第191話 勇者召喚
日蝕からしばらくして、ここはジン王国――耕平のいる国がジン王国である。その王城に有る会議の間。
「ここしばらくの曇天だが、これはいつまでつづくのじゃ」
この国の王が家臣に意見を求める。
「はっ、陛下。文献によりますと、これは『魔王の季節』と呼ばれているもので、かの魔王を打倒、封印すれば元に戻るということらしいです」
学者のような様相の家臣が答え、その答えを聞いて周りがざわめいた。
「なんと」
「魔王だと!?」
「おとぎ話ではなかったのか?」
「……」
どうやら寝耳に水らしく、狼狽える家臣たち。
「静粛に! これは我が国だけで済む話ではないですぞ? 陛下」
議長のような進行役の男が皆に静まるように言う。
「うむぅ……。左様か。ではそのように取り図るように。教会はなんと言ってきておる?」
「はっ。勇者召喚の際にはぜひ立ち会いたいとのこと」
「ふむ。失われた勇者の武具が現れたと聞いて眉唾ながらも慶事かと思いきや……このようなことになるとはな」
王は鼻からため息をつくとキリッとした顔で命令を伝える。
「この『魔王の季節』の間は税を半分にせよ! 着服することまかりならん! 厳罰に処すことを置き止めよ!」
「「「「「ははっ! 必ずや」」」」」
所変わって王都の教会本部のある部屋にて。
「ねえねえガイちゃん。勇者召喚はまだ~?」
天龍のエウリフィアが豪華なソファに寝そべりながら、フルーツをあ~んと口に運んでいる。
外は相変わらずの曇天模様なので、部屋には蝋燭が灯されていた。
「はぁ、天龍様、王城には告げております。もう幾分かと」
「お姉ちゃん、待ちくたびれちゃう~」
エウリフィアがそういうと、まただらしなくゴロンと寝返りを打った。
「まぁ! フィア様、だらしないですよ!」
部屋に入ってきたのはニヴァリスだ。
――かつて邪神教団に昏睡状態にされ、耕平たちで救ったのだった。
「んん~? 誰かと思ったら聖女ちゃんじゃない。どうしたの?」
最近、名実ともに聖女候補から聖女になった少女は、プリプリと腰に手を当てながらエウリフィアを注意した。
「王城からお知らせです。なんでもまず各国の首脳会議を行い、それから我が国主導での勇者召喚が予定されているようですって」
「え~、それじゃあまだまだ時間かかるじゃない~」
ニヴァリスの答えを聞いてダラダラと返事をするエウリフィア。
「やはり、天龍様ご自身が拝見しなければなりませんか……」
この教会の枢機卿でもあるガイウス老が肩をおとしながら呟いた。
「そうなのよ~。お姉ちゃんたちの掟で決まってるのよぅ~。あ~ヤダヤダ」
そうなのだ。天龍たちは勇者が道を誤らないように監視する役目を負っているのだ。
これは神たちからの言いつけで、年少のエウリフィアにお鉢が回ってきたのだ。
「もう! そんなにゴロゴロしていたら御髪が乱れてしまいますよ! フィア様!」
ニヴァリスが甲斐甲斐しくエウリフィアの髪を手で揃えた。
そうして、ジン王国主導で各国との調整を行い、いよいよ勇者召喚の儀式が整った。
この間、一週間ほどであった。
異例のスピードで整えられたのは、各国もこの空模様を見て早急に動いたのだろう。
ジン王国の地下の一室を儀式の場とし、各国から持ち寄られた極大魔石が設置された。
「むぅ、これで勇者召喚なるものが本当にできるのか?」
「はっ、陛下。文献通りであるならばできるのでしょう」
ジン王国の王が壇上から訝しげに言うと、学者のような様相の家臣が答えた。
見下ろすと極大魔石が周囲に等間隔に設置され、その中には巨大で緻密な魔法陣が描かれている。
壁際には各国の関係者と、教会からはガイウス老、ニヴァリス、エウリフィアの姿もあった。
「では陛下、始めたいと思います」
「うむ」
学者のような様相の家臣が声をかけると、ジン王国の王は重々しく頷いた。
「では……創造神と光闇の夫婦神、双子の月の神、大地の神、……我は乞い願う、魔を打ち払う力を……」
学者のような様相の家臣が長い巻物を見ながら詠唱していくと周囲に等間隔で置かれた極大魔石が次々に光を帯びていく。
「おお!」
「これは……」
「美しい……」
壁際で見守っている人々から感嘆の声が漏れる。
その間も詠唱は続いていく。
次第に魔法陣も光を帯びたかと思うと、鼓動のように明滅し始めた。
「……ここに遣わし給え!」
学者のような様相の家臣が詠唱を終えると、サッと下がる。
魔法陣の明滅が次第に早くなっていき、各極大魔石からは光の柱が立った。
光の柱はそれぞれ違った色を帯びていて、キラキラと光りの粉が舞っているようだった。
すると、天井からドッと魔法陣に白い光が注ぎ込まれた。
あたりは一面真っ白に染まり、目をつぶっていても白に飲み込まれるような錯覚を覚える。
光が収まると極大魔石はサラサラと白い粉になって崩れていった。
いつの間にか魔法陣も消えてなくなっている。
その中心には見慣れない服を着た黒髪の四人の青少年たちが横たわっているのだった。
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