101.ヘタレな自覚は多分にあって

 シチューはよく煮込まれていておいしかった。

 ケイナさんの皿にはいっぱい肉が盛られていたからまぁいいだろう。


「とても、おいしいです」


 ケイナさんがにこにこしながら食べた。そして彼女はその後二杯もお代わりをした。ケイナさんもかなり腹を立てていたのだということがわかった。宿屋のおじさんの顔がかなり引きつっていたがそれはもうしょうがないことだろう。

 俺と中川さんは別の料理を大量に食べ、ミコたちのごはんも用意してもらった。ただやはり用意されたのが家畜の肉だったようで、ミコたちは不満そうではあった。後で別の肉を出してあげることにしよう。


「これは……なんとうまい肉だ! まるで力が漲るようだ」


 テトンさんの伯父さんが、兵士たちと食事をしながら呟いた。それが比喩表現なのか、本気で言っているのかはわからなかった。下手なことは言わない方がいいだろうと思ったので、俺たちは聞かなかったことにした。

 でも向こうがほっておいてくれるはずはなかった。


「この肉はいったいなんの肉なのかね!?」


 至近距離で迫られた。ナイスミドルに壁ドンされるとか誰得なんだよー。たまたま俺が壁際で飯食ってるだけなんだけどな。

 中川さんが俺とテトンさんの伯父さんを見てうんうんと何故か頷いていた。


「中川さん?」

「はっ! いくらなんでも山田君はあげられないわっ! 何してるんですかっ!」

「この肉のでどころが知りたいのだ!」

「山のはるか上にいためちゃくちゃすばしこい獣ですよ! 捕まえるのたいへんでした!」


 中川さんがヤケになったかのように叫んだ。いや、それは話したらまずいんじゃ……。


「そんな貴重な獣の肉を分けてもらってしまったのか!?」

「そうですよ! だから他の人に分けるなんてとんでもない話だったんですよ!」

「……本当に申し訳ないことをした。では王都では私の館に是非滞在してくれたまえ」


 宿屋のおじさんの顔が引きつっていたがそれはもうしょうがないことだろうと思った。これからは気をつけてほしいものだ。

 ……なんてのんきに思っていた時間が俺にもありました。

 どうしよう。中川さんと同室だよ。

 そりゃあ今までだって二人だったし、山の上の家でも同室ではあったけど、隣の部屋との間の壁が隙間だらけだった家と、壁だけはしっかりしている宿屋の部屋では違うだろう?


「トイレはついてるけどシャワーとかはないのよね。洗浄魔法があるからいいけど、そうじゃない人はお金を払ってかけてもらったりするんだっけ」


 中川さんがそう言いながらTシャツ一枚になった。俺はさりげなく彼女の方を見ないようにする。いくらブラをつけているのがわかっていてもTシャツ一枚の彼女は眩しいんだあああああ!!


「山田君、そっぽ向いてないでこっち向いて」

「う、うん……」


 ギギギ……と音を立てるかのごとくぎこちなく彼女の方を向いた。あくまで視線は首から上である。胸は見てはならない! 絶対にそれだけはだめだ! ヘタレだって? ほっとけ。


「山田君も座って? 椅子でも、ベッドでもいいから」

「うん……」


 椅子に座った。同じベッドの上でなんて、きゃああ。(誰)


「……聞きたかったんだけど、山田君にとって私は恋愛対象外? それともワンチャンある?」


 なんてことを聞くのか。


「待って。それ以前に確認させてほしい」

「何?」


 小首を傾げるのがあざといです。かわいいです。ちくしょう。


「中川さんは元の世界にさ、付き合ってた人とか、好きだった人とかいないの?」

「いないよー? ちょっと付きまとわられてかなーり困ってはいたけどね」

「そっか……ならいいんだけどさ。えーと、中川さんの言うワンチャンてどういう意味で言ってる?」

「言わないとわかんない?」


 中川さんが口を尖らせた。


「あ、いや……中川さんかわいいから……俺なんかにそんな感情抱くはずがないって俺は思ってるし」


 もうしょうがないからぶっちゃけた。


「なんでそんなに自信ないの?」

「それは……」


 さすがにここで告白をしないのはない。それでフられたとしても。


「俺が、中川さんのことを好きだから」


 中川さんが目を見開いた。


「……山田君、私のこと好きだったの?」

「うん。ずっと好きだった」

「そっかー……」


 中川さんの顔が真っ赤になった。意識してくれているのが嬉しいと思った。


「正直な話していい?」

「どうぞ」


 促した。


「私ね、元の世界では山田君のこと意識したことなかった」


 だろうな。俺はどこにでもいる平凡な容姿だったし、何かの部活に入っていたわけでもないから。


「でもね、こっちの世界にきて……山田君に再会できた時、私の王子様が来たって思ったの」

「王子様」

「そう。おとぎ話の王子様よ」

「そ、そう、なんだ……」


 なんか照れる。そんな柄じゃないし。陽キャじゃないからどんな反応をしたらいいのかもわからない。


「だからね、最初の頃私山田君に言ったじゃない?」


 なんか言われたっけ?


「お嫁さんになってって」

「ああ、うん……」


 そういえば叫ばれたような気がする。俺は苦笑した。さすがに間に受けなかったけど。(15話参照)


「私、あの時はお嫁さんになってって言っちゃったけど、私が嫁でもいいわ。もし山田君がまだ私を好きだったら……」


 その先は彼女に言わせてはいけないと思った。


「中川さんっ!」

「はいっ!?」

「俺の恋人になってください!」


 これでヘタレ返上できるだろうか。




ーーーーー

ここまで長かったな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る