02 白の部屋と死後の世界と記憶の無い私
窓一つ無い白い壁の廊下が続き、斜め向かいに同じような扉があり、その先の斜め向かいにも扉が並んでいた。
「ここはどこ?」
私は案内してくれている人に聞いてみたが、こちらを振り向かずに歩いている。
しばらく同じ風景が続き、歩いていると目の前に大きな観音開きの扉が現れた。
その扉を案内の人が開け、中に入る。
そこにはいくつかの人や動物の形をした者が並んでいて、その先頭付近には忙しそうにしている人物がいた。
「(ここ、あの夢で戦闘があった所だ……)」
そんな事を思いながら立ち尽くしていると、案内の人が列に加わるようにと促してきた。私もこの列に加わった。
列の様子を観察していると、人は忙しそうな人の前に立ち止まり、それ以外はそのまま開いた扉に吸い込まれるように進んでいる。
人は話を聞いた後、青い扉の方に向かい、扉前の人から何かを受け取っているようだ。そしてその後、青い扉の中へと入っていった。
人以外が入った開いた扉の先は真っ白で全く見えず、ずっと見ていると私自身も吸い込まれそうと恐怖を感じた。
私は目を閉じ、扉を見ないように列で待った。
またしばらくして、その忙しそうな人物の前に立った。
その人物は少年の姿をしていた。見た目は活発な少年といった感じだ。
やんちゃ坊主が無理やり机に座らされ、宿題をさせられているという感じと似たような雰囲気が出ている。
座っているので背丈がどのくらいかはわからない。おそらく私と同じくらいだろう。
少年がちらっと私の顔を見て、
「俺は局長のゲンだ。ふむ、人間の女性だな。名前は?」
と、ゲンと名乗った少年が聞いてきた。
人間だなと確認されたのは初めてだったので、少し驚いた。
「……どうした? 名前を憶えていないのか?」
少年は怪訝そうな顔で私を見る。
「ごめんなさい。私の名前はムウです。漢字と苗字は思い出せません」
と答えると、ゲンは1枚の紙を確認し
「夢と羽と書いてムウと読むらしいが、覚えているか?」
と問われた。
覚えていないので私は首を横に振った。
「……なるほど」
と言い、少年は小さな声で記憶に欠落ありと呟いて書類にメモを取った。そして、
「あそこにある青い扉から出てくれ。あと、詳しいことはこいつに聞いてくれ」
と、ちょっと古めのぬいぐるみを渡された。
猫なのか狐なのかわからない姿をした二足歩行のぬいぐるみだ。おそらく猫だろう。
さっき言われた青い扉の方に、既に先程案内してくれた人が立っていた。
青い扉の前に行くと、その案内人の向かいにテーブルがあり、そこに別の人が1人座っていた。
その人も顔を隠している。
「これが最初に支給されるお金です。……! あ、あと、こちらは特別支給されるお金です。お金は配達報酬でも貰えますので、それで必要な物を購入してください」
と言い、お金の入った封筒を渡してきた。
2つ目の封筒には月と太陽のマークが書かれていた。2つ合わせるとちょっと分厚い。
特別支給の袋を見てびっくりしている感じがしたけど、なんだったんだろう?
