第6話 悠君の冒険
更新間隔があまり空いてないですね、こんばんは、五樹です。
ここに書くネタが、昨日と今日でまた降って湧いたので、今回は「悠」の話をしようと思います。
昨日、僕、「五樹」が家に一人だった状態の後で、「悠」が現れました。
都合の悪い事に、その時、時子のスマートフォンはロックが掛かっていませんでした。
だから悠は画面に触ってみて、「これに触ると変化が起きるらしいぞ」と分かってからは、手当り次第に色々なアプリケーションを立ち上げだしたのです。
僕はそんな悠を心中から観察し、ヒヤヒヤしていました。
でも、悠は7歳児なので、大人が使うアプリケーションの意味は分からないし、Twitterアプリを立ち上げた時も、何をする物なのか知りませんでした。
もし知ったとして、果たして7歳児が、社会やコミュニティに向かって自分の考えを持続的に発信する事に、興味を持ってくれるものでしょうか?そこはギリギリの線かもしれません。
悠は、キーボードの入力も上手く出来ずに、一つだけツイートを残し、残念ながらゲームのアプリケーションなどには気づかないまま、時子の夫の帰りを迎えました。
「ただいま」
「おじさん、お帰り!」
「え…あ、ああ、ただいま」
悠は、時子の夫の事を、「おじさん」と呼びます。夫にはとても済まない気持ちになりますが、7歳からしたら、52歳の男性が“おじさん”になるのは、仕方ない気がします。
「おじさん、お菓子食べたい!」
「じゃあそこにある袋から食べな」
時子の夫は、もう悠の事も重々承知してくれていたので、流れるように対応してくれ、買い物してきた荷物を片付けていました。
「これ?」
「うん」
「こっちのチョコレートは?」
その時僕は、心中でギクリとしました。悠が指差した“チョコレート”は、僕だけしか食べない、「カカオ72%」だったからです。そんな物を悠が食べれば、大変です。
「うーん、気になるなら、食べてみなよ」
時子の夫はそう言ってしまい、悠はすぐに包みを開けて、カカオ72%のチョコレートを、ひと口齧りました。
「んぁあ…」
文字にするとそんなような声を悠は上げ、頭を抱えて左右に振ります。それから、「酸っぱい!」と叫びました。
僕は心中からそれを眺め、“「苦い」じゃないのか”と、意外に思いました。まあ、カカオは酸味も強い作物ですが。
「はいはい。じゃあ残りはおじさんが食べるよ」
「うん。そうして…こっちのチョコは、普通?あ、飴もある!」
「うん、あるよ」
悠はしばらくお菓子にはしゃいでいましたが、時子の夫がテーブルに就くと、やっぱりこう言いました。
「ねえおじさん。僕、やっぱりママには会えないの…?」
時子が7歳の時、時子の両親は離婚し、母親の方が家を出ました。「悠」は、そのショックを保存した存在です。
ここから少し長い説明をします。
悠は、時子の母親そのものを記憶して、欲している訳ではありません。
自分が母親の顔を知らない事に気づきもせずに、悠はただただ、「ママに会いたい」とだけ周囲に伝えます。
時子の母親像は、幼い頃から「お母さんがちょっと怖い」と思い続け、その後、時子が社会に踏み出してから、「うちのお母さんは私を虐待しているんだ」と知って逃げ出すまでの、大きな流れです。
その流れと、7歳の頃に母親が恋しかった気持ちは、矛盾してしまう。だから、母親の記憶は切り離された。僕はそう見ています。
「ママはここには居ないし、来ないからねえ。会えないねえ…」
残念がるように目を伏せ、時子の夫は悠にそう言います。
「そっかあ…悠君、もう眠いから、寝るね」
悠は自由奔放に寝室に寝転びに行き、この間時子が買ったばかりの、メンダコのぬいぐるみを見つけました。
「あ!これ!これかわいい!なに!?」
「それはね、「メンダコ」。タコだよ」
「へえ〜!タコさんかあ!」
近くにあったネコのぬいぐるみ、それからメンダコのぬいぐるみを一緒くたに抱き締めて、頭から布団をかぶって安心してしまうと、悠はそのままゆっくりと眠ってしまいました。
僕が目覚めた時には、まだ溶けかかって甘ったるいミルクキャンディーが口の中で存在を主張していて、僕の両手は用もないのにぬいぐるみにしがみついていました。
今回悠が出てきて怖かったのは、スマホは小さな子供でも感覚的にいじれてしまう、という所でしたね。
さて、ここまで読んだ皆さんは、これをどう感じたでしょうか。もう一度、時子が34歳の女性で、いつも怯えて遠慮がちな人物だと思ってみて下さい。
僕達は、時子の部分でありながら、時子とは様々に、極端に違うのです。でも、それは、時子が発揮出来なかった感情的傾向が、僕達だから。悠のような寂しさ、奔放な素直さも、時子は持っていた。そういう事です。
お読み頂き有難うございます。また来てくれると、嬉しいです。それでは。
つづく
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