幽霊鉄道少女紀行

白烏三鳴

第1話 出発進行

服装は、完璧に。 【取り消し】

荷物:着替え、洗面用具、ビタミン剤、予備のノート(10冊)。 完璧。 【取り消し】

今日は何も忘れていない、完璧。 【取り消し】


深夜の地下鉄駅で、1時間前から入り口で待っている制服姿の少女は、スーツケースに腰掛けて予定表の内訳を一つずつ消す。

ちなみに、彼女の名はミドリ。


ミドリは昔から家出とは無縁ないい子だ。

母が家に出た後、父のもとで厳しい躾を受けて育ち、周囲から見て品行方正な女性となり、生徒会書記に選ばれたこともある。

物忘れがひどくても、父親の介護と手元にあるノートのおかげで、普通の生活ができるようになった。

今までは、問題ない。

「書記!おやすみ!」

家出の旅のガイドとして招かれたギターケースを持った少女が、手を振ってミドリの方へ走ってきた。

彼女はトキワ、ミドリの遠い親戚の養女である。 中学から高校まで同じ学校に通っていたものの、ミドリとはほとんど接点がなかった。

友人でも何でもない。

ミドリにとって、片目をわざと前髪で隠し、髪を黒と紫という奇妙な色に染め、授業もよくサボる問題児なんで、実に絡まれたくない。

「おやすみ。遅いんですね、途中で何かあったのかな?」

(ルースなやつめ!)

ミドリは舌を噛み、口から出てくる言葉を飲み込んだ。

腹たつは腹たつが。父によく「淑女はキレてはいけない」と言われ、怒るよりも笑顔や丁寧な言葉遣いに慣れるようになった。

「ごめんね、帰る前にちょっとお腹が空いちゃって、麺を作るときに時間を忘れちゃったんだ〜おこちゃった?」

「いいえ」

「よかった!怒らせたかと思った!」

「あの、『今回の件』について質問がありますか?」

ミドリは手のひらサイズのノートをポケットに入れ、切符二枚を入れた封筒を取り出す。

「書記を幽霊鉄道『青鳥線』の終点駅に連れて、その代わりに切符一枚あげることだよね」

トキワは切符を手に取り、街灯にかざしながら見つめる

「わあ、本物!青鳥線の切符は海水で作ったからライトが当たると微生物が見えるんだー!」

どうやらトキワが大喜びのようだ。

青鳥線は、あるきさらぎ駅と同じく、都市伝説のようなものです。

しかし、きさらぎ駅が1つの駅であるのに対し、鉄道路線としての青鳥線は異界駅より、異界鉄道である。

なぜか終着駅にいるミドリの母親は、そこの郵便局に通じて切符を送るのだ。

一方、ミドリは最初は開封する気もなかった。

なお家には彼女しかおらず、郵便局員は急いで次の家に行く故受けずにはすまない。

幸いなことに、それはピストルでも盗品でも怪しい白い粉でもなく、2枚のチケットと名前もなく、真っ白なディスクだった。

ーー面倒くさい。

そう思いながら、ミドリはディスクをパソコンに入れた。

そして、モニター映えたのは、父と母が家で言い争いをしている映像だった。

すでに不倫をして妊娠した母親は、お腹を抱えて父親と口論をしていた。

まだ小さかったミドリは母親のスカートをつかんで説得しようとしたが、父親に突き飛ばされてコーヒーテーブルに頭をぶつけてしまった。

母親は悲鳴を上げ、父親はその隙に彼女の髪を掴み、家から引きずり出す。

ミドリはそれを全く覚えていない。

彼女は憑かれたように、父の暴行を何度も何度も繰り返し再生した。

5分も経った頃、彼女は吐きなくなった。

10分ほど経つと、彼女は徐々にしびれた。

30分後、彼女はやっと落ち着いて、自称都市伝説好きのトキワに電話をかけた。

彼女はついに、自分の人生を狂わせた送り主を探し出す決意を固めたのだーー母から失った記憶取り戻したい、と思っていた。


そして現在に至る。

「だけどさ」

ミドリは、トキワの尻についている、ビニール袋で頭をかぶっている男の子をじっと見ている。

その子は短パンに半袖のTシャツという、近所のガキと変わらぬ格好をしていた。

しかし、上に(◞‸◟)の顔文字を描かれている大きいビニール袋で頭を遮るなんで、まるで何かのコスプレをしているような状態です。

「あのさぁ、二人きりって言ったよね。」

「一人増えたらもっと楽しいから誘った。 そうだろう、ウグ?"

