第84話 聖女たちの加護と制約

「まあ、中隊長へ昇格されたのですね!おめでとうございますリューク卿」


「むすー」


「ありがとうございます、聖女様」


「むすすー」


「ふふ、リューク卿の論功を考えれば当然ですね」


「ふむ。確かに言われてみればそうですね!…ローゼンシア、どうした、そんなむくれて?」


「別にーなんでもないですー…」


 昼。王国の軍事演習場にて、僕と聖女とローゼンシアはカルゴアと人類軍の軍事演習の様子を見るべく、こうしてやって来た。


 そこには次の戦争に備えて軍事教練の真っ最中の軍の姿があった。


 特に今回の戦いより、小銃の利用と魔導騎兵という新しい兵科を導入するということもあってか、従来とは異なるタイプの訓練をしている。


 僕自身も兵を指揮する立場になった以上、演習には顔を出す必要がある。もっとも顔を出す以上のことは基本的にしていないが。


 当然である。なにしろ僕は加護を使わないと戦えないのだ。


 最近はなんか体がムキムキし始めているが、この程度の腕力ではさすがに魔族とは戦えないだろう。


 …なんでムキムキし始めているのかは謎だが、それは今はいい。


 いくら演習とはいえ、加護を見せるわけにはいかない。なにしろ加護の発動には寝取られが必須なのだ。確かに演習は大事ではある。しかし、最愛の女性を傷つけるような真似はできない。


 一応、ルクスの方で寝取られのため専属の部隊を作るという案はあったらしい。


 しかし無理だった。なにしろこの加護の発動条件は、相思相愛だ。命令で義務的にやっても、本人が内心嫌々では加護は発動しない。


 なんというか、いるのだ。この世界には、寝取られの神が。たぶんその寝取られの守護神が、そういう命令という形の寝取られは寝取られ認定しないと語りかけている、そんな気がするのだ。


 だからこそ、僕は口説かなければならない。加護とか抜きにして、本当に僕のことを好きになってくれる女性になってもらえるように、僕自身が男の魅力を磨いて女性を口説くしかない。


 そして口説いた女を今度は間男に渡して寝取られる、そうしてはじめてこの加護は発動する。


 まったくふざけた話である。どういうことなのだろう?自分で言ってて意味不明である。


「…あれが魔導騎兵ですか。二人乗りですね。重くないのでしょうか?」


 むくれるローゼンシアを意に介さず、聖女ルイはその細い指を演習場に向ける。


 そこには魔導士を後ろに乗せる二人乗りの騎兵がいた。


「通常の騎兵と比べて遅くなるのは仕方のないことです。あくまで弓騎兵の代わりとして即席で作られた兵科ですので」


「むすむすー」


 演習場を一緒に歩き、新しい兵科について話す僕たち。もっとも、一人はむくれているだけなのだが。


 もちろん、ローゼンシアの性格からして本当に嫌なら勝手にどっかに行くであろう。そうでなく、あえてここにいるということは嫌なわけではないのだろう。


 まあ目の前で聖女を口説いたのは良くなったかもしれないが。


 このむくれた反応は僕に対する意趣返しだと思って、受け入れようと思う。


「…動きますね。どんな戦い方をするのでしょう?」


 聖女ルイは首を傾げつつ、遠くより魔導騎兵の動きを観察する。やはり聖女といっても戦場で出るタイプの聖女なだけに、新しい兵科に興味があるのだろう。


「…魔導士は一般的に体力がないですからね。騎乗訓練をするぐらいなら魔法の練習をした方が良いと考える人がほとんどなので、二人乗りはどうしても避けられないですね。ただ二人乗りも悪いことばかりではないですよ?」


