは1度だってないのに。


 闇姫のイメージがどんどん悪くなっていく。私の知らないところで闇姫の名前が汚されていく。多分、私はそれが許せないんだ。


 闇姫は幻夢や他の舎弟と築き上げてきたものだから。私が闇姫を卒業しても思い出は私の中にある。胸の奥にまだ残ってる。あの頃は楽しかった。


 放課後


「こっちに闇姫がいたってよ!」

「マジで!? 一瞬でも見れたらラッキーだよな!」


「……」


 なんで私、隣町なんかにいるんだろ。男たちのあとをつけて気がつくとここに来ていた。自然と足が進んでしまっていて。


 もうすぐ日が沈む。それは『一般人』にとって危険な時間。


 しーん。あたりが静まり返る。さっきまで話していた男たちの声が聞こえない。


「まさか見失……」


「君、こんなところでなにしてんの?」

「女の子がこんな時間に1人とか危ないよ。もしかして家出?」


「ちがっ……!」


 厄介なのに捕まってしまった。


「よく見ると、めちゃくちゃ美少女だねぇ」

「今から俺たちと遊ばない?」


「用事があるので」

「そんなこと言わないでさ~。ねっ?」


 肩に手をおかれた。はっきりいって不愉快。こんな時間に出歩く私も悪いけど、やっぱりこの場所は以前となにも変わってない。


 ここは『闇崎』

 私が闇姫になる前から治安が悪い。夜は不良やヤクザがいて当たり前。喧嘩は日常。吸血鬼だって多くいる場所。

 きっと『彼ら』にとっては居心地がいいのだろう。


「胸はすこーし物足りないけど、君が俺たちを満足させられるならこれくらいは出すよ?」


 男の1人は私の目の前に自身の財布をチラつかせる。


「ほんと……反吐が出る」

「君、いまなんて?」


「聞こえなかったらもう一度いうわ。あなたたち、さっきから不愉快……っ!?」

「これは俺様の女だ」


 後ろから不意に抱きしめられた。この声、どこかで……。


「お、お前は天羽あもう狗遠くおん!!」

「ウソ、だろ……。すみません。俺たちは帰りますんで」


 さっきまでの威勢がない。ガタガタと震えてる2人。


「あ? 俺様のテリトリーで好き勝手暴れておいてタダで帰れると思うなよ」

「ちょっとまって」


「なんだ」

「その人たちはこのままかえしてあげて」


「てめぇは相変わらず甘いなぁ。よくそれで無事で入れたもんだ。あぁ。今はその名も捨てて平和な世界で生きてるんだったな」


 この人、私が闇姫だったときを知ってる?


「低俗なゴミは見逃す。代わりにてめぇが身体で払え。ほら、こっちに来い」

「ちょっ。まっ……」


 腕を強引に引っ張られ、無理やり歩かされる。身体で払うって……。私、なにも言ってないんだけど。


「数年ぶりの再会とはいえ変わってないな、闇姫。壁みたいな貧相な胸は健在ってとこか」


 ある部屋に連れ込まれた。そこにあるのは二人用のベッドと大きなソファーのみ。


「っ……! なに、するの」


 いきなり胸を触られた私は彼の手を振り払う。


「あそこにいたのがただの不良だからよかったものの、俺様のようなヤクザだったら、てめぇはあっという間に襲われてたぜ」


 俺様のよう、な……?


「なにボサっと突っ立ってんだ? ほら、ベッドに来い」

「ふざけないで。……私は助けてなんて頼んでない」


「ほぅ。その強気な性格も変わってないのか。数年も経てば忘れるものなのか? てめぇにとって俺様はその程度のものだったのか?」

「あいにく闇姫の敵は多いから。いちいち名前なんか覚えてたらキリがないもの」


「だったら思い出させてやる。闇姫、てめぇは今日俺様の女になるんだからな」


 その言葉、聞き覚えがある。


「ふっ」

「なにを笑ってる、闇姫」


「ごめんなさい、忘れてて。やっと思い出した。あなたは壱流に紅い月を打ったあの時の総長」

「思い出してくれて光栄だなぁ。だが、壱流ってのはどこの馬の骨だ?」


「まさか、覚えてないっていうの?」


 そんなこと許されていいはずがない。壱流はあなたのせいで今も苦しんでいるのに。


「俺様も長年総長をやってるとなぁ、敵が多いんだよ。いちいち名前なんか覚えてたらキリがねぇだろ? なっ、闇姫」

「ゲスが。……っ!?」


 殴りかかろうとした次の瞬間、私は気がつくとベッドに押し倒されていた。今の一瞬でなにが起きたっていうの?


「てめぇの言葉をそのままパクったんだよ。なにか悪いか?」

「ふざけないで。貴方が壱流にやったことが許されると思ってるの!? 忘れたとは言わせない。あの日から壱流は……」


「忘れてないさ。あれは俺様にとってのおもちゃ。それで壱……なんとかは元気にしてるか?」

「本当にどこまでもゲスなのね、あなたは」


「お褒めの言葉ありがとよ」


 上から人を見下す態度。どうして会った時に思い出さなかったの? 私のバカ。


「それよりも今は自分の心配をしたほうがいいぜ。身体で払ってもらうっていったの嘘じゃないからな?」

「このくらい……」


 ビクともしない。なんでなの?


「こうして見ると、いやらしい身体をしてるんだな」

「なっ……!」


 無理やり足を広げられる。敵の前でこんなみっともない姿…。羞恥心よりもプライドが壊れる音がした。


「自分の弱さを嘆く必要はない。闇姫、てめぇは今でも十分に強い。だが、それは人間同士での話だ」


 いつの間にか目が赤くなってる。


「俺様が吸血鬼だってことはてめぇも知ってることだろ。なにを今さら驚く必要がある?」

「いいから離して」


「闇姫は最強なんだろ? だったら見せてみろ」


 強くなろうと覚悟を決めた矢先、一番会いたくない人に再会するなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る