王都へ行こう 四話

 日に日に寒くなってきているのがわかる。

 朝なかなかヤクの毛で作った布団から出られない。首にミコが巻き付いてて暖かいからまだいいんだけど。最近は中川さんのイタチも中川さんの首から離れないから暖かくて幸せなようだ。よく首になんて巻き付いててミコたちは疲れないなって思ってしまう。


「ミコ、ずっと俺の首に巻きついてるけど疲れないのか?」


 頭を優しく撫でて聞いたらかえってキュウ? と聞き返されてしまった。かわいいなぁ、ミコは。

 寒かったのは中川さんがすでに布団から出ていたからだった。

 部屋の向こうからいい匂いが漂ってきた。土間でごはんを作ってくれているのだろう。


「山田君、ごはんよ~」


 中川さんに声をかけられて飛び起きた。


「ありがとう」

「今日はパンとスープよ」


 中川さんはにこにこしていた。王都へ行けるのがそんなに嬉しいのだろうか。

 小麦粉を別の村から仕入れてきたということもあり、落ち着いてからはパンも焼いている。食べられる物が生る木がこの上の方にけっこう植わっているので、小麦粉にドングリの粉などを混ぜてドングリパンも焼いているみたいだ。料理らしい料理はさっぱりできないからお任せである。


「ちょっと固くなっちゃうけど、この方が香ばしくて好きだわ」


 とドングリパンを食べながら中川さんが言う。焼きたてだから固くてもかなりうまい。スープの具はゴートの肉とヤクの肉、そして笹だ。笹の葉、けっこううまいんだよな。(元の世界の笹はさすがにこんなにうまくないと思う。食べたことないけど)味付けは塩胡椒だけど、調味料をふんだんに使えるからみんなご機嫌だ。


「これ、入ってるのってゴートだけじゃないよね?」


 ムコウさんの子のチェインが考えるような顔をして聞く。


「ああ、ヤクの肉も少し入ってる」

「やっぱり! ヤクの肉もっと食べたい!」

「能力が上がったのをしっかり確認してからな~」

「そんな~」


 子どもは正直だなと苦笑する。でも実際にヤクの肉はうまいからしょうがない。


「そうよ。その都度確認しないとたいへんなことになるわ」


 ムコウさんの奥さんのユリンさんがチャインに厳しい顔をして言った。でもヤクの肉はおいしいからか、パクパクと勢いよく食べている。そろそろゴートの肉も味が落ちたように感じているかもしれないな。


「ムコウさん、ゴートの肉って最近どうです? おいしくないですか?」


 味の感じ方でも能力がどれぐらい上がったかの判断はつくから、直接聞いてみた。


「えっ? いや……うまくないってことはないが……こう毎日だと飽きてはくるな。ああでも、ここに来てからは毎日のように食べているが、飽きてきたのはここ数日だな……」


 ムコウさんはそう呟いて、不思議そうに首を傾げた。ゴートの肉を食べ続けることでムコウさん夫妻もそれなりに能力が上がってきたのだろう。

 そう考えるとドラゴンにゴートの肉をあげるのは悪いような気もしてくる。もちろんヤクの肉だって分けているんだけどさ。


「それは順調に能力が上がっている証拠だな。ゴートも以前よりは危なげなく倒せているだろう?」


 テトンさんに言われて、ムコウさんは頷いた。


「そうか。ロン様に乗せてもらうのも慣れてきたと思ったが、能力が上がったからなんだな。ヤマダ様やナカガワ様のお役に、少しでも立てるようがんばるよ」

「よろしくお願いします」


 俺は中川さんと共に素直に頭を下げて、ムコウさん夫妻を慌てさせた。

 イタチと一緒にいることを確認し、今日はみんなで山を下りる。もちろんドラゴンの背に乗ってだ。

 しばしの間不在になるので、家と洞窟の入口には結界魔法をかけた。(ドラゴンはとんぼ返りするんだけど念の為だ)


「多分これで一週間ぐらいは大丈夫だと思うわ」


 結界魔法はドラゴンと中川さんがそれぞれ使った。部外者が入ろうとか壊そうとした時は発動するようになっている。ドラゴンはコウモリや虫などの小動物? が通れるように魔法を使ったらしい。そんな細かい設定もできるのだなと感心した。


『ま、まぁな……最近もまた能力が上がったのでな! 試してみたまでじゃ!』


 ふんふんと首をあちらこちらに向けながらドラゴンが言う。尾がびったんびったん振られているから言われて嬉しいのかもしれないが、塩の塊がですね……。

 まぁ俺たちで一生使いきれない程の塩がここにあるからかまわないといえばかまわないのだけど、やっぱりもったいないと思ってしまう。

 そうしてやっと出発することになった。

 ドラゴンには王都の更に北にある丘の上まで飛んでもらうことになっている。その後は七回日が沈んで上ってから迎えに来てもらうよう伝えている。だから結界もどうしても張らなければいけないわけではなかったのだが念の為だ。以前は下の村の村人がここまで塩を取りに来ていたと聞いているからだ。

 ドラゴンはドタドタと走ってから飛び上がった。その方が勢いがついて飛びやすいらしい。

 助走ってやっぱ大事だよな。


「うわーあ……」


 チェインが声を上げる。一応飛行が安定するまでは声を出さない方がいいのだが、そこはそれ。

 俺も久しぶりの長距離の飛行に胸を躍らせたのだった。



次の更新は27日(月)です。よろしくー

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