「あら、そうなのです?」


 聖女は演習を観察しつつ、ちらりとこちらを見ると、再び魔導騎兵の方を見る。


「ほら、見てください」


「全員、続け!」


 演習場の遠く…魔導騎兵を指揮する指揮官が号令を掲げて先頭を走る。それに続くようにして後続の魔導騎兵が30ほど、土煙をあげながら演習場を走っている。


「…魔導騎兵なのに突っ込むのですか?」


「はは、まさか。あれは横に逸れるのです」


 僕の言葉に合わせるように、魔導騎兵の先頭が方向を右へと転換していく。


「目標に対して右に進め!」


 やがてその指揮官の動きに合わせるように後続の魔導騎兵の集団が右に逸れていく。


 そして、指揮官が号令を上げる。


「火球斉射!」


 その号令に合わせるようにして、右に逸れることで横一列になっていた魔導騎兵の集団から一斉にファイアーボールの魔法が放たれる。


「「「ファイアーボール!!」」」


 魔導騎兵の後ろ側に乗る魔導士たちが一斉にファイアーボールを放つことで、空気の温度が上昇。赤く輝く炎の玉が大量に放たれ、そして目標に命中した途端に爆発が起こる。


 ドドドーンという連続した破壊音が魔族を模した丸太に命中し、一気に破壊されていく。


 火球弾が命中したことで爆炎が上がり、もくもくと黒い煙があたりを満たす。やがて風が吹いて煙を散らしていけば、そこには黒い燃えカスとなった丸太の残骸があるだけだった。


「騎兵を横に向けて一斉に火魔法を放ったわけですね。確かにこれなら…そうですね、魔術師の一団を高速展開して魔族を殲滅できますね」


「なにしろ二人乗りですからね。前方には撃てないので隊列を横に向ける必要があるのですが、そのおかげで広範囲にわたって一度に敵を殲滅できるのが魔導騎兵の利点ですね」


「…むすー」


 こいつ、人が真面目な話をしているというのに、まだ機嫌を損ねてる。しょうがないな。


 僕はすっと指を伸ばしてローゼンシアの顎を擦ってみた。


「ん💓」


 可愛い声が漏れた。ふふ、このくすぐり攻撃にいつまでもむくれていられるかな?


「ですが危険も多くはありませんが?特に最後尾の魔導騎兵は敵集団から逃げる時、追撃される危険があります…なにをしてるのです?」


「え?ああ、確かに追撃の危険性はありますね。ですが、ほら見てください」


「…」


「聖女様?ほら、追撃された場合を想定した訓練をしてますよ?」


「…ええ、そうみたいですね」


 冷徹なジト目を僕に向ける聖女ルイ。僕はさっとローゼンシアの顎から指を離すと、まるで何事もなかったかのように演習場を指さす。


 ふぅ、危なかった。あやうく聖女の目の前でイチャついているところを見られるところだった。


 一方で、演習場では今も真面目に訓練が行われている。いや、僕らも真面目に訓練を見守っているけどね!


「…むー、あ、そうだ」


 なにかローゼンシアの方から妙な言葉が漏れる。一体何をする気だ?


