ずっと一緒
楓
ずっと一緒
僕は今、監禁されています。
四日前、中学校から帰る途中に仲がいい近所の男性の家に上がりました。
彼は僕が小さい頃から近所の同年代の子たちと仲良くしてくれて、頭がよくていろいろなことを教えてくれて、みんなから先生と呼ばれていました。僕は今も彼をそう呼んでいます。
なぜなら本名を知らないからです。表札があるので苗字はわかりますが下の名前は聞いたことがないです。
今、僕は固い壁に囲まれた部屋にいます。ドアが一つあって、そこから先生が僕のところに来るとき上から足音がするのでおそらく地下室にいます。大声を出しても無駄なことは意識が戻って数分後経ってわかりました。
先生はとても身長が高くて、女性みたいに髪が長いです。性格などはちょっと暗い感じの人なのかなという程度の認識でしたが、ここに来て先生は異常だとわかりました。
毎日夜になって彼が仕事から帰ってくると僕のところに来て抱きしめてきて可愛い、愛しいと好意的なことを言ってきます。気持ち悪くて、けど抵抗したら殴られて、それなのにごめんねって言いながら傷の手当てをしてきて、歯向かうのはやめました。
僕のいる部屋は明るくて、暇を潰せるおもちゃもゲームも本もあります。食事もちゃんと出してくるし部屋から出られないこと以外不便がないくらいです。きっと、これからずっと僕に気持ち悪いことをするためにこういうことのを準備したんでしょう。それも、トイレとシャワーがあるので相当時間とお金をかけてそうです。
現状はこんな感じです。脱出を諦めたわけではありません。何か手掛かりがないか考えてはいます。とりあえず、今わかることを整理して....
足音が聞こえてきました。
ドアが一瞬で開いて閉じられました。ドアは外側から鍵をかける仕組みで、先生が部屋の中にいる間は簡単に開けることができます。問題は先生に捕まらずに逃げれるかどうかです。体格差から強引にいくのは無理だとわかります。隙がないか常にチャンスを伺わないと厳しいです。
いろいろ考えていると、先生が抱き着いてきました。男の僕をそういう目で見てきてて、不快。気持ち悪い。身動き一つ取れないくらい締め付けられてる。
そのまま抱えられて布団に入りました。息遣いが荒いのが分かります。
耐えなきゃ....
「ひゃっっ!!!???」
嘘、服の中に手を入れてきた。考えてみればありえるけど、けど、嫌だよ......
気持ち悪い。僕の身体がどんどん汚されていくのを感じる。なんで、僕男なのに....
_______________
先生のやろうとしてることがなんとなく分かった気がします。数日ごとに、徐々に触ってくる範囲が広がっています。おそらくそれ以上のこと....男同士の場合どうなるのかわからないけど、男女でやることの真似事をされる可能性があります。なんとかしないと。逃げたい。どうやって?警察は何やってんの?親は?学校は?なんで先生は怪しまれないの?明らかにおかしいでしょ。
そういえば、先生は人前ではまともに振舞っていました。異常なのはここで見た姿だけです。なんで?ああいうのが社会に紛れ込んでるのはどうして?素直にやばいやつでいてよ.....わかりづらいよそんなの......