そんなことを思いながら青い扉の所に歩いていたら、先程案内してくれた人が青い扉を開けてくれたので、私はその扉をくぐった。
---
扉を抜けると、今度は普通の建物の廊下のような所に出て、色んな扉が並んでいるのが見えた。しかしここにも窓は1つもなかった。
案内の人の後ろに付いて行くと、1つの扉の前に着いた。
その扉を開けると目の前にロッカーが2つ並んで置かれており、奥へ進むとベッドが両サイドに置かれていた。
シェアルームという感じだ。
「シェアルーム?」
と、聞くと
「ああ、そうだ。だが、まだルームメイトはいないぜ。これから増えるから空けておけってさ」
と、手に持っていたぬいぐるみが喋りだした。
「うわ!」
驚きながらそこに視線を移すと、
「俺はゲンと言うんだ。ここの郵便局の局長しているよろしく」
ゲンと名乗ったぬいぐるみがえっへんという仕草をしている。
「ぬいぐるみが喋った……。うん、やっぱり夢だ」
「うん? どうした?」
ゲンは首を傾げている。
「腹話術?」
「くく、ち、違うわ。そもそも本体いないじゃないか」
ゲンは笑いながら否定した。
「そうですか、残念。よろしくお願いします」
「何が残念なのか知らんが、まあよろしくな!」
と言い、握手をしようと手を出してきた。私はその小さな手を握った。
「えっと……ここは郵便局なの?」
「ああそうだ。ここは
「え? 私、働くの? 夢の中でも?」
さっきも配達報酬とか言ってた気がする。
夢くらいゆっくりしたいのに。
私は頬を膨らませる。
「まあ、現世の速達とかそういうのは無いから、ゆっくり運ぶといいよ。それに局長である俺がサポートする」
ぬいぐるみはドンと構えている。
「局長ってさっき忙しそうにしていた少年じゃないの?」
ぬいぐるみを隣のベッドに置いて話し始める。
「俺もあいつも分身みたいなもんだ。これからムウの事をサポートするために同行するからよろしくな」
ぬいぐるみの局長、ゲンは器用にサムズアップをしている。
「じゃあ早速オリエンテーションと行こうか。まずそのロッカーの下の段に置いてあるカバン、それが支給される郵便局員専用のカバンだ。無くすんじゃねーぞ」
大き目の肩掛けカバンが置かれていた。チャックで開けるタイプのようだ。
「はい」
「次に、この靴だ」
とゲンは1番下の靴を指す。
「そいつは特別製でな、霊体で浮いてしまう身体を地面に固定して歩くことができるようにするものだ。無重力でも地面があれば歩けるな」
ゲンは不思議なことを言う。
「宇宙にでも出るの?」
不思議に思ったので聞いてみた。
「お、察しがいいな。基本的に無重力の中を走りまわることになる。ただ、夢の中はそうとは限らない。ふわふわとした無重力な世界やしっかりと重力のある世界もあるからな」
ゲンはまたもや不思議なことを言う。
「え、ここは夢の中じゃないの?」
「いや、ここは『夢の星のある世界』だ。ざっくり説明すると、今までムウがいた世界は『現世』で、今いる世界が『夢の星のある世界』、そして未練が晴れた後に行くのが『輪廻の世界』だ。49枚の切手を集めることで未練が晴れ、輪廻に帰ることができる。ちなみに、ここで寝ると現世で幽霊として動き回ることができるぞ」
ゲンはうんうんとうなずく。ざっくりしすぎてよくわからなかった。
「横から失礼しますね。この世界がどういうシステムなのかは徐々にわかってくると思います。記憶の欠落がある方は、サポートで局長とオペレーターのわたくしルイがつきますので、何でも聞いてください」
起きた時から案内などをしてくれた人が突然話に入ってきた。
先程までつけていた顔の布と帽子は外されており、男の人だとわかった。あと、頭から小さな角が生えている。なんか紳士的なオーラを感じる。
そのルイと名乗った男の人が丁寧にお辞儀する。
「ルイさんですね。よろしくお願いします」
私も釣られて頭を下げる。
ルイは私に笑顔を向ける。
「喋っても大丈夫なの?」
私はルイの顔を見る。ちょっと幼い感じがする。たぶん10代かもしれない。
「先程は話しかけてきてくれたのに、失礼しました。さっきの場所ではダメでしたが、今なら大丈夫です。」
ルイは顔を隠していた黒い布を見せた。
「そうだったのね。喋れない方なのかなと思ってた。」
ルイはそれを聞いてニコニコと微笑んでいる。
「それでは、外で待っていますので、着替えて準備ができたら声をかけてください。」
「あ、サイズは大丈夫なの?」
私はロッカーの中の物を見ながら言った。
「大丈夫ですよ。その人のサイズが合うようになってます。それでは、外で待ってますね。」
と言い、ぬいぐるみのゲンを抱いて、扉の方へ向かった。
ゲンは、うお! と言いながら抱えられて出て行った。
私はそのままの格好でベッドの上に腰掛けた。
「死後の世界? いや、私は死んでいない……はず。」
私は目を瞑って自分の身に何が起きたのかを思い出そうとした。
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