英雄の加護 彼女は絶対に寝取られる

カワサキ萌

プロローグ

第1話 プロローグ

 2年と5ヶ月前。大陸北部の魔族領よりアデラ山脈を超えて複数の魔王の軍勢が人類の住まう土地への進軍を開始。人類への攻撃を始める。


 魔王軍の進行により人類側は抵抗するも、その圧倒的な武力に抗えず、都市は陥落。やがて北部のドルド公国が陥落。以降、ドルド公国は魔属領となる。


 魔王軍による支配は苛烈極まりないものだった。


 かつては繁栄を極めていたドルド公国は魔族軍によって蹂躙され、そこに住まうもの達も過酷な支配を受けることになる。


 逆らうものには死を。


 男は奴隷に。


 女は家畜に。


 当初こそ抵抗するものはいたが、五人の魔王が一人、リューゲールの精神魔法により、やがて人間の完全なる服従が完了する。


 リューゲールの精神魔法によって支配された人間は魔族への絶対なる忠誠を誓うことになる。彼らは自我を持たず、魔族に恭順し、魔王軍のためなら命だって捧げるだろう。


 そしてこの精神魔法は解くことができず、殺す以外に解放することはできない。


 魔王軍の侵攻が進めば進むほど、リューゲールによる精神魔法により魔族に忠誠を誓う人間奴隷が量産。人類は魔族だけでなく、同じ人間とも戦わなければならくなる。


 ただでさえ圧倒的な戦力差があることに加えて、人類さえ味方につける魔族軍の非道なやり方に、人類軍は成す術がなく、魔王軍の侵攻により次々と国家が陥落していった。


 武勇に優れた軍事国家ドウラン、壊滅。


 高名なる魔術国家、ディストグルフ、壊滅。


 亜人による連合国家、ユズトアル、壊滅。


 悪逆非道な犯罪都市、ステゴルゴ、壊滅。


 様々な国や都市、社会があった。中には滅んだ方が良いような街もあったかもしれない。しかし、魔族軍によって蹂躙された土地にはもはや人類の営みは無くなり、そこには血と肉の死臭しか残らなかった。


 開戦した当初こそ魔族軍と人類側の戦力との間にそれほど大きな差はなかっただろう。しかし魔術国家ディストグルフが滅ぶことによって精神魔法に関する知識と技術が喪失。リューゲールの精神魔法に対抗する術を失い、奴隷となった人類の解放ができなくなった。


 魔族軍は人類を精神魔法によって奴隷化することで、軍事力の強化、そして拡大を図ることで、戦力を増強。魔族軍が勢いを増すごとに戦力は増大していた。


 一方で、人類軍はただただ戦力を減らす一方だった。


 リューゲールの精神魔法が解けない以上、たとえ奪われた都市を奪還したところで、そこに住まう人間を味方にすることができず、戦力が減ることがあっても増えることはなかった。


 魔族に囚われたら最後、たとえ人間であっても殺すしかない。


 精神魔法によるスパイや反逆、裏切りの可能性がある以上、一度でも魔族側の手に落ちた者を味方として迎えることはできない。


 増大する魔族軍、疲弊する人類軍。戦力差は一方的に開き続けるばかりで、勝ち目はまったく見えなかった。


 商業国家、ミルアド、壊滅。


 傭兵国家、ジンライド、壊滅。


 農業国家、ランバール、壊滅。


 次々と国家が滅ぶことで、やがて人類軍は兵士だけでなく、補給すら満足に維持できなくなるようになった。


 人類はようやく気づいた。魔族は人類を滅ぼすつもりなのだ、と。


 中央の小国家、ブルゴート、壊滅。


 聖騎士たちの住まう国、聖マツリガント教国、壊滅。


 平和を愛する国、モルツール、壊滅。


 魔族軍は強かった。そして人類軍はますます弱体化していった。圧倒的な戦力差の前に人類が抗することができず、人類の終焉は刻一刻と迫っていた。


 もはや人類に後はない。南方の小国家、カルゴア。人口260万人。平時における動員可能な兵員数2万人、動員限界12万人。


 これが人類における最後の国である。カルゴアが滅ぶ時、人類は終わる。


 そして現在。


 五魔王が一角、ギュレイドスが百万の軍勢を引き連れ、カルゴアへと向かっていた。


 人類の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。

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