「…魔導騎兵が目標に対して背中を向けて走ってますけど、あれは逃げる訓練ですか?」


「もちろん撤退も重要です。でもそれだけでは…ん!」


 聖女ルイが演習場の方を見ている時、ローゼンシアが僕に密着すると腕を首に回し、僕の耳をハムッと甘噛みしてきた。


「…?どうかされました?」


「いえ、冷たい風が吹いて」


「ああ、まだ寒い季節ですからね」


「それより、見ててください。魔導騎兵が追撃を想定した目標に向かって攻撃しますよ」


「え?そんなこともできるのです?」


 僕の言葉に反応する聖女ルイ。彼女は再び演習場を見る。そのタイミングを見計らって、僕はローゼンシアの耳に口を寄せて、「今夜お仕置きだ」と伝えておいた。


「!…ふふ…楽しみにしてますね💓」


 そんなローゼンシアの言葉を聞きつつ、演習場を見れば、魔導騎兵の指揮官が号令を上げる。


「背後へ火球斉射!」


「「「ファイアーボール!!」」」


 すると、魔導騎兵は撤退をしながら背後へと魔術師が火球の魔法を放つ。赤い炎弾は背後へと殺到し、後ろにいた丸太へと命中して爆炎が上がる。


「逃げながらでも背後に攻撃できるのですね。これは…すごいですね。これなら撤退戦の危険性も下がりますね」


 本来、敵から逃げる撤退戦は厳しい戦いになるものだ。特にしんがりを務める最後尾の兵は背後から敵に攻撃される危険性が高いため、生存が危うい。


 しかし魔導騎兵は二人乗りをすることで操縦と攻撃を二つに分けているので、馬を操縦しながらでも背後に向けて攻撃ができる。


 これなら敵に追尾されたとしても魔法で迎え撃てるので、一撃離脱戦法がやりやすくなる。


 逃げながら背後を攻撃するというのは本来は高等技術なのだが、魔術師を背後に乗せて二人乗りにすることでなんとか解決できそうだった。


 ちなみに、魔術師が落馬しないように、乗馬している時はベルトで操縦者と魔術師を固定しているそうだ。では二人同時に落馬したらどうするのだ、という疑問もあるが、その時は運が悪いと諦めてもらうことにしてる。


「…弱点は近接攻撃ができないこと、ぐらいでしょうか?」


「そうですね。捕まったらお終いですね」


 そうだろう。なにしろ騎乗する体力すらないような魔術師なのだ。それこそ落馬して敵に捕まったら一巻のお終いだ。


「その時はどうするのです?」


「その時は、運が悪かったと諦めてもらいます」


「…そう、ですね」


 聖女としては不本意なのだろう。しかし戦争でまったく被害が出ないなんてあり得ないのだ。こればかりは仕方のないことだと割り切ってもらうしかない。


「魔導騎兵の役割はあくまで一撃離脱。攻撃を加えたらすぐに撤退させる。撤退をしている最中も、魔法を撃って追撃部隊を攻撃する、といったところですかね」


「…それなら最低でも2回は魔法を撃つことになりますね」


「逆に言えば、連続で2回火球弾が撃てる程度の魔力のある魔導士であれば誰でも魔導騎兵になれるとも言えますね」


「…確かに、それぐらいの能力の魔術師ならば、たくさんいますね」


 魔法は強力だが強力な魔術師の数は少ない。


 そもそも連続で2回しか火球を撃てない程度の魔術師では、戦争ではほとんど役に立たないだろう。


 なにしろ魔術師は体力がなく、騎乗もできない。そんな奴らを戦場に連れて行っても、効率の良い運用は難しい。


 その点、最初から騎乗の訓練を受けている軍人と一緒に二人乗りで騎乗させれば、運用については操縦者に任せるだけだ。魔術師はただ、撃てと言われたタイミングで撃ってくれれば良い。


 軍隊の訓練を受けてない、素人同然の魔術師ですら即席で魔導騎兵にできるのだ。


 確かに人間は重いが、大砲ほどではない。なにより魔術師ならば重い砲弾を持ち歩く必要もない。杖一本あればファイアーボールが撃てるのだから、大砲と比較するならよほどお手軽だ。


「…撤退が完了して以降にポーションを飲ませて魔力を回復すれば、何度でもできるのです?」


「その通りです」


「…できれば弓騎兵で同じことができれば良いのですが…」


「それは僕も思います。ですが魔族との戦争で弓は役に立たないですからね」


 もちろん、高いポーションよりも安い矢の方がよっぽど安上がりなのは僕だってわかっている。しかし、ケチったところで無駄なものは無駄なのだ。


 だったら高価であることは承知しつつ、効果の薄い弓騎兵を切ってコスト高の魔導騎兵を採用した方が良い。ハイコストハイパフォーマンスである。


「ちなみにですが、小銃による背後への攻撃はできないのです?」


「うーん。難しいですね。後方への攻撃は弓ですら難しいです。ただでさえ小銃は狙いが外れやすいですからね。できたとしても当たらないでしょ」


 もちろん、できるか否かで言えば、小銃でもできるだろう。しかし、できたところで命中せねば意味がない。


 なにより小銃の場合、次弾を装填するためにわざわざ筒の先端から鉛弾を詰め込む必要がある。とても馬上ではできないだろう。


 魔法の良いところは、攻撃範囲がデカいところだ。なにより魔術師が狙ったところに魔法が放たれるので、揺れる馬上であっても狙った通りに発射できるので命中しやすい。杖と魔力があれば次弾もすぐに撃てるというのも魔法の良い点だ。


