美少女を百合に落として「相手は女の子なのに!?」と感情ぐしゃぐしゃにしたのち、男バレしてさらに感情をぐっしゃぐしゃにする話

ひつじ

第1話


 女子しかいない教室。俺は黒板の前で魅力的であろう笑顔を浮かべる。


「転校してきた姫宮桜路ひめみやおうろです。皆さん、よろしくお願いします」


 教室にいる女子からキャーと黄色い悲鳴が上がった。


『す、すっごい可愛い!』

『いや、かっこいいじゃない!?』

『いやいや、綺麗の間違いだよ!』

『うーん、ぜんぶぅ!!!!』


 ここは名門、穏ヶ咲女子校。


 そして女子たちに黄色い悲鳴を向けられた俺は、姫宮桜路ひめみやおうろ、本名は大路桜路おおみちおうろ


 優れた学業成績、類稀なる運動神経、人を惹きつける芸術の才、そして並外れた容姿。天に二物も三物も与えられただけの、普通の男子高校生だ。


 そんな男の俺が、どうして女子校に転校しているのか。


 説明するには、二週間前のことを振り返る必要がある。


 ***


 桜が散り、4月も終わりに近づいたある日のことだった。


「お兄ちゃぁん。先輩に『女の子は恋愛対象外なんだ、ごめんね』ってフられたぁ」


 夜、家の玄関で泣き崩れた妹の姫乃ひめのを見た瞬間、決意した。


 よし、お兄ちゃんがその女を百合に落としてやる!


 と。


 あまりに短絡的な思考かと思われるかもしれないが、それも仕方ない。


 姫乃は世界一可愛いのだ。24時間365日、俺の癒しなのだ。そんな妹が好きな人と結ばれないなんてこと、あってはならないのだ。


 俺は百合に落とすことに頭をシフトし、妹に問いかける。


「誰にフられたんだ?」


「うぅ……辛いから言いたくないよぉ」


「ごめんな、お兄ちゃん辛いこと聞いて。今はいっぱい泣きな」


「うわああああん」


 ***


 ということがあり、それから俺は行動した。


 まず、姫乃のICカードの利用履歴を確認。降りた駅、バス停の位置。学校の終業時間、家に帰るまでの時間を考えて、ターゲットは穏ヶ咲女子校の生徒であることを突き止める。


 全寮制の穏ヶ咲生のターゲットと接点を得るため潜入することに決め、翌日には、今通っている学園の校長に憐憫を誘う口調で休学することを伝え、『君のような才ある学生を退学なんかには絶対しない』とお墨付きをもらって無事休学。


 次に穏ヶ咲女子校に入学するため、ここの理事長をハニトラ。ホテルに入ったところで、写真を使って脅し、無事入学の都合をつけてもらった。


 そしてたっぷり一週間以上かけて女子としての所作を身につけ、今日入学したのだった。


『ど、どうしよう、魅力的すぎる』

『わ、わたし、話しかけちゃおうかな』

『そ、そんな恐れ多い!』


 女子たちの反応を見るかぎり、どうやら男だとバレなさそうだ。


 いや、それも当然。世界で一番可愛いのは妹だけど、世界で二番目に可愛いのは、この俺なのだ。


 懸念がなくなると、内心ほくそ笑む。


 まず、第一印象に好印象を残すことには成功したな。この調子でターゲットを突き止め、百合に落としてやる。


 暗い内心を全く感じさせない綺麗な笑顔を浮かべながら、スカートをひらひらさせて自分の席へ向かった。

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