第11話 美少女は肉食系
ウルフとアニカが気まずくなってしばらく経った。2人の態度の変化は孤児院の誰にでも丸わかりだった。モニカはせっかく身を引いたのにと怒り心頭だった。
「アニカ様、ウルフとはもう付き合ってないんですか?」
「なっ・・・そ、そんなわけないでしょ!」
「あんな態度じゃ、私はウルフを諦めませんよ!」
「なっ・・・」
その言葉通り、モニカはウルフにまた付きまとうようになった。
「ウルフーっ!一緒に学校に行こう!」
ウルフが嫌だと言う前に腕をがっしり掴んで大きな胸をさりげなく押し付けた。ウルフはわかりやすく顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまった。
(フフフ・・・まな板ブスお嬢様と違って私はかわいいし、巨乳だもんね!この武器は使うに限る!)
「ねぇ、ウルフ、もうすぐ薔薇祭よね。私と薔薇のトンネルをくぐろうよ!」
「え?薔薇のトンネル?何それ?」
薔薇祭は、別名『恋人達の祭』とも呼ばれている。今も王族が住んでいる王宮の庭園が祭期間中だけ一般開放される。そこに長―い薔薇のトンネルがあって噴水側の出口には2体の愛の天使像が飾られている。このトンネルを恋人同士で手を繋ぎながら端から端まで歩いて、噴水を背にして右側の愛の天使像の柵に2人の名前を書いたリボンを結ぶと、2人は結婚できるという超ロマンチックな伝統があるのだ!
右側の天使が両腕を前に差し出していかにもハグしそうな体勢なのに対して、左側の天使は両手を胸の前に合わせて祈りの姿勢を取っている。こちらの天使像の柵に片想い相手と自分の名前を書いたリボンを結ぶと、想いが成就すると言われている。モニカはもちろんウルフと一緒に右側の天使像狙いだ。
ちなみに他人のリボンの名前を読んだり、柵から外したりするのは、タブーだ。そんなことをした人間には天使の罰が当たって愛を得られない呪いを受けると言われている。だから王宮も毎年リボンの処理に困っていたのだが、10年ぐらい前からは祭が終わった後に新教派の教会がリボンを回収し、祈願成就を祈ってお焚き上げしてくれることになっている。
王国時代にも実は、建国記念式典の日に市井で同時開催された建国祭で似たような伝統があった。でも立憲君主制になってから建国記念式典と建国祭は、立憲君主制に移行した日に開催が移った。元々の建国記念日に開催されていた日には薔薇祭という別の祭が開催されることになったのだが、恋人達のリボンの伝統は薔薇祭に残り、舞台が薔薇祭期間中だけ限定公開される王宮の庭園に移った。
他にもこの噴水の前でキスをするとその年に結婚できるとか、いろいろありがたい言い伝えがあるのだ。でもたいていの男性は恥ずかしがってこういうイベントに参加したがらない。それどころか、ウルフはそんなイベントがあるとは知らなかった。モニカはウルフが知らないことをいいことに薔薇のトンネルに引っ張り出そうと張り切っていた。
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