気づけば勇者で魔王な転生者~ぷるぷるするだけと馬鹿にされていた外れスキル【振動操作】で成り上がる~

ねむ鯛

第1話 僕の日常


 今日もまた一日が始まる。昔夢見ていたのとは違う、憂鬱ゆううつな一日だ。


「おい荷物持ち! この荷物、しまっとけよ!」


「あ、うん。……わかった」


 朝の支度をしているとノックもなく突如として宿の扉が開かれ、ぞんざいに荷物を投げ渡された。そこにいたのは耳にピアスを幾つも付けた軽薄そうな男だ。名前はボストン。僕が最近一緒に行動している仲間……の筈の1人。リーダーだ。

 僕は落とさないように荷物を受け取ると、彼はそのまま扉を閉めてどこかに行ってしまった。


 思わずため息を吐くと、気を取り直して宙空にポッカリと穴を開ける。そこに投げ渡された荷物をしまい込んだ。この中にしまっておけば無くなることはない。安全な保管場所。


 僕の持つ特殊な才能、”スキル”と呼ばれる不思議な力だ。僕のスキルの名前は『アイテムボックス』という、便利な能力。

 この世に生きとし生ける人、誰もが特殊な才覚を持ち、それを行使することが出来る。それがスキル。


 その才覚を振るい様々な場所に赴いて受けた依頼を熟す職業を冒険者と呼ぶ。僕はその冒険者の1人だ。

 学がある人は国お抱えの騎士になったりするけど、実力があってクセが強い人達ほど冒険者になっているみたい。僕は田舎の平民の出だから、そもそも選択肢がないのが辛いところ。


 僕の名前はシオン。


 それなのに、仲間たちからは名前ではなく荷物持ちと呼ばれている。

 それもひとえに僕が戦いに有効なスキルを持ってないから。昔は物語の凄い英雄や騎士に憧れて剣を振っていたけど、僕は戦いに向いていなかった。

 荷物を持つことでしか役に立てないから、荷物持ちって呼ばれてるわけ。現状を再確認して朝からブルーな気分になっていると勢いよく胸に飛び込んでくるものがあった。


「おっと」


「きゅきゅ!!」


「おはようライム。どうしたの?」


 落とさないように抱き上げた腕の中で丸っこい青色ボディをぽよぽよ楽しそうに弾ませているのはライム。スライムという魔物の一種で、粘液のような性質の体をしている僕の友達だ。昔、天気の良い日が続いた時に干からびかけていたライムに水をあげてからの付き合い。

 ひんやりして肌に吸い付く独特な感触が気持ちよくてクセになると評判だった村のアイドル。みんなかわいがってよく撫でていた。その愛され具合は僕と一緒に出て行く時にとっても惜しまれていた程だ。……僕? はは、聞かないでよ……。


 準備を整えて頭に乗ったライムを伴い階段を降りていくと、併設されている酒場でボストンと一緒にゲラゲラと下品な笑い声を響かせている男が二人。体格のがっしりしたガストンとちびのアントンだ。この三人と僕で四人のパーティーを組んで冒険者として活動している。

 僕に気づいたボストンがニヤリと笑った。


「おいシオン! あれやれよあれ! 久しぶりに見せろ!!」


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