__________
「なあ、ルカ。」
初めて話しかけてきました。
「な、なんでしょうか....」
「ごめんね。」
余計、気持ち悪さが増した。僕を傷つけて、そして謝罪するなんて。
「じゃ、じゃあやめてください。」
「ふふ、可愛いなあ。」
ほっぺたを触られてます。ありえない。
「喋らなすぎるとねえ、筋肉が衰えてほっぺたぷにぷにになるんだよ?知ってたかい?」
「知りませんでした....」
「なぜ知ってると思う?」
先生はどういうつもりなんでしょうか。話し相手が欲しいんでしょうか。
「わからないです。」
「俺がそうだったからだよ。」
「それってどういうことですか。」
「無口だっただけさ。小さい頃ね。」
僕は、自分を傷つけてくる人について深く知りたくないです。けど先生は一方的に話してきました。
質問されたら答えられるよう、少しは聞いていました。答えなかったらどうされるかわからないので。
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この前、先生とキスをしてしまいました。キスってこんな簡単にできちゃうんだなと思いました。自分の感覚がおかしくなりそうです。男同士で、しかも僕はまだ13歳で、どのくらい年の差があるのかわからない人とするなんて。自分がこうなるとは思っていませんでした。
ある日、先生に年齢を聞いてみました。なんで自分がこうしてしまったのかはわかりません。きっとこの環境に適応しようとしてるんでしょう。だから、少しでも慣れるために自分から話しかけてみました。
「34。」
「そうですか....」
34歳っておじさんのイメージでしたけど、先生は外見だけなら若い女性に見えなくもないです。でもキスしたときの匂いは男の人のそれです。それに顔が暗いのも、大きな体もちゃんと男性です。この矛盾する感じが、僕の感覚を麻痺させていくような気がします。恐怖を忘れそうで、そのうち慣れてしまいそうな自分が怖い。
___________
「先生は何の仕事をしてるんですか?」
「IT系だよ。しんどいけどね。だからこうやってルカに助けてもらってるんだ。」
「リスクがあるのは....わかっててやってるんですか?」
かなり際どい質問をしてしまいました。
「もちろんだ。けどもうすぐ安心できる生活が送れるよ。だから大丈夫だ。」
安心できる生活?先生にとって都合のいい生活ができるってこと?嫌なことを知ってしまいました。
「そうだ。ルカはオナニーってわかるか?」
「え?!えっと、その、聞いたことはあります...」
直接そうことを言われるのは初めてです。それに、嫌な予感しかしない。
「ルカはしたことないんだね。」
「そ、そうです....」
「やり方は知ってる?」
「あんま知らないです....」
「そう.....じゃあ、明日ね。」
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頭が痛い。矛盾、葛藤が頭の中で膨張していく。どうすればいい。どうするのが正解?耐えるしかない?それとも.....いいやその選択肢はだめです。
僕には抱えきれない問題。僕の小さな頭では到底対処できない、考えられない。どの選択肢も嫌だ。絶望的な状況だとわかってるのに、その答えに到達しないようにずっと回り道をしている気分です。
昨日の夜、先生に気持ちよくされてしまって、このまま受け入れたほうが楽だと、一瞬心の底から思ってしまいました。
これから、毎日されるなんてありえない。
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それからはあっという間でした。先生は僕が出したのを全部飲んでいました。先生のを咥えるよう言われました。これだけは拒否しましたが、先生の僕を見る顔が怖くて、従うしかありませんでした。そして逆もありました。
もう日付を数えることができなくなって、気づけば僕のほうから求めることもありました。自分の中の矛盾で葛藤する時間も減りました。苦しいことはないほうがいいんだと知りました。そもそも、プライドや人権なんていう目に見えないものになんですがっていたのか、自分でもわからないです。それに固執する理由ってあるんでしょうか。
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「男同士の交尾ってどうやるか知ってるか?」
突然、先生がそう言ってきました。
「男同士でもできるんですか?」
「できるよ。ちなみに子供もできる。」
「え、いやそれは流石にないと思いますよ....」
「いいや、実はできるんだよ。ルカはまだ知らないだけさ。」
え、本当?聞いたことないですが。でも知らないだけって言われるとたしかにそうです......
「ルカのお腹の中にも卵子があるんだよ。わかる?」
「え、そうなんですか....てことは先生にもあるんですか?」
「そうだよ。」
え、え、ええええええ????!!!!驚くべきことなのかどうかもわからないけど、知らなかったというか聞いたことないよ....
「だから男同士でもゴムがいるんだよね。なかったら赤ちゃんできちゃうからさあ。」
やっとこのときが来たんだと感じます。それ以上のことは考えられません。僕は自然に彼に身を任せました。僕の欲求は先生のそれと常にうまく嚙み合っています。
ある日、先生がずっと部屋にいるようになりました。
「先生、仕事はどうしたんですか?」
「やめた。だから今日から毎日一緒だよ。」
嬉しいです。もう毎日寂しくて一人で苦しむ必要はなくなります。
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今年で僕は18歳になりました。先生は毎年僕にプレゼントを買ってくれます。今回は服を買ってくれました。女の子物の可愛いやつです。
先生に可愛いって褒められてるときが一番好きです。先生は僕のすべてを受け入れて、包み込んでくれる。先生の身体に密着してると温かい。
「水着姿のルカも可愛いねえ...」
そう言って先生は僕のお腹を撫でてきます。焦らしてばかりしてないで早くしてほしい....
