第15話 想定外

 平日の昼間に休職しているはずの加納とあんな所で出会うとは思っていなかった。わざわざ休暇を取り、会社の人間達と会わないだろう場所を選んで密会していたのに、とんだ計算違いだった。早速あの件を利用し、彼に口止めをする。

「頼む。見なかったことにしてくれ。お前だって会社にばれたらまずいことがあるだろう」

 彼は家に引き籠ってばかりはいけないという医師の進言から、気分転換の為に奥さんの買い物に付き合ってたまたま近くへ来ていたらしい。最初は店内にいたが人混みを嫌い外に出て、散歩がてら人気のない場所を選んでうろついていたようだ。

「し、支社長」

 驚いていた彼だったが、いま目撃した件は黙認することをなんとか了承させた。会社の人間に見られたことは最悪だが、その相手が現在休職中の彼だったことは不幸中の幸いと言っていい。会社に出ていないから下手に言いふらす相手もいないだろうし、そういう精神状態でもないはずだ。

 それに彼の休職期間もかなり長くなっている。退職するのも時間の問題だろう。ただでさえ今は身辺が騒がしい時期だ。なんとか今の状況を乗り切り、無事に他部署へと異動となれば様々な問題から逃れられるはずだ。

 家内にも会社でのゴタゴタに気付かれ、別居を切り出されている。これ以上問題を複雑にしたくは無い。彼が余計なことを言い出さないことを祈りつつ、その場を急いで離れた。

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