第2話 男性護衛官エリカ

夕焼けの街を、エリカ・白石は重い足取りで歩く。

護衛の任務を終えても残るのは疲労と孤独だけ。


「今日も感謝なんてされなかった……。」


彼女は心で呟く。

男性優位の社会では要人の護衛が必要だが、女性護衛官は冷遇されることが多い。

「やっぱり、辛いな。」

思い浮かぶのは、要人たちの蔑む視線だった。


帰宅途中、ふと小さな喫茶店が目に入る。

「カフェ・アンリミテッド」。

気づけばドアを開けていた。


「すみません、営業してますか?」

若い店主が穏やかに笑う。

「あ、はい。どうぞ。」


驚きながらも、エリカは黙ってカウンターに腰を下ろす。

「コーヒーをお願いします。」


豆を挽く音、湯を注ぐ手際は美しく、香りが自然に言葉を引き出す。

「いい香り……。」


一口飲めば心が少しほぐれる。

「どうですか?」

「とても美味しいです。」

安心したように彼は微笑んだ。


その笑顔に促され、エリカは口を開く。

「……護衛官なんです。男性を守る仕事。でも感謝されたことなんてなくて……屈辱だと罵られたり、存在を無視されたり。」


カップを握りしめ、俯く。

「仕事だからって自分に言い聞かせてるけど……本当にこれでいいのか分からなくなる。」


店主はただ静かに耳を傾けていた。

「頑張ってるつもりなのに、誰にも分かってもらえない……。」

ぽろりと涙が落ちる。


悠馬は小さく笑い、言った。

「自分で頑張ってると思えるなら、それだけで十分すごいですよ。」


エリカが驚いて顔を上げる。

「感謝されなくても、守る人が無事でいられるのは君のおかげでしょ?」


その言葉に、涙は今度は温かさに変わった。


「胸を張ればいい。きっと感謝される日も来ますよ。」

エリカは深く頭を下げる。

「……ありがとうございます。」


再びコーヒーを口にすると、今度は少し甘く感じられた。


店を出たエリカは、軽くなった心で歩く。

「こんな風に聞いてくれる人がいるなんて……。」

思い浮かぶのは店主の笑顔。小さく笑い、空を見上げた。

「また行こう。あのカフェに。」



一人片付けをしていた悠馬は呟く。

「俺、何か特別なこと言ったかな……。男性護衛官ってのも不思議だな。」


漂うコーヒーの香りに包まれ、彼の心も穏やかに落ち着いていった。

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