第6話 登下校時の攻防
ウルフはなるべく1人で登下校したかったが、モニカがくっついてきて結局2人か、1学年上で孤児院から同じ学校に通っているザンドラと3人で通学することになってしまうことが多かった。
その日の朝も、ウルフは朝食もそぞろにモニカが食器を片付けている隙にこっそり孤児院を出た。なのに後ろに何かじとっとした視線を感じて振り返るとモニカが走り寄ってきた。
「ウルフー!待ってよ!行くところは同じなんだから一緒に行ったっていいでしょ!」
「・・・」
ウルフは心の中では『勘弁してくれー!!』と思っていたが、中々そうは言えず、黙ってそのまま振り返らずにズンズン歩いていった。
「ちょっと、ウルフ!待ってよ!」
(ウルフったら、照れてるの?!かわいいーっ!)
モニカがどんな風にウルフの思いを勘違いしてたか、もしウルフが知ったら、恐怖だったに違いない。
ウルフは立ち止まらずにどんどん進んで学校に着いたが、モニカも必死に着いてきてウルフの横に追いついた。
「よおっ!おはようさん!今日も2人は一緒だな!」
運の悪いことに、何かとウルフとモニカをカップル視してからかってくるヴィリーが校門前にいた。
「ヤダー、一緒に住んでるからついでに一緒に通学してるだけよぉ♡」
(そうなのよっ♪私達、熱々カップルなのぉ♡)
「一緒に住んでるのかぁ!ヒューヒュー!」
「何言ってるんだよ!孤児院だよ!」
(なんだよ、このわざとらしい勘違い!これっていじめだよな?)
2人が孤児院に住んでいることを知っているのにわざとヴィリーは『一緒に住んでいる』とからかってくる。でもそんなことをするのはヴィリーだけでなかった。
ウルフにとってそれはいじめ以外の何物でもなかったが、モニカはウルフとカップル視されてからかわれるのを楽しんでいた。
モニカがクラスの女の子に話しかけられた隙に、ヴィリーはふいにまじめな目になってウルフに話しかけた。
「ウルフ、こんなにかわいい子に好かれてるのに何が不満なの?」
「かわいいとか、かわいくないとかの問題じゃないんだよ」
「そうか。じゃあいいんだな」
「何が?」
「なんでもないよ。じゃあな」
ある日の下校時、モニカはいつものようにウルフを探していた。ラッキーなことにすぐに見つかってウルフと一緒に帰ることにした。
「俺、1人で帰りたいんだけど」
ウルフはとうとうはっきり言うことにした。そんなにはっきりと拒絶されたのは初めてだったので、モニカは息を呑んだ。
「どうしてそんなに冷たいの?お嬢様のせい?」
「アニカは関係ない」
「呼び捨てしても許される関係なの?!ザンドラだけかと思ってたのに!」
「モニカには関係ない」
「そんな言い方ひどい・・・なんでそんなにお嬢様が好きなの?」
「俺の目が綺麗って言ってくれた」
「私だって言ったじゃない!」
「アニカが言ってくれたからうれしかったんだ」
あまりにすげない態度でモニカは悲しくなってきて涙があふれてきた。
「どうしてお嬢様なの?私じゃだめなの?ウルフは孤児なんだからお嬢様とはどうせ結ばれないよ」
「そんなの分かってるっ・・・」
「なら、どうしてっ・・・」
モニカはウルフに抱き着いてワーッと号泣し始めた。ウルフはモニカを抱きしめずに両腕はだらんと下げたままだった。本当はすぐにでも突き飛ばしたいぐらいだったが、突き放したらさすがにモニカがかわいそうかなと迷っていた。
「ウルフ、モニカ、道の真ん中で何してるの?!みっともないから止めなさいよ」
「ああ、ザンドラ。モニカが急に泣き出しちゃって困ってるんだよ」
「ひっく・・・ひっく・・・」
(あーあ、また邪魔なザンドラが来た!!それにウルフ!私が泣いたのはアンタのせいよっ!)
「はいはい、離れて、離れて。さっさと孤児院に帰りましょう。夕食の準備を手伝わなきゃいけないでしょ」
3人は微妙な雰囲気の中、何もしゃべらずに孤児院に帰って行った。
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