第一話:隣の席

「よっしゃあ席替えだ!一番後ろ取るぞ!」


「こんな年にもなって席替えでこんなに盛り上がれるのすごいな」


僕、関口倫也せきぐちともやはボソッと呟いた。でも僕のようなクラスの中でも目立たないタイプも密かに後ろの方を狙っているのは事実だ。なぜなら寝てたり先生にバレにくいからだ。そんなことは誰でも考えるだろう。たぶん。


「じゃあ前の席から順番にくじ引いていって〜」


僕のクラスの先生は身長は大きいが、目が細い。しかしイケメンなので女子たちに好かれている。


「席後ろのほうがいいね〜」

「ね〜先生に何してもだいたいバレないし!」

「でも席前のほうが授業中に寝ちゃわなくてよくない?」

「咲希はほんっと真面目だねー」


あそこのグループの中心で話している女子が僕の元カノである天野咲希あまのさきだ。今は6月だから大体2ヶ月くらい前に振られた。今はまだ気まずくて話せていない。そうこうしているうちに僕の番がきた。ここんところ最近は前の三列しかなったことがない。せめて今回こそは後ろ側の席、あわよくば一番後ろがいいな、と神様に願っておいた。


「次、関口」

「はーい」


「俺は、っと…30番か」


自分の引いたくじを確認した後、隣の空き箱に入れて席につく。引いたくじは30番。6の倍数なので一番後ろだ。今度こそ一番後ろになってよかった、と口に出すと文句を言われそうなのでやめておこう。


「とーもやっ、どこだった?」


こいつは犬堂影弥いぬどうかげや。小学校からこの高校までずっと同じクラスで、まぁいわゆる幼馴染、ってやつに当たる人物だ。こいつは見た目は田舎のヤンキーみたいだが、中身はちょうゆるゆるのふわふわだ。


「あぁ、影弥か、今度こそ後ろになれた」

「おぉ!え、ずる〜!俺一番前なんだよね〜。場所変わんね?」

「いや、いくら影弥の頼みでも聞けないね」

「え〜ともやのけちぃ〜」


「よし、みんな引いたようだな。自分の場所に机を移動させて自分の場所をいいにこーい」


自分の引いた番号は30番だから一番後ろになる。この二ヶ月馴染んだ席とももうお別れか、と思いながら自分の席へ移動していく。その瞬間、背筋が凍った。僕には昔から霊感というものがあり、これは霊感というのかわからないが、このあと、いやなこと、面倒くさすぎることが起きるときは背筋が凍ってぴーんとなる。席替えで嫌なことは起こらないだろうからまた影弥にドッキリさせられるんだろうと思っていた。



思っていたかった。



「これから隣かぁ〜!よろしくね、ともやくん!」

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