4.まずは森の際へ移動しよう

 移動日の朝、女性陣が朝ごはんの支度をしている間に布団などをむりむりと俺のリュックに詰め込んだ。

 それなりにでかいリュックとはいえ、ホントどうなってんだよと思う。三家族分の敷布団と掛け布団が入るとかありえねーだろ。

 っていうツッコミは今更か……。

 遠い目をしていたら、首に巻きついていたミコがネックウォーマーからするんと顔を出し、俺の鼻を甘噛みした。


「うぉうっ!?」


 齧られることはなさそうなんだけど、びっくりするから止めてほしい。


「なんだよ、ミコ。怖いじゃんか」

「山田君、準備終わったー?」


 部屋の外から中川さんの声がかかった。


「あ、うん。終わったよ、確認してくれ」

「はーい」


 ミコはまだ顔を出したままである。俺はミコの頭を優しく撫でた。


「あ、ミコちゃんだ。おはよー」


 中川さんが部屋に入ってきて、ミコの姿を見て破顔した。ミコがククククッと鳴く。返事をしたらしい。

 中川さんは狭い部屋の中を見回した。


「うん、忘れ物もなさそうね。少なくとも春までは森で過ごすことになるのよね……」

「そうだな」

「なんか冬の間に壊れちゃいそう……」

「そういうこともあるかも」


 あんまり風が当たらないところに作ったつもりだけど、山の上の方から吹きおろしてくる風はかなり冷たくなっている。しかも寒くなるに従って風も強くなるようなことをドラゴンから聞き、ここにはいられないなと思ったのはつい昨日のことだ。

 テトンさんたちもそれは初耳だったらしく、青ざめていた。


「早く森へ移動しましょう!」


 とケイナさんに言われてしまったほどである。ちょっと落ち着いてほしい。

 聞かないと教えてくれないから、気になったことはその都度聞くしかない。つってもこの世界のことはほとんど知らないから、何を聞いていいかもわからないんだけど。

 テトンさんたちには、朝飯にもヤクの肉を少しずつ食べてもらった。


「ゴートよりもうっまいんだよなー。兄ちゃんねーちゃんありがとー!」


 ムコウさんの息子のチェインはとても嬉しそうだ。


「食べ終えて少ししたら手を握ってみてくれよ」

「はーい!」


 飛んだり跳ねたりして身体の感覚を掴むのもいいが、自分で自分の手を握る方がわかりやすい。俺は左と右で握力が十違う。そのせいか握った時明らかに力が違うのだ。強い方で握った方が手がとても痛い。だから毎日自分の手を握れば、昨日と比べてどれぐらい能力が上がったか測れるのではないかと思ったのだ。


「いってー!」

「じゃあもう握るのは止めてみようか」

「はーい」


 痛くなるようだと、そのうち手の方が潰れる危険性も出てくるし。力が強くなるっていうのも考え物だ。

 オオカミとの移動のスピードを考えて、今日はドラゴンに森の北側の際まで乗せていってもらうことになった。そこにテトンさんたちが住んでいた家がある。


「……正直あまり見たくはないんですけど」


 ケイナさんはそう言いながら困ったような顔をしていた。でもいずれ様子は見に行かなければいけないということで、今回先に見に行くことになった。

 ドラゴンが白い地に身体を伏せ、少しいらいらしたように聞く。


『乗ったか?』

「もう少し待ってくださいねー」


 全員をドラゴンの背に縛り付けるのはたいへんだった。本当は二回に分けて運んでもらおうかと思ったのだけど、みな一緒に移動したいというのでこういうことになったのだ。酔いやすい人はドラゴンの身体の上の方に。酔いにくい人は尻尾側にくっついてもらった。(俺は酔いやすい方だ)

 最後に俺も乗ってチェインを縛っている縄にしがみつく。俺は着いたらすぐに縄を外したりしないといけないからだ。けっこうひやひやするがしょうがない。

 ミコは俺の上着の内ポケットに入っている。ネックウォーマーの内側でもいいが、下手すると風圧で飛ばされる危険性もある。そんなわけで他のイタチたちも王都で作ってもらった袋の中に入ってもらっていた。六匹も狭い袋の中に入っているのはたいへんだと思うんだが、暖かい方がいいらしく意外とおとなしくしてくれている。その袋は中川さんに持ってもらった。


「いいですよー」

『では参るぞ』


 ちなみにオオカミはすでに山を下りて駆けていっている。先にミコの縄張りへ移動して、もしヘビもいたら伝えてもらうことになっている。それでもきっとドラゴンが着く方が速いんだろうな。

 飛べるってチートだ。

 ドラゴンが離陸する為にドタドタと走る。この助走をつける動きはなんだかなぁといつも思う。乗せてもらってるんだから言っちゃだめだ。

 やがて浮いたのがわかった。

 バサッと翼が動く。風魔法を使って飛び上がった後は、風に乗るのだ。


「わぁ……」

「口は閉じた方がいいよ。噛んだらたいへんだからね」


 チェインが思わずというように声を上げたのを窘める。チェインは慌てて口を閉じた。

 今回は森の方へ向かうから、いつもよりスピードを上げるらしい。そうしないとでかい鳥が飛んでくることもあるそうだ。

 でかい鳥ってどんなのだろう。クイドリもそれなりにでかいと思ったけど、ドラゴンに突撃してくるぐらいだからもっとでかいんだろうな。

 ホント、この世界は魔法がないと生きづらい気がする。

 あ、でも南の国に住んでいる人たちは魔法が使えないんだっけ?

 そんなことを考えながら、俺たちは風になったのだった。



次の更新は16日(土)です。よろしくー

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