38.魔法も種類が多いみたいだ

 ロンドさんの遺品として持ってきたのはもちろん本だけではない。骨も確認できる分は全部持ってきたし(中川さんが鑑定魔法を駆使した)、鎧と剣も持ってきた。

 それもこれも便利なリュックがあったからである。

 なんでも入るとわかってからは本当に遠慮なく詰め込むようになってしまった。おかげでこのリュックの中には中川さんのテントと寝袋まで入っているのだ。


「おお……これほどあれば実体化できる時間も増えるだろう」

「あら、私は今まで通り短い時間でもかまいませんのよ?」

「ナリー、そんなつれないことを言わないでくれ」


 ふふふ、とナリーさんが笑む。


「だってこの人ったら、四六時中私の側にいるのですもの。さすがに疲れてしまいますわ」

「それは……確かに」


 中川さんが苦笑した。

 四六時中一緒にいると聞いて、俺はビクッとした。俺も中川さんとは四六時中一緒にいると思うんだけど? 俺の膝にいるミコがキュウ? と首を傾げて鳴いた。かわいい。

 カイも中川さんの膝でくつろいでいる。いずれ俺も膝枕とかしてもらいたいなぁ。でも膝枕って、してる方はたいへんなんだっけ? って俺はいったい何を考えているんだ。


「ナカガワ様もわかります?」

「失礼ですけど、ロンドさんのずっと一緒ってお風呂とかトイレとかもってかんじがして……」

「そうなんですの! お風呂はともかくトイレは、ねえ」

「そうですね」


 お風呂!? と耳がダンボになってしまいそうだった。なんか恥ずかしくてミコをなでなでする。ミコがいてくれてよかったと思った。


「やっぱりお風呂、あるんですね」


 中川さんがポツリと言った。


「ええ、うちは丘から水が引けますから。でもこの国は寒いから、あまり入浴の習慣もないのだけど。水も豊富とは言えませんしね」

「そうなんですね」


 ジャンさんのところはお風呂ではなくサウナだった。それはそれでいいんだけど、やっぱ湯舟に浸かりたいよな。


「お湯を沸かすのってたいへんですよね」

「そうでもないわ。うちのメイドは火魔法が使えるし」

「それならいいですよね」


 ちなみに俺たちもドラゴンさんから火魔法を継承してもらっているので一応使える。おかげで湯を沸かすのも大分楽になった。


「そういえば、この国って水魔法とか使える人っているんですか?」

「私は使えますよ」


 ナリーさんがきょとんとして答えた。うわあ、やっぱいるんだ。


「水魔法って、具体的にどんなことができるんですか?」


 中川さんが聞く。


「そうねえ、私は魔力量があまり多くないから……困った時にこれぐらいの器に水を満たせるぐらいかしら」


 これくらいと手で示した大きさはだいたい小ぶりの洗面器ぐらいだった。


「魔力量によるんですね」

「そうね。私では大したことはできないけど、魔力が多い人なら浴槽を満たすことも可能なのではないかしら。……もしよかったら試してみる?」

「いいんですか?」


 中川さんが目を見開いた。


「対価なしではだめだ」


 それに待ったをかけたのはロンドさんだった。


「あなた!」


 もちろんこちらもただで継承してもらおうとは思っていない。俺たちが提供できるとしたら、ゴートやクイドリ、そしてネズミモドキの肉かヤクの毛皮ぐらいだろう。ナリーさんには長生きしてほしいから全部差し上げてもいいぐらいだ。


「こんなにたくさん運んできてくださったのに、何を図々しいことを言っているのですか!」

「だ、だがなナリー……魔法というものは……」


 ロンドさん、たじたじである。いくら神様といえど奥さんにはかなわない。


「山田君、お肉とかお渡ししてしまってもいいわよね?」

「うん。ゴートだけじゃなくて、クイドリとネズミモドキの肉もいいんじゃないかな。確かネズミモドキは魔力が増えるし。ヤクの毛皮もあるし」

「さすがは山田君ね!」


 中川さんが本当に嬉しそうににっこりした。かわいい。


「そんなにいただけませんわ!」

「保管する手段があれば、置いていけるだけ置いていきますよ。魔力は増えた方がいいでしょうし」

「保管、ですと肉は凍らせておけばよろしいでしょうか?」


 メイドさんがおずおずと申し出てくれた。


「はい、もし凍らせることが可能でしたら……」

「では私が行います」


 どうやらこのメイドさん、氷魔法を使えるらしい。

 そんなわけでナリーさんからは水魔法、メイドさんからは氷魔法をそれぞれ継承してもらった。それにしても、水魔法と氷魔法って別なんだな。同じじゃないのかなって勝手に思っていた。

 一応俺は状態保存魔法をテトンさんからいただいて使えるけど、氷魔法はほしかったからほくほくである。これでいつでも冷たい物が食べられる!


「ありがとうございます! とっても嬉しいです!」


 中川さんも俺も無事魔法を継承することができた。一応継承してもらっても定着するかどうかはその人次第らしいとは聞いている。魔力量が少ない人は継承してもらっても定着しないことが多いそうだ。

 やっぱいろいろ食べてるから俺たちの魔力量って多いんだな。

 メイドさんがお昼ご飯を調理してくれるというのでお言葉に甘えさせてもらった。ミコとカイには俺たちでヤクの肉を切り分けて食べさせる。さすがにナリーさんにヤクの肉は上げられない。能力が一気に上がってしまうから危険なのだ。

 おいとまする際に、ロンドさんには感謝された。


「これから南の国へ向かうのであったな」

「はい。一度山の上に戻ってからなので、すぐではありませんが」

「では神託をしておこう」

「……それって、どんな神託ですか?」


 中川さんがスッと目を細めて聞いた。


「うむ……南の国の者は全て南の国へ返すようにまた神託をしよう。南の国へは、勇者が参る故言うことを聞くようにと……」

「言うことを聞くって……なんかそれは」


 神様による強制ってのはいかがなものか。

 話を聞くぐらいに留めてもらったけど、本当に大丈夫かなと少し心配になったのだった。



次の更新は、13日(土)です。よろしくー


本日発売日です!

前の話で宣伝していますので是非読んでやってください。

お迎えいただけると嬉しいな!

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