39.うちのイタチは最強らしい

 翌朝、起きたら目の前にでかいワニの顔があった。

 悲鳴を上げなかったのは奇跡だと思う。ミコは俺のビクついた動きで目を覚ましたらしく、俺の驚きに気づいたのかするりと俺の腕から出た。そしてワニの口をがぶり! と噛んだ。いや、いくらなんでもワニは……と思ったが、ワニは、


『いーーーーーーーっっ! な、ななななにをするんじゃイイズナーーーーー!』


 と驚愕の声を上げた。

 キイイイイイイッッ! とミコが威嚇の声を上げたことで、ワニは後ずさった。


『一齧りぐらいかまわぬではないかっ! 全く、主というのも面倒じゃのう~!』


 ワニは口を撫でるようにすると、ぷりぷり怒って踵を返した。いや、一齧りされたら多分死ぬし。はっとして中川さんを窺った。何故か寝袋のまま俺に寄り添っていてほっとした。よかった。


「ミコ、ありがとうな」


 後でポテチをあげることにしよう。そういえば昨日の調味料は塩だった。竹筒には移してあるから今日水筒を開ければまた違う調味料が出てくるに違いない。ミコやオオカミ、ヘビはとても頼もしいが、こういった調味料が人里でどれぐらい流通しているかはわからない。塩って簡単に手に入るものかな? そうでなければこれから会う人に話を聞く代金にはならないかなと考えた。でも代金になるぐらいだと塩って専売だっけ。こっちの世界がどうだか知らないが、目をつけられるのは嫌だなと思った。

 ワニは一度池に戻ったが、また出てきた。俺たちを見ているわけではなく、この原っぱの周りの木々の向こうを睨んでいるように見える。俺はマップを見て愕然とした。赤い点が三つも近づいてきていた。


「オオカミさん!」

『そなたも武器を構えよ』

「はい!」

「……ん? なーに……?」


 中川さんが目を覚ましたようだが、今はちょっと構っていられない。俺は中川さんをかばうようにして醤油鉄砲を木々の方へ構えた。それと同時に先日オオカミから継承してもらった魔法を発動させる。これで醤油鉄砲の飛距離が伸びるはずだ。あとは俺の力加減を調整すればいい。


 ドドドドドドドドッッ!!


 いつもより激しく地を震わすような音が響いてきた。ワニは瞬時にオオカミと共に音のする方へ移動する。マップを確認しながら今だ! と思った。

 ビューーッ! と音がし、醤油が木々の向こうに飛んでいく。


「ブギイイイイイイイイッッ!?」


 大きなイノシシもどきの姿が現れ、木をなぎ倒して事切れた。よかった。醤油が当たったらしい。ワニとオオカミもそれぞれ一頭ずつ倒した。あちらはでかいシカもどきだった。なんつー大きさだと呆れた。


『……なかなかやるではないか』


 ワニが感心したように言う。そのワニはというと太くて長い尾でシカをなぎ倒し、喉笛を食いちぎった。喉笛、というか顔をまんま食ったようなかんじである。すごい迫力だった。オオカミは横から食らいつき、倒してから喉笛を噛み砕いていた。なんかもう全てが大きいので怪獣大決戦かよとげんなりした。朝からなんつーハードな体験をしなくてはならないのか。

 マップを確認する。今のところ赤い点は近くにないようなので、イノシシもどきを運んでくることにした。


「中川さん、イノシシ運ぶの手伝ってもらっていいか? ワニさん、池の水少しもらってもいいかな?」

「うん!」

『構わぬが、シシも一口よこせ』

「俺と中川さんとミコが食べた後の残りは貴方とオオカミさんにあげるよ」

『うむ。ならばよい』


 ワニは嬉しそうに何度も頷いた。


『そなたら、我の獲物も解体せよ』

「はーい」


 オオカミに言われて中川さんが返事をした。オオカミも解体してからの方が食べやすいようだ。その代わりシシもどきを中央部に運ぶのは手伝ってもらった。池の水は湧き水らしいので、できるだけキレイな水を汲んでもらって湯を沸かした。解体する前に毛を毟らないといけないしな。そんなかんじで作業をしていたものだから、さすがに途中で腹が減って中川さんとまたカロリーメイトを食べながら続きをした。

 シカもどきも解体したことで少し分けてもらえた。役得である。

 全体的に能力が上がっているせいか解体するのもかなり楽にはなっている。内臓をべろんとうまく取れたのでオオカミにとても喜ばれた。

 今持っている調味料が醤油と塩だけなので、解体が済んでから水筒を開けた。ギャラリーの視線が相変わらず痛いっす。

 水筒のコップに出そうとしたがなかなか出てこない。出てきそうだなとは思ったけどすぐに蓋を開けた。


「あー……」


 なんでここでタルタルソースなんだ。ミコへのご褒美か?


「なんだったの?」


 中川さんに聞かれた。


「タルタルソースなんだよ。ミコの大好物なんだ」

「じゃあ、よかったじゃない」


 うん、ここにイタチが一匹しかいなくてよかったと心から思うよ。ミコ用に紙皿を出してそこにこんもりとタルタルソースを出したら、ミコの目がキラキラした。本当に好きなんだな。


「ミコ、俺と中川さんも少し食べていいかな?」


 キュッ! と鳴いてくれた。どうやら許可が下りたようである。ほっとした。


『イイズナよ、それはなんじゃ?』


 ワニが近づいてきたがまたキイイイイイイッッ! と激しく威嚇されて逃げ帰った。タルタルだけはだめなんだよ、タルタルだけは。オオカミも一口よこせとやってきたけどミコに怒られていた。うん、ミコにはかなわないよな。

 水筒からタルタルソースを全部出し、洗うのにお湯を入れて水筒を振る。そしてその汁を中川さんと俺のコップに注いで塩を足したりして味の調整をした。調味料だけでちょっとしたスープになるものだ。まぁ、なんつーかちょっと物足りない気もするけれど。文句を言ったら罰が当たるよな。

 焼いた肉にタルタルは悪くないけど、やっぱり俺は焼肉のタレの方がいいなと思った。



ーーーー

ミコさんかわいいよミコさん

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