五十鈴川家は、パーティー好き
俺は、なずなと顔を合わせないように、早めに二階に移動した。
「あんたは、もっと早く来て準備してほしかったのに」
「それなら、そうと言ってくれ」
ブツブツ言いながら、キッチンからテーブルへ料理を運ぶ。父さんと
家族総出で食事の準備をするのは、五十鈴川家の常識だ。料理を作るのは主に母さんだが、時々、父さんが作ることもある。できた旦那だ。
リビングのテーブルには全面にクロスが引かれ、その上に所狭しと料理が並んでいる。
唐揚げにスモークサーモン、ポテトサラダ、山盛りのカットステーキ、などなど……。
誰がこんなに食う? 俺が食うけど。
十九時の直前に、階段と繋がるドアがノックされた。
「あっ、なずなちゃんね。入ってちょうだい!」
キッチンの中から母さんが声を張り上げる。
「おじゃま……します」
ドアをゆっくり開けたなずなが、申し訳なさそうに入ってきた。他人の家にお邪魔するようなものだからな。
「もう、準備できるから座ってて」
「あなたは、ビールでいい?」
バタバタと飲み物やら皿やらを準備し、
一辺に二つずつ椅子が設置されている。俺は
そして、瓶ビールを片手に父さんが、さらに、母さんが両手に抱えていたケーキをテーブルに置いて着席した。
「ケーキは、写真を撮ったら一旦、冷蔵庫にしまいましょう。じゃあ、まずは、いただきます!」
五十鈴川家が申し合わせたように手を合わせる。なずなも、ハッとして同じように手を合わせた。
「じゃあ、俺は唐揚げっと」
「
小姑のように
「腹減ったんだけど」
母さんはすでに、スマホを構えて写真の準備を整えていた。
「じゃあ、なずなちゃんと、
ピースする
次に俺はなぜか、唐揚げを大口で食べる様子を、静止状態で一枚。最後に父さんと母さんで一枚。
そして、食事開始。
さあ、食うぞ。
「すごい、料理ですね。今日は開館記念だから……ですか?」
料理を一望しながら、なずなが尋ねる。その瞳は、子供がご馳走を目にしたときのように輝いているように見えた。
「そうね、今日は記念日だからね。なずなちゃんっていう、家族も増えたし」
母さんの言葉に合わせて、
横目でチラッとなずなを見ると、顔を赤くして箸でつまんだサーモンを口に入れていた。
「うちは、何かあるとすぐに、パーティーをしちゃうもんでね」
父さんは手酌でビールをグラスに注いだ。
それは事実だ。誕生日、卒業式、入学式、クリスマスは当然ながら、父さんのボーナス支給日もパーティー。何かにかこつけて、騒ぎたいだけなのかもしれんが。
「私、一人っ子で、父は仕事遅かったり、海外出張が多かったり、母もフルタイムで働いてて遅い日があったりで……」
語尾は濁していたが、まあ、つまり、一人での食事が多いって言いたいのだろう。
その点では、うちの父さんはそれほど残業もしないので帰宅は早いし、海外出張も稀だ。家族で揃って食事をする率は高いのかもしれない。
「そう。じゃあ毎晩、ご飯食べに来てよ」
「そうね、ここに慣れるまで自炊も大変だし。
「おい! なんで、俺の方が別の家の子みたいになってんだよ」
突っ込みとともに、笑いが沸き起こる。なずなもつられて笑っていた。
しばらく、談笑が続く。
「
既に四杯目の白米を食べ終わっていた。
「なあ、
言った直後に、ぐほっと噴き出す声。
そちらを見ると、なずなが口を押えている。体が微妙に振動しているのは、笑いをこらえているからのようだ。
やべっ、母さんのことをいつもの勢いで『マミー』と言ってしまった! 不覚。こいつに弱みを握られてしまう。ちゃんと、母さんと呼ぶようにしよう。
差出した茶碗を受け取った母さんが答える。
「基本的には、何年も住んでもらうことは想定してないわ。人が入れ替わって交流していくのがシェアハウス。それが醍醐味なのよ。あっ、なずなちゃんは別よ。何年でもいてくれていいからね。大学生になっても、ここから通ってね」
「そうそう、部長の海外転勤もいつまでか分からんからな」
勘弁してくれ。
この緊迫した生活が続くと思うとストレスで痩せてしまう。もしくは、ストレス食いで、必要以上に体重が増加してしまうかもしれん。
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