第16話
0―0、両者無得点のままハーフタイムの休憩に入った。
敵からのメッセージは何もない。ただの遊びでないという雰囲気が、試合中でも伝わってきた。おそらく向こうもそう感じているに違いない。
卓は
ハーフタイムに入る前、チームライトニングはディフェンスも攻めに入り始めていた。竜王のオフェンスも同様に守備に入らざるを得ない。パラメーターが分かるきっかけと、早急なカウンターが有効だろうと卓は考えていた。
「おっさん、結構シビアだねぇ……まだ相手のパラメーター分からないの?」小海が素足で卓のくるぶしをタッチする。
卓はゴーグルをつけたまま、考え込んでいた。
「選手を交代して、ディフェンスのパワーを平均的に上げよう。愛華ちゃん、攻撃の形は崩していいから、ボールになるべくアタックしてくれる? 情報が欲しい」
比較的スタミナが低くパワーが高い守衛寄りの選手に、ハーフタイムで選手を変更した。
後半戦のホイッスルが鳴る。
早速、ライトニングはウイングの11番にパスを出し、突破を試みる。
小海の最初のディフェンスが追い付くが、ドリブルで抜けられる。二重の防衛線で用意していたセンターバックが駆け付け、11番は侵攻を停止した。
逆サイドの敵選手にもディフェンスを張り付かせており、打つ手がなく、11番はバックにボールを戻した。
愛華のミッドフィルダーがアタックしようとするが、敵はその前にパスをしてフリーな選手がボールを受けると、また膠着状態の雰囲気が漂う。
「おっさん、敵の11番のカバーを少しの間、外そうか」
踏ん切りがつかなかった卓は、小海の意見をきっかけに決心した。
「こちらのディフェンスのエースがバレると思うが、2番ひとりで敵11番を任せよう」
「了解」
迅速に配置を変えて、ボールを支配しているセンターに猛攻をかけた。
サイドバックが、敵のパスを読むように次から次にアタックする。
とうとう守備のミッドフィルダーにつかまり、小海がボールをカットした。
その瞬間に、カットされた敵ミッドフィルダーのスタミナが判明する。そして卓の頭の中にある比較表に、値がパズルのピースのようにあてはまっていく。
選手に割り当てられるポイントを補欠も含めて考えても、敵のウイング11番は、こちらのディフェンスエースの2番より低い、という結果がはじき出された。
小海は奪ったボールを愛華の8番にパスする。
8番は敵を強行突破し、ペナルティエリアまで迫ったが、まだ敵を十分引き付けていない段階でセンターにパスを出してしまった。
「おわっ!」卓はセンターフォワードを敵から離せていなかったため、スタミナの低いセンターフォワードはあえなくボールを奪われた。
「……ああっ、ごめんなさぁい。早くパスを出し過ぎました……」
「愛華ちゃんのせいじゃない、センターにパスする戦法だったからね。……今、敵のパラメーターが分かった。いまから配置替えする」
「やっと分かったか、おっさん」
ディフェンスは最低限の壁にして、オフェンスに残りの選手を投入する。
反撃開始、そう思った瞬間、敵のウイング11番がドリブルして、ディフェンスのエース2番と対峙する。
2番はスライディングでボールを奪おうとするが、11番は振り切ってシュートを放った。
「え?」卓は想定していない状況に固まる。
11番のシュートはゴールネットを揺らして、0―1でライトニングが先制点を入れた。
『ゴーーーーーール!!』
画面から歓声が聞こえる。
小海が固まった卓のくるぶしを叩いた。
「おおい、おっさん! 大丈夫か!」
「……おかしい。そんなはずはない……」
計算を間違えた? 比較表が間違っている? もしかすると、俺の知らないルールがあるのか?
卓は混乱した。
「すまん。とりあえず、もとの陣形に戻す」
敵11番に二重の壁を敷き直し、亀のような強固な陣形に戻る。
サイドのミッドフィルダーが守備に回っているため、左右を活かせず、愛華の8番は二重の攻めに合って、ボールを奪われてしまった。
守備の形に戻すのは悪手だった、と卓は反省した。多少リスクがあっても、ゴール後のキックオフは前線にミッドフィルダーも投入すべきだった。
しかしもう試合は流れており、取り返しはつかない。
敵はボールを支配し、思惑通り終了のホイッスルが鳴る。
チーム竜王は0―1で敗北を喫した。
「負けちゃいましたね。でも、楽しかったです。こんなワクワクしたの久しぶりです」
愛華は小さく拍手した。
「まあ、相手もすげー強かったと思うよ、おっさんそんなにフテくされるなよ」小海はゴーグルをつけたまま頭を抱える卓の背中を大きく叩く。
それでも卓は時が止まったかのように、じっとして動かない。
「お父さん可哀想……」愛華が抱擁しようとしたが、小海が引き留めた。
「おい! おっさん! 情けない姿、
卓の腹にパンチをすると「うっ」と声を出して、卓はゴーグルを取った。
「二人ともごめん……俺が間違っていたかもしれない」
卓は涙が出そうになって、ゆっくりと小海の部屋から出て行った。
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