マスターワールド(仮)
隊長オーク
第1話 いつものVRゲーム1
1
親父に連れられてこの寒い時期に北の方に来ている。
来月になれば俺も15歳の1月1日を迎える。王族や貴族は知らないけれどほとんどの人間はその日に大人になって異界で自分の大人としての立場を築く。って言ってた。
親父はその異界で落ちこぼれて、自分の農地も確保できずに仕事のある所にフラフラと流れる仕事になったんだと思っている。言ったら思い切り殴られそうなので秘密だ。
一応、保護者とは一月に一日は一緒に過ごさなくてはならないので、親父が日帰りできる範囲に住んでいる。
昔は解体作業とやらで一箇所に3年ほど居る事も有ったが、10歳を越えたあたりから半年ほどで引越しする生活に変わってしまった。
今は親父がダムの修繕作業の仕事らしく、ダムのある山の麓の村に住んでいる。
毎朝の日課で剣を振っている。なんでか?異界ってのは剣と魔法でドンパチやるらしい。つまり、剣の腕はそのまま異界でも通用するらしい。
その為に今日もせっせと精進するわけさ。
なんにしても親父にすらまだ勝てないのはかなり問題なのだが、子供と大人の違いって事で。
それからいつもの様に村長のでかい家の隣にある図書館へと足を運ぶ。
「おう。モモちゃんは今日もサボりか。ちょうど良いや井戸から水汲んできてくれや」声を掛けてきたのは図書館の爺だ。頭の天辺が肌色で白い髪が回りを囲んでいる。
重そうにバケツを二つ持ってヨロヨロ歩いているのを手助けしてから毎日頼まれる様になってしまった。まったく親切にしてやるんじゃなかった。
村の真ん中には共同のトイレと風呂、それから水汲み場が用意されている。
一番近い家が村長の家で、その隣に図書館があるから大変でもないが毎日頼まれるのは面倒だ。
一番遠い俺の家まで汲んで持っていくのを考えるといつもここで昼間は茶を飲んで、家にはあまり水を持って帰らないけどね。
ここに来てからは日課のようになってしまったが、水を汲んで貯水槽に水を入れてやる。
「いつもありがとよ」という爺に手を上げて答えて、図書館の奥に進む。
図書館には必ずVRルームがある。
ちょっと重たい分厚いドアの向こう側に三段ベットが左右に並べて置いてあり、ベットにはそれぞれプラスチック製の白い帽子が置いてある。
規模こそ違うもののどこのVRルームもほとんど同じだ。ここは三段ベットが6台で前の町では12台置いてあった。
白いプラスチック製の帽子を被って、ベットに横になってからベット脇にあるスイッチを押すと暗闇が草原へと変わる。
いつもそうだ草原に寝そべった状態から始まる。
空には「続きから」という文字が書かれた玉が浮かんでいる。
本当は「ゲームを選ぶ」や「難易度設定」「続きから」の三つの玉が浮かんでいるらしい。
目の前には「ゲームを選ぶ」や「難易度設定」の玉は浮いていない。続きからオンリーだ。
別に始めから無かった訳では無い。
どういう仕組みなのか7歳になるまで図書館のVRルームは使えない。
ちょうど7歳になった時に通っていた学校の友達と連れ立って学校帰りに毎日のように通っていた。
そんな時に誰だったか「この剣のゲームで一番難しくして、誰が一番早くクリア出来るか競争しようよ。」と言い出した。
難易度がレベル3だか4でも簡単にクリア出来たし、途中終了して難易度設定の変更が出来た。
みんなして最高難度レベルMAXでトライを始めてしまった。
一つ一つのエリアで敵を全て倒しきると次のエリアへ行くドアが開くゲームで、全部で5つのエリアをクリアするとゲームクリアになる。
遠い記憶の中では第一ステージはゴブリンが3体だったと思うが最高難度ではイキナリ10体以上居る。
ゴブリンの大群を相手に武器は木刀のみの激辛設定に「攻略不可能」を瞬時に理解した。
そして、クリアしないと設定の変更もゲームの変更も出来ないという理不尽さも・・・・・そうなってしまえば、ただ袋叩きに合うだけのゲームだ。
しかも、痛みも感じる危険なクソゲーだ。
当時はつまらなくなったゲームを誰もやらなくなり、みんなで外で遊んで過ごした。
そして、俺は10歳になると違う地域へと親父に連れられて引っ越していった。
引っ越した先では何故か?最高難易度設定にすると、変更が不可能になるのは周知されていて、誰一人として最高難度でクソゲー使用になっておらず、子供は放課後に図書館でゲームに明け暮れるのが当たり前だった。
まわりのゲームの話に全然付いていけずにたまたま海辺だったから、魚釣りにはまっていった。
