俗愛

布期

シグナル

 乾きは次第に痛みに変わり朦朧とした自我の隙間で涙を流してしまっているという現状を理解した。波となって押し寄せてくるどうしてどうしてどうしての連なりに呑まれているのかそれとも俺が呑んでいるのかも分かりはしないがどうしては依然としてどうしてであり俺にはどう対処することもできなかった。喉が痛む。あんまり寒いから目を覚ますのか、それとももう十分なだけ睡眠がとれているから目を覚ますのかそれともそれとも単に身体の不調なのか。俺の身体は俺の精神によって不調をもたらされているのか、俺の精神は俺の生活によって不調をもたらされているのか。俺の身体と精神と生活とが歯車だったとして、それ等が噛み合っている様を目視できたら安心できるだろうに。これだから形のない相関関係は嫌なのだ。どこに因果があるのか誰も知らない、知ろうだなんて思い立つ奴は馬鹿だから、ああだこうだとのたくったとて結局何も知ることができない。見え見えだ。瞳を閉じて考える。意識の縫い目から覗いた過去と自我とそれらを多分に含んだ記憶が光の速さで走り去っていく。その暗闇とも閃きともつかない奥行きに、君の影が映った。曖昧な輪郭線上でもっても、かつて尽くされた言葉だけは真実の一端を担っているようであった。神聖な、物理以上に確立された圧倒的な感情が君によって体現されているのだと俺は、分からないながらにも考えた。雨が降っている音が聞こえないか感覚を研ぎ澄ませた。その雑音の中に君の声が紛れていたらきっと心地良くてたまらないんだろう。子供のような、うわついた慕い方を許してくれる君が好きだった。窓の外で、シグナルはつぎつぎと遠くの方へと駆け抜けている。

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