聖少年

淡島かりす

0.ギロチンの刃の下で

 ギロチンの刃が青空を背に笑っていた。

 広場には多くの人が詰めかけて、その中央に作られた処刑台を見上げていた。膝を突き、首と腕を二枚の板で挟まれた男は、自分の首にやがて落とされるであろう鋭い刃の気配を感じ取っていた。


 処刑台で輝く刃は、よく研ぎ澄まされている。ロープで宙に固定されているが、そのロープが切られた途端に容赦なく落ちることを誰もが知っていた。

 何度もこの国で繰り返されて来た処刑。これからもその刃は落とされ続ける。

 この国を護る唯一絶対の神のために。


「反逆者に死を!」

「神への贖罪を!」


 群衆がヒステリックに叫びながら、男の死を急き立てる。

 だが男はそれらの言葉に耳を傾けず、自分を見下ろす人物を睨み付けていた。


「非常に残念です」


 淡々とした口調だった。まるで空に書かれた文字を読むかのように、その声は遠い。


「まさか貴方が。しかし神への冒涜を見過ごすわけにはいきません」


 男はその声を聴きながら必死に考えていた。

 どこで間違ったのか。どこで踏み外したのか。信用を得るために何でもしてきたし、自分の目的のために全てを犠牲にした。なのにどうして自分は此処にいるのか。

 まとまらない考えが体の中から流れ出そうとするのを止めるように、男は目を閉じる。その瞼の裏に映ったのは、美しい水の流れる川だった。太陽の光を浴びて輝きながら流れる川。そこが全ての始まりだった。

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