並行世界

美咲が言うのは、3年前こちら側の人に話を聞いた時「天燕市のことは知っている、だがずっと曇ってなどいない」という話をされた時のことだ。


「つまり、どゆこと?」


「つまり、ここには私たちの知らない天燕もあれば、私たちが知らない私たち自身もいるかもしれないってことだよ」


「それって、パラレルワールドみたいな?」


「多分…」


「でもそんなことってあり得るの?」


「そうとしか考えられなくない?」


「うーん、まあ確かに…」


私たちが知っているのとは別の並行世界かあ、


映画とか小説とかではよく見るけれど、いざ実際に直面してみるとなかなかよくわからないものだと思った。


まあ実際にここがパラレルワールドなのかはまだわからないけど…


「でも、こんなことってあるんだね」


「何が?」


「いやほら、映画とかそういうフィクションの話だけだと思ってたから」


美咲も全く同じことを考えていたらしい。


いくら垢抜けしても根は陰キャだからそういった思考になるのは仕方がないのかもしれない。


「まだ時間はあるけど、このあとどうする?」


「よくわからないことになってるのにこれ以上何かするのも微妙な感じするよね」


「また今度出直そうか」


結局今日は引き上げることになった。


三年前とほぼ何も変わらないこの路地に辿り着き、私は何かの異変に気づいた。


「塀が、崩れてる」


こちら側に来る時、確かに越えたはずの塀が、この数時間の間に瓦礫となっていたのだ。


「誰か来たのかな」


「わからない、でも相当古そうな塀だったし、劣化で壊れたのかも」


「かもしれないね、まあ行こう」


崩れたコンクリートの上は少し足場が悪く、転びそうになったものの、塀を越えるよりはずっと楽だったので、越えることができた。


改めて見ると、暗くて狭く、ゴミがそこら中に落ちているこの路地はとても気味が悪いものだった。


この数時間の間に起きたことでの疲れか、何かを考え込んでいるのか、美咲は私に一切言葉を投げかけなかったし、私も美咲と言葉を交わさなかった。


一歩歩くたびにその足音が無音の中に響いた。

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