第189話 アイススケート






 南の島で避寒して過ごした俺たちは、また冬真っ只中の拠点に帰ってきた。

 まだまだ雪が残り、なかなか外に出る気にならない毎日が続く。

 とはいえ、雪が降る日も減ってきており、春まで今少し、といったところだ。

 皆も暇を持てあましているようだった。


 う~ん、これはこれで良くないな。俺は何かすることはないか、と頭を捻る。

 そうだ! あれなんかどうだろう。

 俺は思い立ったら吉日、ということで、早速作業に取りかかった。


 厚着をして外に出て、当たりを見回す。

 う~ん……これは雪をかかないとダメか? たしかここらへんだったと思うけど……。

 俺は当たりをつけてシャベルで雪を掘り起こしていった。


 ザッザッと雪をかいていくと……あった!

 以前に拠点の前の畑を整備した時に出てきた石だ。広場の端にまとめておいたのだ。

 これならいけるか……?


 俺は手頃な石を手に取ると、大地の力を流して変形させていった。

 そして出来上がったのが……二本のブレード状のようなものだ。

 歯の背から二本の足が出ており、さらに平たい土台のようなものがある。

 俺はホクホクとした顔で湖へと向かうのだった。


 俺は湖へとつくと、辺りを見回した。

 シン……と静まり返った湖は、どこかの神話の冥界のようだ。

 この辺りは動物があまり近寄って来ないからな。

 湖の反対側まで行けば、そうでもないらしいけど。

 こちら側でたくさん魚が取れる要因のひとつなのかもな。


 そんなことを思いながら、俺は手に持った石のブレードを自分の足にくくりつけた。

 防寒仕様の靴に紐でしばって装着していく。


 ギュッギュッと足元を縛り上げるとスケート靴の完成だ!

 俺は湖の氷上へおそるおそる降り立つ。

 硬い氷の感触が靴を伝わってきた。

 ちゃんと氷は張っているようだ。


 フラフラとバランスを取りながら滑って見る。

 スイ~。お? いけるな。

 目論見通り、ちゃんと滑ることができた。

 俺は一旦小屋の自分の部屋へと戻り、もくもくと石製のブレードを量産するのであった。


 すると、ルンにまたがった毛むくじゃらの小人――森の妖精モーギズのポポが俺の部屋にやってきた。


「ぷぽぷぽ?」

「ん? これか? これはスケート用のブレードだ」


 俺は首をかしげるポポに説明する。


「ぷぽー?」


 いや、これだけじゃわからんか……。

 ポポのかしげた頭が床につきそうだ。


「小屋にいるみんなも呼んできてくれないか? みんなで遊ぼう」


 俺がポポに言うと、各自の部屋をまわってくれたようだ。

 居間にみんなが集まってくる。


「コウヘイさん~なんのぉ用ですかぁ?」

「です?」

「あんちゃんがまた変なことを始めたのかっ?」


 三人娘のエミリーが失礼なことを言ってくる。


「んにゃ、みんなでスケートを楽しもうと思ってな」


「ふむ、コウヘイ。その『すけーと』とは何なのだ?」

「婿殿、その手に持っているものは何だ? まるで竜の足の爪のようだ」


 ミーシャが疑問の声を上げ、ガーベラがブレードを不思議そうに見る。


「これか? これを足にくくりつけるんだ」


「あなた様、それでは有るきにくくないですか?」

「マスターの世界のものですね?」

「ボクもはじめて見ます……」

「なんだカ楽しそうデスネ!」


 アルカ、ティファ、クーデリア、キキがそれぞれ思ったことを言う。


「お姉ちゃんは今回はパス。もうしばらく寝てるわ~」


 ふぁ、とあくびをしながら部屋に戻っていくエウリフィア。


「あう?」


 ノーナは口元に指を当てて、それを眺めていた。


「まぁ、ものは試し、ってことで」


 俺は皆にスケート用のブレードを配って回った。


「じゃあ、風引かないように厚着して湖に行くぞ!」


 そうして皆で氷の張った湖へとやって来た。

 さっそく皆は足元にブレードを装着して氷の上に降り立っていく。


「わわわぁ」

「ですですです!」

「おわっ! ツルツルするんだぜ!」


 三人娘は怪しげな動きで別々の方向へ滑って行く。


「ふむ、なるほど。こうか?」

「むむ、これは面妖な……」


 ミーシャとガーベラの前衛組はさすが、と言ったところだろうか。

 こともなげにサーッと滑りを決める。


「くっ。転びそうですっ」

「さすがはマスターの知識、異世界の移動法ですね……」

「わわっ。ボクの足が勝手にうごいていくよ!」

「これは…楽しいデス!」


 アルカはクッコロでティファは考え込んであまり動かず。

 クーデリアは又裂きのようになってしまっている。

 キキはマイペースだな。


「あい」


 ノーナが俺の足をバシバシと叩いてくる。なんだ?


「どうした? ノーナ」


「あい、コーヘが押して」


 自分で滑れないノーナは押して欲しいようだ。

 そうかそうか、ほれ。

 ノーナを押すとスイ~ッと滑っていく。

 それをルンがコロコロと転がって追っていった。


 ポポは? と見れば達者な滑りを見せている。

 おいおい。本当に今日はじめて滑る奴の動きかよ?

 今のはクイントって奴か? 五回転はまわって跳んでいた。

 今日のMVPはポポだな。


 俺は霧夢の腕輪から木製のソリを取り出すと、ヴェルとアウラを乗せた。

 それを押してみんなの方へと向かって行き、各自にスケートのコツを教えて廻るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る