王都へ行こう 三話

 ムコウさん夫妻が本気になって一週間が過ぎた。

 二人はそれこそ鬼気迫る形相でゴートを狩って狩って狩りまくったらしい。

 らしい、というのはアレだ。俺たちはドラゴンに手伝ってもらってヤクとでっかいネズミもどきを狩りに行っていたからだ。ヤクに関してはテトンさんも連れて行って攻撃してもらうようにしている。弓の腕はなかなかだから、矢じりの先に醤油を付けたものを使ってもらうといいかんじにヤクが倒れるのだ。

 あとはヤクが倒れるまでうまく逃げるだけである。ま、それがなかなか難しいんだけど。

 今はテトンさんに攻撃してもらって、俺が抱えて逃げるやり方で慣れてもらっている。


「……この、ショウユというのはとても不思議ですね。毒ではないのに魔物が死んでしまうとは……」


 テトンさんからすると未だに不思議なもののようだ。俺も醤油の製法とか知らないしな。大豆と小麦粉を使うってことぐらいしか知識がない。あとは発酵させたりしないといけないから作ろうと思ったらたいへんだろう。ランダムとはいえ調味料が毎日出てくる水筒に感謝だ。

 魔獣には他に焼肉のタレやソースなども効く。動物には濃い味の物を与えたらダメなんていうから、そういう味の濃い物が魔獣もダメなのかもしれない。


「他の動物には毒であっても、人間は食べられるってものは意外と多いんですよ」


 中川さんがにこにこしながらテトンさんに説明していた。基本的にテトンさんは解体要員として付いてきてもらっている。俺と中川さんの手際も大分よくなってきたけど、やはり元から猟師をやっている人にはかなわない。ある程度解体してもらって内臓と骨と毛皮、そして肉などを分けてからリュックにしまう。これ、ある意味アイテムボックスだよなと思う。


「やっぱり逃げるのが難しいですね。それと……長時間ここにいるのはきついです」


 テトンさんがぜえはあしだしたから、ドラゴンに声をかけて慌ててそこから下りた。みんなドラゴンの洞窟の辺りではもう高山病のような状態にはならなくなったけど、更に上はまだ慣れていない。俺たちも森の魔獣やヤクの肉を沢山食べているから大丈夫なだけであって、そうでなかったらドラゴンの住んでいるところでも危なかっただろう。

 森の魔獣に襲われた時は死を覚悟したものだったけど、生き延びてよかったよな。

 しみじみ思いながら、ケイナさんとムコウさんの子のチェインに手伝ってもらって肉を切り分けたりした。一部は当然ドラゴンの分である。そしてイタチたちの分と、残りは俺たちの分だ。

 ムコウさん夫妻とチェインにもまた少しずつヤクの肉を食べさせるようにしている。


「ゴートの肉もうまいけど、兄ちゃんたちが獲ってくる肉の方がうまいんだよね~」


 チェインがにこにこしながら言う。

 ムコウさん夫妻がゴートをかついで戻ってきた。


「チェイン、随分贅沢になったもんだな」


 聞こえていたのか、ムコウさんがそう言って苦笑した。


「あ、ムコウさん。運ぶの手伝いますよ」

「ああ、けっこう狩ったから頼む」

 俺は中川さんと山を駆け下りて、いつもムコウさんたちが狩っている場所からゴートを回収した。俺たちはもうあまり食べないけど、王都に持って行ったら売れるはずである。

 ゴートは倒された状態のままだから二頭ずつ担いで戻った。もうゴートを二頭担いでもびくともしない。人間離れしてきたなと思うけど、自分の能力の把握は必要だった。


「今だとどれぐらい一度に担げるんだろうなぁ」

「ヤク一頭ぐらいはできるんじゃない?」

「今度試しに担いでみるかな」

「私も試してみるわ」


 男女の筋力の違いなどもあるだろうけど、中川さんとはほぼ同じ物を食べてきているから、彼女も持てるかもしれないなと思った。

 ムコウさん夫妻はやっと自信がついてきたらしい。


「ロン様、どうか私共も王都まで連れて行ってください」


 ムコウさんがその夜覚悟したように言った。それにドラゴンが頷く。


「うむ。王都の先にある丘までは飛んでやろう」

「ありがとうございます」


 ムコウさん夫妻はもう頭を地面にこすりつけんばかりに感謝した。ドラゴンはそっぽを向いたが、相変わらず尾っぽだけは正直でどったんどったんと動いていた。


「よかった~。ブーツを買うにはやっぱり足型を作らないとね~」

「そうね。どうしても足型はあった方がいいもの~」


 中川さんとケイナさんがそう言って喜ぶ。

 チェインも一、二度ドラゴンの背に乗って飛んだけど、目をキラキラさせて喜んでいたから大丈夫だ。大人の方が慣れるまでに時間がかかるものみたいだ。


「明日は楽しみだねっ!」

「そう、だな……」

「そ、そう、ね……」


 ムコウさん夫妻は怪しいけど、ヤクの毛で作るいろいろな品物の誘惑には勝てなかったようである。

 ミコたちの夕飯にはいつも通りヤクの内臓と肉を出した。この時だけはイタチたちも俺たちの首から離れて食べに向かう。

 でもミコはいつだって一番早く戻ってくるのだ。


「おかえり。もういいのか?」


 ミコの血だらけの口の周りを布で拭き、布には洗浄魔法をかけた。ミコ自身にかけると怒られるのだ。でも拭いただけだからやっぱり生臭さはあるんだけどな。

 キュキュッと鳴いて俺の首に巻きついてくれるのがかわいい。しょうがないなと優しく頭を撫でたのだった。



次の更新は24日(金)です。よろしくー

思ったより長くなっている。。。orz

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