 ホント、体力さえあれば完璧なんだよな、魔術師って。まあ貧相な体のおかげで体重が軽い分、二人乗りがしやすいというのもあるけどな。


「そう、ですよね。どれほど威力があっても命中しないと意味がないですよね」


「理解して頂けて助かります。教国でも魔導騎兵を採用されます?」


「…いえ、教国には現在、新たな兵科を追加できるほど人的な余裕はなくて」


 まあ、そうだよな。拠点のあるカルゴアと違って、教国の場合、避難民しかいないのだ。人材を増やしようがないだろう。


「ですが、そうですね。本来であれば戦力外であった魔術師を登用する道を作るというのは良い試みですね。教国でも検討したいと思います」


 聖女は真剣な面持ちで演習場を見つつ、なにか考え込む。人材こそ足りないが、どうやら良い刺激にはなったのだろう。


「…お役に立てましたかな?」


「え?あ、はい。ええ、もちろんですリューク卿」


「そうですか。それはよかった」


「…えっと。今朝の件ですが、私はどうしたら良いのでしょうか?」


 聖女はすっと視線を下におろして顔を伏せる。どうしたら良いのかわからないといった、途方に暮れた顔だ。


「どうしたら、というのは?」


「その、お恥ずかしながら、私はその、男女の機微のようなことはわかりません。かといって彼女のような振る舞いが正しいとも思えなくて…」


 ちらりと視線を寄越す聖女ルイ。その視線の先にはローゼンシアが鼻歌をうたっている。なんだか機嫌が良さそうだ。


 …うん、まあローゼンシアはこの際、無視しよう。


「リューク卿には感謝しております。私…姉のために協力してくれるというのであれば、私もすべてを差し出すつもりです。ですが、頭ではわかっていても、その、どうすればあなたのことを好きになれるのか、それがわからなくて…」


 なんというか、聖女の仮面が少しだけ外れているような、そんな気がする。


 今、目の前にいるのは先ほどまでのいかにも聖女といった女性ではなく、なんだか迷子にでもなった女の子みたいだった。


「うーん、その気持ちはわかりますよ」


「そうなのです?」


「もちろんですとも。僕だって他人の気持ちなんてわかりません」


 まあ加護が反応していないので、僕のことは好きではないというのはなんとなくわかっているのだが。


「だから僕は僕ができることをするだけです」


「…?えっと、それは?」


「教国を奪還してみせましょう」


「…本気ですか?それとも口説き文句ですか?もしも…」


「本気の口説き文句ですよ」


「え?」


「僕は女性のためならなんでもする男です。それであなたに好かれるというのでしたら、喜んで教国を奪ってきましょう」


「…それでも私があなたのことを好きになれなかったら、どうするのです?」


 そんな思いつめた顔をされても困るのだが。この人はもしかして、すごく責任感が強いのかもな。


 本当はお姉ちゃんのことを助けたいのに、教国のことも見捨てられず、動けない。


 考えることが多すぎて、そのせいでなにも考えられない、そんなタイプかもしれない。


「その時は、もっと好かれるように努力するだけですよ?」


「…そんなに頑張っても報われないかもしれないですよ?」


「それでも構いませんよ」


「なぜです?」


「それはもちろん、好きでやってることですから。僕がやりたいと思って勝手に聖女様を口説いて、あなたの助けになることを勝手にやってるだけです。だから聖女様が僕のことを嫌いになるのも自由ですし、好きになるのも自由です」


