第54話白の世界

石畳の道に石造りの建物。建物の窓は木窓。道には轍が刻まれている。

日の光がまぶしい。どうやら昼間のようだ。まるで映画のセットのような光景だなと僕は思った。

ここはどうやら街の大通りの片隅のようだ。

馬車が何台も行き交いしている。

「危ないですよ、ご主人様」

そう言い、僕の手を引きキララは安全なところに誘導する。

彼女は魔女の闘衣を着用している。それは彼女のグラマラスなスタイルがわかる体にピッタリとはりつくような衣装であった。

どうやらこの魔女の闘衣は五感を鋭くしてくれるようなのだ。そうキララは言っていた。

「中世、いや……近世のヨーロッパのようですね」

街行く人々を観察して、キララは言う。

いわゆる異世界かなと思ったけど、どうやら違うようだ。

どうせならエルフやドワーフ、ケモ耳の獣人なんかに会いたかったな。

僕が残念がっているとある集団が大通りを進行する。

皆手にそれぞれ武器のようなものをもっている。剣に槍に死神がもつような大鎌、ばかでかいフォークのような農機具などなど。

男たちの目は興奮で真っ赤に充血している。

見るからにやばそうな集団だ。

全員が殺気を帯びた瞳をしている。

「王族を殺せ!!」

「国王を殺せ!!」

「王妃を殺せ!!」

「王子を殺せ!!」

全員が全員殺せ!!を興奮した声で連呼している。

狂気じみた声で何者かを殺せと叫んでいる集団に近づきたくはない。


「キララ、ここから離れよう」

僕はキララの手をつかみ、ここから立ち去ろうとする。

僕に手を握られてキララはちょっとうれしそうに頬を赤らめている。

こんなので喜んでくれるならお安いごようだ。

「そうですね、はやく白さんをみつけないと」

キララは言う。

そうだ、こんなやばそうな集団の相手をしている暇はない。

ここは一応、白の内世界インナーワールドだ。この世界のどこかにいる白を見つけだし、現実世界に連れ戻さないといけないな。けど、手がかりはないんだよな。

キララはあの人形使い五丈原涼香と父親違いの姉妹で共通感覚があり、近くにいれば感じとれるという。

だけど今はその感覚はないようだ。


「おい、そこのハレンチな女」

集団の一人がキララを見て、そう叫んだ。

たしかにキララの姿はエッチでハレンチだ。


「あら、誰のことかしら」

白々しく口笛を吹いて、キララはその場を僕の手を引いて立ち去ろうとする。

しかし、運悪く囲まれてしまった。

ずらりと凶悪そうな人相の男たちが僕たちを囲んでいる。

それぞれの武器の先端を僕たちにむけている。

凶悪な殺気を帯びたいくつもの瞳でにらまれてもキララはへっちゃらのようだ。まったく頼もしい限りだ。

でも僕自身の戦闘力は皆無に等しい。

頼れるのはキララだけだ。


「こいつは魔女に違いない」

男たちの中から神父のような服を着た男が言う。

魔女という単語を聞き、男たちの殺気がさらに増す。

たしかにキララは魔女の闘衣という衣装を着ている。魔女と言われても仕方ない。それにここいにる人たちは昔のヨーロッパの服を着ている人たちばかりだ。僕たちはあきらかに場違いだ。


「突破しますか?」

キララがきく。

たしかにそうするしかないのか。

キララの戦闘力は前に四方堂明日香が攻めてきたときに目にしているので、信頼に値する。しかしながら多勢に無勢なのも間違いない。


「こいつらは魔女だ。魔女は火炙りにせねば」

神父の声はあきらかに興奮した声で言う。興奮しすぎて声がうらがえっている。

周囲の男たちもそれに同意してそうだそうだと叫び出す。

キララが火炙りになら間違いなく僕も死刑に違いない。

せっかく白の世界にきたのに彼女を見つけださずに死ぬのはごめんだ。



「待ちたまえ!!」

甲高い女性の声がする。

えっこの声はきっとあの子だ。

僕は声がする方を見る。

声は前方の二階建ての建物からだ。その屋上からする。

「やっ!!」

掛け声と共にその人物はなんと二階から飛び降りた。

僕たちと男たちの間にスタンと軽やかに舞い降りる。

二階から飛び降りたのに猫のように軽やかだ。

そう、猫のようにだ。


舞い降りたのはまさしく白だった。

彼女は羽根つきのつば広帽子を頭に乗せ、右手に銀色に輝くサーベルを握っている。青いマントを鮮やかにひるがえしている。

その艶やかさは舞台にたつ女優のようだ。

「いかんよ、君たち。大勢でこんないたいけな少女を傷つけようなんて」

ふふっと白は余裕の笑みだ。


飛び降りた白の姿を見て、男たちはざわついている。殺気だった熱量が若干下がってきている。

「あ、あれは銃士隊長の……」

男たちは白の姿を見て言う。


「そうだよ、僕は近衛銃士隊長のシャーロット・ダルタニヤンさ」

人差し指でちょんと羽根つきつば広帽子を押し上げ、白は堂々と名乗る。

どうやら白はこの世界ではシャーロット・ダルタニヤンと名乗っているようだ。

ダルタニヤンといえば三銃士の主人公でお馴染みだが、白は何らかの関係があるのだろうか。


「無敵の銃士とはいえ一人だ。それにこいつは王家に味方する敵だ!!やってしまえ!!」

「そうだ王家に味方する者は革命軍の敵だ!!」

男たちは殺気を再燃させ、武器をこちらにむけて襲いかかる。


「しかたないね」

妙にのんびりとした口調で白ことシャーロット・ダルタニヤンは言い、次に素早い動作で一人の男の手のひらを貫く。男は持っていた鋤を地面に落とす。

苦痛に顔をゆがませ、地面にうずくまる。

その間にもキララは右ストレートを放ち、男たちの一人をノックダウンさせた。

「金髪のお嬢さん、やるねえ」

うれしそうに白は言う。

「シャーロットさん、あなたもね」

キララはかわいらしいウインクをして、それに答える。

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