一時期は学校に居るか、海に居るか、家で寝てるかという生活をしていたが、釣りで知り合った「カッカッカッカ」と笑う重爺と仲良くなって、図書館の本には最高難度でも通用するような戦い方の載っている本が有るという情報がもたらされた。
雨でおおしけの日に暇つぶしに図書館に行くと、相変わらず子供達で賑わうVRルームを尻目に本を物色すると確かに有った。色々な戦術や戦い方のコツ等が載っている本が。
内容はもう覚えていた無いが、本の内容を確かめるべくVRルームに行った。
学校の仲間達に茶化されながら試すと、今まで一度も倒せなかったゴブリンを二体倒す事ができた。もちろんその後は袋叩きだが。
それからというもの今に至るまで、本で情報を仕入れてはVRで試しての繰り返しだ。
もちろん使えない本も有るし、癖のように考えずに動けないと使い物にならないものも有って、未だに最高でも4エリアに数回行っただけだ。
ただ放課後に行くと子供達のたまり場と化しているので、VRルームは俺の様に設定変更できない奴にとっては、居心地が良いものではなく。
段々と学校に行かずに図書館に通うようになった。
今日の一戦目のゴブリンたち1体1体の間隔が広いようだ。
舐めていると第一ステージでやられる事もあるので真剣にやる。
木刀なので当然一撃で倒す事は出来ない。ジャストミートしても二発は叩き込まないと消えてくれない。
一番近くのゴブリンがこっちに向かってくる。
俺も駆け寄って一気に間合いを詰める。
ゴブリンが手に持った棍棒を大きく上に振り上げる。ゴブリンの攻撃は大振りなので1対1なら避けるのは簡単だ。
棍棒を避けながらカウンター気味に顔面に木刀を叩き付ける。後ろによろけるゴブリンに追撃で脳天から叩き込むと黒い霧になった。
周りに意識を集中して、近くに単体で居るゴブリンを秒殺していく。
6体も倒したときには、ゴブリンも小さなむれになっていた。近くに4体のグループとかなり離れた所に2体のグループが出来てる。
ゴブリンの危険性はゴブアッタクだ。一体のゴブリンを倒した瞬間を狙って、もう一体が攻撃を仕掛けてくる。倒した瞬間はどうしても隙が出来易い。
多対1は先手を取るのは重要だ。先手で1体仕留めれば1対3になる。
一番右端に居る奴に狙いを定めて一気に近づくと、左手側のゴブリンたちも退路を塞ぐかのように俺の後ろ側に回り込み始める。
躊躇う事無く間合いに飛び込みゴブリンが左によろける様に顔面を叩く。右前に一歩移動しながらもう一発ゴブリンに叩き込む。「よし」霧に変わった。
霧に向かって一歩前に出て、霧の後ろに居るゴブリンに一撃くれてやる。
さっきよりも大きく右前に一歩進んで追撃。何も出来ずに追撃をくらったもののゴブリンは倒せなかった。一撃目が浅かったか。
別グループの2体はすぐには来そうにないな。
ダメージを負ったゴブリンは、他のゴブリンの後ろに隠れる。
どうやら警戒してまとまっている。
グズグズしていると合流されてしまう、一番近いゴブリンに近づくと棍棒を振りかぶる。と同時に空いた腹に木刀を叩き込む。
剣は振りかぶらずにコンパクトに振りぬくってカブト先生(本の著者)も言ってたぞ。
よろめくゴブリンを無視して手負いのゴブリンを一撃で霧にして、後ろで待っていたゴブリンの大振りの一撃を避けて距離を取る。
このまま一気に押し切っても勝てるのだけど、一呼吸で限界まで動くとスタミナの消耗があまりにも激しいので余裕があればやらない。
今までの戦いでもスタミナは3%しか減ってないけど、追い討ちを掛けていたら20%は持ってかれる。
エリアをクリアする度にある程度は回復するが全快する保障は無い。
ゴブリンの2体なら挟まれないように外に外に動けば楽勝。サクサクと倒していく。
1エリアのゴブリンは、自分の位置取りとコンパクトに剣を振れれば、ゴブアッタクはほとんど回避できるから、意外に簡単に勝てるようになった。
もっとも棍棒でたこ殴りにされる経験のせいで一時は夢でうなされるほどトラウマになった事もあった。
2エリアのドアが現れる。2エリアはマジックゴブリン。
ただ単に魔法を使えるようになったゴブリンの事だ。大事なとこを藁で編んだような物で隠していたのが、グレーのマントに腕を通せるよにした服を着ているのが違いだろう。
持っているのは変わらず棍棒だし。
でも?魔法が使えると同じゴブリンなのに賢そうに見えるのは目の錯覚だろうか?
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