「へへ....先生.....僕、先生と子供作りたいです....」
つい言っちゃった。でも、先生ともっと一緒になりたい。
「子供がいると面倒ごとが増える。すぐには返事できない。」
「じゃ、じゃあせめてつけずに....」
「つけずにしたいだけなのか?」
「そ、そうです.....」
直接言うなんて、、、、すごく心臓がバクバクしてる。でも先生なら、受け入れてくれます。
「ルカ、言っておきたいことがある。」
「なんでしょうか。」
「実は子供ができるってのは嘘なんだ。」
「え、え??!!どどどどういうことですか?!つまりつける必要はないってこと??じゃあ今までのは」
「ルカのほうから言ってくるのを待ってただけだよ。我慢した分だけ気持ちよくなれるじゃないか。」
じゃ、じゃあこれからは、今までよりももっと一緒になれるってこと?!
「男同士でよかったです。先生、好きです....」
もっと、先生と一緒になりました。
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どのくらい経ったのかわからない。何年一緒にいるんだろう。先生は疲れ果てて寝ています。そういえばあのドア、開くんでしょうか?
先生の腕の中から離れました。ちょっとよろめいています。お尻から液体が垂れてきてる。
ドアに手をかけた。その瞬間、何も考えられなくなった。いろんなことがフラッシュバックした結果何も判断ができません。勢いに身を任せて押して音がした途端、後ろで布団を薙ぎ払う音がしました。先生に軽々と持ち上げられて布団に投げ倒された。やってしまった。気づいちゃダメなのに。
先生は何も言いませんでした。先生は見たこともないような、怒りと悲しみに満ちた顔をしていました。
僕に先生の考えはずっとわからないです。
どうして先生はこんな生活を望んでいるのか、この先どうするのかも。
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最近、先生の調子が悪そうです。いつもよりももがき苦しんで僕を求めてきます。
「先生、大丈夫ですか?ほら先生。今日はセーラー服ですよ。もう二十歳ですけどまだ似合ってますか?」
「大丈夫。今日もルカは可愛いよ。ちょっと不安なだけ。ルカがいるから大丈夫。」
先生はそう言ってくれてますが、今日の先生はどう見てもおかしかったです。途中で過呼吸になったり横になって寝込んでいました。
僕はどうすればわからなくて、ただ傍に寄り添って、肌を密着させることしかしませんでした。
二か月ほど先生は辛そうにしています。どうすればいいかわからない。そもそも助ける必要があるかどうかもよくわからないです。でも何年も体を使うだけの生活をしてるからしょうがないというか、それ以上のことは経験したことがないので何もできません。
先生はご飯を食べることも減りました。食事はいつも先生が持ってきてくれますが日に日にほぼ一人分になりつつあります。徐々に先生の腕が細くなっていくのが分かりました。
.........................
真夜中に先生に起こされました。
「先生、どうしたんですか?」
「ルカ、落ち着いて聞いて欲しい。今から注射をする。」
「え、どういうことですか?注射って....」
「実は大人になると病気の対策のために必要なんだ。ルカのために特別に入手したんだよ。」
「そうなんですか....」
本当かどうかわからないけど、そんなことよりも注射って痛そうです。でも先生が傍にいるから....
「ちょっと我慢してろよ。」
ん.....結構痛いけど思ったより我慢できた....
すぐに先生がキスしてくれた。頭がふわふわする。意識がはっきりしない.....このままいつもみたいに先生に身を任せよう.....
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最初に頭に衝撃を感じた。次に全身の痺れ、体中の神経の場所がはっきりしたのかと勘違いしてしまいそうなほどの、警告の電気信号を感じ取れるほどの、何かが起こった。すぐに暗闇ですらないどこかに投げ出された。一番近いのは寝た後の状態。
僕は死んだようです。それ以上のことはわからない。
”僕”はどこにいるんだろう。そもそも、在るかどうかすらわからない。でもわかることはあります。あの人はまだ近くにいます。また一緒になれる。
ずっと一緒 楓 @reality
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