100.予定変更はあるあるだったりする
中川さんは不機嫌そうな表情を隠しもしなかった。
小声で耳元に囁かれた。
「シチューを作るって、絶対他の人にも振舞うつもりだったんじゃないの?」
「たぶんね。これからは自分たちで調理しよう」
「そうしましょ」
中川さんの不満もわかる。でっかいネズミもどきは主に中川さんが獲ってくれていたものだし。もちろん彼女は自分が獲ったからとか関係ないんだろうけどさ。
まだ時間が早いこともあり、テトンさんが伯父さんを部屋に誘った。俺たちも、ということらしい。食堂では話せない内容のようだった。
テトンさんたちの部屋にさっそく集まった。テトンさんが防音魔法を使う。
テトンさんは先に伯父さんの身分を俺たちに明かしてくれた。伯父さんは伯爵らしい。伯爵が兵士長ってありなのか? と首を傾げた。
「伯父上、こちらは私たちの恩人のヤマダ様とナカガワ様です。ヤマダ様はイイズナ様の主です」
「なんだって? イイズナ様の!?」
さすがのナイスミドルも驚いたようだった。
「ミコ」
俺の首に巻きついているミコに声をかけると、するりと動いて俺の肩に乗った。
「おお……これはとんだご無礼を」
伯父さんはスッと片膝を付き、頭を垂れた。
「あ、いえ……大丈夫ですので」
「伯父上、実は私たちもヤマダ様のご厚意でイイズナ様たちと共にあるのです」
「なにっ!?」
伯父さんが慌てて頭を上げる。イタチたちがみんなの首から肩へと移った。
「な、なんという……久しく我が国から加護が失われていると思っていたが、ここでその御姿を拝見できるとは……ありがとうございます」
そういえばこの国は魔神を崇拝してるんだったっけ? イイズナはその伴侶の眷属と考えられているんだっけか。なんかややこしいな。
「ヤマダ様がイイズナ様の主ということは、もしや……我が国の勇者様ではありませんか?」
「えええええ」
やっぱり俺ってそういう立ち位置なワケ? でもそんなのありえないし。
「……それはないと思います」
俺はぶんぶんと首を振った。冗談じゃない。伯父さんはテトンさんに目配せした。
「わかりました。ではそういうことにしておきますが、ヤマダ様方がここにいらっしゃるということは王都に用事があるのでしょうか?」
「ええまぁ、ちょっと物見遊山で……」
「そうでしたか……私も任務がなければご同行するのですが……」
「その件でご提案がございます」
テトンさんが口を開いた。
「ヤマダ様、申し訳ありませんがゴートの肉を出していただくことは可能でしょうか」
「ええ……狩られたのはテトンさんたちですから、俺たちは構いませんよ?」
中川さんの方を見れば頷かれた。俺たち最近ゴートは狩ってないしな。
伯父さんはあっけにとられたような顔をしていた。
「伯父上が必要とされているのがゴートの肉であればすぐにご提供できます。ただ他の目的もあるのでしたらそちらを優先してください」
「……三頭分、あるだろうか」
「ございます」
「ならばいたずらに兵を出す必要もない。礼を言うぞ」
「いえいえ」
テトンさんはにっこりした。
「ゴートは王に献上されるのですか?」
「ああ、そうなるな」
「でしたら私たちも連れて行ってください。もちろんヤマダ様、ナカガワ様もです」
「それは構わぬと思うが……」
「その前に王都で少し買物をしたいと思っていますので、付き合っていただけますよね?」
「わかった。付き合おう」
と、そんなかんじでとんとん拍子に話が進んでしまった。本当はドラゴンさんに乗って登場の予定だったんだけどな~。
伯父さんが部屋から出て行った後、その件について聞いた。
「ロン様に乗せていただくのは帰りの方がいいかと思いまして。最初からロン様に乗って威圧してしまいますと、ロン様に攻撃する者が出てこないとも限りませんから」
テトンさんが苦笑してそう答えた。
「言われてみればそうね。それでドラゴンさんが怒って、なんてことになったらたいへんだもんね」
中川さんがうんうんと頷いた。やヴぁい。俺はそこまで考えてなかった。なんてこった。
「余計な気を回してしまい、申し訳ありません。ですが今後のことを考えると王家は敵に回さない方がよろしいかと……」
あの伯父さんが伯爵ってことは、テトンさんの家もそれなりの家なのだろうということはわかった。それじゃあ国を敵に回すわけにはいかないよな。
「いえいえ、俺たちこの国については何も知りませんから。穏便に済ませられるならそれに越したことはないんで」
って言いながら、あんまり穏便に済みそうにはないよなとも思う。何せ兵士に森を攻めさせるぐらいだ。かつてのオオカミの主は森を制そうとはするなと言い、この国の王の伴侶となった。なのに何故森を攻めさせているのか理解できなかった。
いろいろ話しているうちに夕飯の時間になったので一階の食堂へ下りる。宿屋のおじさんが俺たちに気づき、揉み手した。この世界でも揉み手ってあるんだなと感心してしまった。
「料理は全てできております。お召し上がりになりますか?」
なんだかへんなかんじだった。俺たちは苦笑して、食堂の席についたのだった。
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