トキワは、ウグと呼ばれるもがき苦しむ少年をつかみ、ミドリの目の前で抱きしめた。

「うー、うー、うー、うー、うー、うー......!」(倒れこむ)

少年は幽霊を見たかのように地面に倒れ、怯えた蜘蛛のように後方に移動した。

「なんて失礼な、私は怪物か?」

「あぁ"!? アワアワ!」

「たぶん、怖いんだろう。書記にもう一度挨拶してみて?」

ビニールボーイ、ウグはゆっくりと立ち上がり、頭を下げてジェイドの前に移動する。


「おっ、おっ......」

彼の手は、何か書くものが欲しいというようなジェスチャーをしています。

「ノートを持ってるから貸してあげるわ。あまり強く書かないで、紙が壊れるから」

ミドリはノートとペンを取り出す。

「うん」

ウグはそれを両手で持ち、言いたいことをさっと書いてノートを渡した。


『話せないから、嫌いにならないて』


ウグは彼女と向き合い、恥ずかしそうに指を弄りながら、こう書く。

......とても!かわいいです!

母が家を出るとき、第二子を妊娠していた故、ミドリはずっと「弟」や「妹」ができたらどんな感じだろう......とよく考える。

多分こういう感じだろう。

「わかった、あとで新しいノートをあげる」

かれざる客はあまり気持ちのいいものではなかったが、この子なら多分OK。

「その通り。終着駅に着くのは数日かかるから、これから仲良くしてね。」

トキワが軽く言うがミドリは愕然とする。

「ガガガ学校はどうする???」

「書記良い子だね。とりあえず『ドラえもんがのび太を別の時代に大冒険に連れて行って、たった5分で現代に帰ってきたのと同じ』って感じ?」

「軽率すぎる!!!」

「これだから面白いじゃん。」

「ああ、本当に、あなたって人はーー」

そこで路面電車の音がする、もう遅い。

「おお、来るかな?」

トキワは首をかしげながら、遠くに聞こえる路面電車の音に耳を傾けていた。

しかし、彼女は駅には駆け込まず、歩道に飛び出し、道路の向こう側からやってくる強烈な白い光に目をやる。

"みんな、準備して!いくよ!"

トキワは誘導旗で近づいてくる光を指差した。

鋭い音とともに、白い光ーー道路の真ん中を疾走する路面電車のヘッドライトが、強い風を伴って夜を切り裂いたのである。


ぱたんと、ミドリのスーツケースが倒れる。

「路面電車が道路を走るだと......?」

ミドリ自身も、道路の真ん中に停車している路面電車に怯え、道端で固まっていた。

「深夜に地下駅の入り口で切符を持って待っていれば、途中で路面電車に乗れるよ ってと言ったんでしょ?さあ、乗ろう!」

トキワはツアーの旗を掲げて、明るくて清潔な車内に飛び込んだ。

見た目は普通だが、中のポスターや説明文は、わかりにくい言葉で書かれています。

「早くしてよもうー!いつも待てると退屈で死ちゃうよ!」

「待てよ、これはちょっと......」

ミドリは無意識のうちに後ずさりしていた。

彼女はいつも「予定せぬ事」を怖がっている。

「無理!絶対無理、私は一度でもーー」

「はぁ…まさかお母様をずっとそこに待つつもり?」

「いや違う!私はー」

「よいっしょ!」

「おい!」

ミドリが躊躇していると、ずっとそばにいるウグはすでにスーツケースを手に取り、車に飛び乗った。

「待って、勝手に荷物持ちするな!」

ミドリは反射的にジェイドが追いかけてきた。

彼女が一歩踏み出した途端、ドアがバタンと閉まった。

そこで音質の悪いアナウンスが鳴り響き、トキワは泥棒のような笑みを浮かべた。

その時初めて、ミドリは自分が大変なことになっていることに気づき、閉まったドアに突進したが、列車はゆっくりと駅を離れようとしていた。

「私をハメたわね!」

「トキワわかんない〜」

「うんうん」(うなずき)

「うぅ......二人とも、覚えているかな!」

ミドリはスーツケースを手に取ると、隅の席に引っ込んだ。

その姿はまるで小さな怯えた犬のようで、どんなに虚勢を張っても、震える足を隠すことはできない。

「覚えてやる!着いたら精算しよう!」

ミドリは罵りながら手帳を取り出す。

「もちろん、どういたしまして〜」

トキワは向かいの椅子に座る。

「これからよろしくね。書記。」

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