「…ワガママですね。羨ましい限りです」


「いいじゃないですか、ワガママで。…聖女様がワガママになったところで、誰も文句なんて言いませんよ?」


「そうでしょうか?…いえ、そうかもしれないですね。みんな、忙しいですから」


 まったくだ。世界が滅びかけている。そして僕が魔王を斃して希望なんて与えてしまったせいで、演習場にいる軍人たちはみな必死だ。


 生きて生きて、必死に生きて、希望に向かって頑張ってるせいでみんな忙しい。僕らが好き勝手ワガママに振る舞ったところで、今なら誰も気にしないだろう。


「…教国の枢機卿を処刑しました」


 聖女は演習場を見守りつつ、ぽつりと零す。


「ええ、そうらしいですね」


「彼は私たち聖堂騎士団を囮にすることで、魔族軍が包囲する聖都より逃亡を図りました。その時に門を開いて聖都へと魔族をわざと侵入させました。これは許されざる罪です」


 …え?そんなことしてたの?それはまあ、処刑されて当然か。


「ですが私は、そんなワガママな振る舞いを少しだけ、羨ましいとも思いました。私もそんなふうにできたら、お姉ちゃんを助けられたかもしれない、そう思ってしまいました」


 …そう、なんだ。まあそういうこともあるか。


「聖女なのに国を裏切るなんて、卑劣な奴と罵りますか?」


「いえ?聖女様も僕のことスケベ野郎って罵ってみます?」


 うーん。聖女様みたいな高貴な方に罵られるの、悪くないかもな。


「ふ、ふふ。そうですね。今度試してみましょうか?」


「それは、楽しみですね」


 聖女ルイの顔が少しだけ笑顔になる。その笑顔は、たぶんだが、嘘偽りのない、本物の彼女の笑顔だった気がする。


「…私も…姉と一緒にすべてを捨てて逃げれば良かった。そうすれば…お姉ちゃんを見捨てずに済んだのに…」


 それは…結果論な気もする。


「聖女様はその時、最善を尽くされたではないのですか?」


「ええ、最善を尽くしました。ですが、最善の結果にはなりませんでした。…最善の行動が必ずしも最善の結果になるとは限らないのですね」


 ――最悪の行動が最善の結果を齎すこともあるなんて思ってもみませんでした、と聖女は語る。


「でも諦めたくないです」


 聖女は続ける。


「私は、諦めたくないんです。姉が、お姉ちゃんが死んでるなんて認めたくない。可能性が低いことはわかっているのです。でも諦めたくない…ふふ、そうですね。リューク卿、私、実はワガママだったみたいですね」


 そう言って彼女は僕を見る。


「姉の加護メギド・ハンズは神の見えざる手と呼ばれています」


 へえ、そうなんだ。それって秘密じゃなかったっけ?言って良いの?


 そんな僕の疑問を無視するように続ける。


「メギド・ハンズは半径10メートル以内であれば、あらゆる敵をその怪力で殺すことができる近距離最強の加護です」


 そ、そうなんだ。それは確かに強力だな。


「ですが、強力な分、制約も強いです」


「まあ、そうでしょうね」


 きっと僕の加護みたいに、いやらしい制約があるのだろう。


「姉が加護を一回使用するにつき、骨が一つ折れます」


 …いやらしい制約ではなかったようだ。なんだか物語の主人公みたいな制約だな。


「加護の制約による骨折は聖痕の扱いになりますので、治癒魔法や魔法薬、さらには自然治癒では治せません。例外は私の治癒の加護のみ」


 …え?


「姉の加護は無敵です。あの加護がある限り、相手が魔族だろうと姉が負けることはありません。だから姉が川に落ちた程度で死ぬなんてあり得ません。ですが、加護を使用すれば治癒不可能の骨折が起こる」


 ――人間の骨の数を知っています?と聖女は語る。


「206個だそうです。カリスが連続で使用できる加護の回数も206です。もちろん、治癒ができないので折れた箇所より激痛が発生するでしょう」


「それは…」


 残酷すぎないか?戦えば戦うほど骨が折れ、苦しむではないか。僕のエヌティーアールの加護とはえらい違いだ。いや、僕も苦しんでるけどね。


「私がカリスを楽にしたいと言った理由、おわかりですか?カリスが戦い続ける限り、姉は…お姉ちゃんは骨が折れる痛みに苦しむことになる。これ以上苦しませたくないから私はお姉ちゃんを見捨てたのです。…でも状況が変わりました」


 ――姉は必ず助けます、たとえお姉ちゃんが痛みに苦しんでいたとしてもです、と聖女は云う。


 とくん…僕の中にある加護が少しだけ、反応した気がする。だがまだ条件を達成するには足りない、そんなが気がした。

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