39.そろそろ山に戻ります

 ナリーさんの館を辞して、オオカミと合流した。オオカミは丘の麓の茂みの辺りでくつろいでいた。

 なんだか目もよくなっているみたいで、けっこう遠くまで見渡せるようになった。だからといって手元が見えづらいということもない。視力がよすぎると近くの物にピントが合わないなんてことを聞いたことがあるが、そんなことはなかった。

 森の生き物とか、山の生き物を食べていると能力がどんどん上がっていく。それは野生の生き物を狩って食べた時も同様だ。ヤチョウの肉でも能力は上がるらしくて、ジャンさん夫妻も喜んでいた。

 でも家畜の肉を食べても能力は上がらないみたいなんだよな。理由がわからないでもないんだけど、基準が少し曖昧だと思う。


「お待たせしました。肉、食べますか?」

『もらおう』


 オオカミは嬉しそうに喉を鳴らした。ヤクの肉を切り分けて、ブロックをオオカミに出した。

 俺たちの首に巻きついているミコとカイが反応した。さっきあげたばかりなのにと苦笑してしまう。


「ミコ、食べるか?」


 キュウ、とミコが嬉しそうに鳴く。小間切れにしてあるヤクの肉があるので、それをミコとカイに出した。ミコはご機嫌で俺の頬をぺろりと舐めてから地面に降りた。はー、現金だけどうちのミコさんがとてもかわいいです。

 みなが食べているのを見守りながら、少し魔法の練習をしてみた。

 器に水を満たすイメージで水魔法を使う。


「わわっ!?」


 だばーっと水が木の器から溢れてしまい、慌てた。


『それは水魔法か』

「はい。加減がどうも……」


 オオカミに聞かれて頭を掻く。


『ふむ。ほんの少し魔力を出すようにすればいいのではないか?』

「その魔力の調整が難しいんですよね」


 魔法なんて使ったことないしな。自分の魔力というのにもあまり気づけていない。


「ぎりぎりっ」


 中川さんが器に水を満たす。満杯になってしまったがこぼれてはいない。やっぱ俺ってやることがおおざっぱなのかな。

 そんなことをしているうちにオオカミとミコたちが食べ終えたので、洗浄魔法をかけてから移動することになった。ミコとカイはしきりに毛づくろいをしている。


「オオカミさん、お願いします」

『うむ。どの程度の速さで戻ればいいのだ?』

「そうですね……あとは戻るだけですからほどほどの速さでお願いします」


 中川さんがあいまいな返答をした。時速何キロとか測れないししょうがない。


『承知した。なにかあれば言うがよい』


 オオカミの背に乗ってしっかり掴まったことを確認してから、俺たちは風になったのだった。



「は……速い……」


 王都と山の中間ぐらいの位置で、オオカミはやっと足を停めた。日が落ちてきた頃である。


『今日中に山に戻ることもできそうだが、どうする?』

「……一晩休んでいきます」


 さすがにずーっとオオカミに掴まって移動するのもつらい。中川さんはピンピンしているが、俺は三半規管がおかしくなっていそうだった。


「山田君、大丈夫?」


 中川さんに心配されて、「大丈夫」と答えた。


「でも少し休ませてほしいかな……」

「そうね。休みましょ」


 ペットボトルの水を飲んで、ちょっと落ち着いた。すぐそこは林だ。今日も林の中で野宿である。前回林の中で作った寝床用の台はリュックに入れてあるから、今夜も快適に寝られるだろう。ホント、四次元〇ケットなリュックが便利すぎる。


「……よくなりました」

『林に入るぞ』

「はーい」


 足を踏み入れてしばらく中へ入っていけばお約束通りクイドリが襲ってきた。中川さんは弓で、俺は石で、オオカミはまんま襲い掛かって。しかも今回は四羽目まで襲ってきたからミコとカイが跳んで噛みついた。

 カイは羽に噛みついたが、ミコはしっかり狙いを定めて抱き着き、その喉笛を食いちぎった。うちのイタチはやっぱ最強だと思います。かわいいけどなかなかに怖い。


「大猟ね!」


 中川さんがとてもいい笑顔で言う。


「そうだね」


 中川さんが思ったよりワイルドでよかった。

 水魔法と洗浄魔法のおかげで解体もとても有意義だった。やっぱ水って大事だよな。もちろん気軽に飲むならペットボトルが一番だ。

 今日はまだ水筒のチェックをしていなかったので、中身を確認することにした。

 中川さんとミコ、それにオオカミまでもぐいぐい近づいてくる。カイは中川さんの首に巻きついてこちらをじーっと見ていた。

 さて、今日の調味料はと。

 水筒を傾けて出てきたのは、小さい四角のパンみたいなものだった。


「クルトンか……」

「これが調味料っていうのも面白いわよね」


 スープに浮かべるとおいしいんだよな。クルトンだと知って、ミコ、カイ、オオカミは興味をなくしたらしい。基本肉食だもんな。でもミコたちはポテチは好きなんだよな。そこらへんがよくわからない。

 肉を焼いてスープを作り、それにクルトンを浮かべた。贅沢だなと思う。


「山の上でお風呂とか作りたくない?」


 中川さんが首を傾げて聞いてきた。


「うん、がんばろうか」


 やっぱ日本人なら風呂だよな。俺も大きく頷いて即答したのだった。



次の更新は、17日(水)です。よろしくー

誤字脱字などの修正は次の更新でします


書籍、読んでいただけたでしょうか? とても読みやすくなっていますし、ミコさん成分マシマシですので楽しんでいただけると嬉しいです!

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