東京魔宮伝説

せんと★えるも

第1話

「助けて、信二!」

 テレビ画面の中で「ゆかり」が叫んだ。信二はぐっとつばを飲み、コントローラを握る手に力を込める。このイベントでは、コントローラの4つのボタンを押す順番とタイミングが、非常に重要だった。と言っても、落ち着いて順番どおり押せば、まず失敗することはない。信二が今プレイしている『東京魔宮伝説』は、初心者向けのアクションRPGなのだ。

 それでも信二が、いつもこのイベントで緊張するのは理由がある。『東京魔宮伝説』は主人公とヒロインの名前をプレイヤーが自由につけられるのだが、信二はいつも主人公に「信二」、ヒロインに「ゆかり」とつけていた。名前だけとは言え「ゆかり」を危機から救いたい。ここでヒロインを失うと、ラスボスの攻略難易度がかなり上がると言う、ゲームとしての現実的な理由もある。慣れていても気を抜くことは、信二にはできなかった。

(……今だ!)

 何十回と押し慣れた順番で指を動かす。最後のボタンを押した瞬間、画面に


Light Whip


 文字が浮かび上がり、光の鞭が現れた。

「よっしゃ!」

 信二は十字ボタンを操作し、ゆかりを掴む巨大なラスボスの手に、光の鞭を重ね合わせる。と、ゆかりを掴んでいたラスボスの巨大な指が切り落とされた。

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