第187話 かき氷とコーラフロート






 眩しい日が肌に突き刺さる。

 波が打ち寄せる音が鼓膜を叩き、むせ返る潮の匂いが鼻を刺激する。

 ここは、南国であろう島の海岸。

 振り返ると青々しい南国特有の植物が、辺り一面に広がっている。


「あうー!」


 ノーナがてててっと水着姿で波打ち際に向かって走る。

 こらこら、転ぶんじゃありませんよ?

 俺は鼻で一息つくと機械に向き直った。


 拠点の森は冬真っ只中であったので、俺たちは寒さから逃れるために南国の島に遊びに来ていた。

 前に来た時はキキを助けたんだっけ。


「ぷぽ~……」


 ポポが俺の作ったビーチパラソルの下でダレている。

 ルンも一緒に溶けるようにヘタれていた。


「クルルゥ」

「キュアッ」


 ヴェルとアウラは元気そうだな。

 籠の外に出て砂浜を駆ける小さなヤドカリもどきを追いかけている。

 あ……ヴェルがヤドカリもどきを食べた?

 ペッしなさい。


「どうですか? コウヘイさん。ボクの作った機械は使えそうですか?」


 そうなのだ。俺がクーデリアに注文していた機械が出来上がったので早速使ってみようとなったんだったな。


「ああ、クー。バッチリだ」


 台に固定された機械のハンドルを回すと、機械の刃がグルグルと回る。


 ここに……魔術で氷を生成してっと。

 バキン!

 俺はキューブ状の氷の塊を魔術で作った。


 機械から伸びた足の下に皿をセットしてっと。

 グルグルとハンドルを回す。

 シャリシャリと音を立てて、皿に雪の様な氷が積もっていった。


「わぁ! 雪みたいですね!」


 クーデリアが目を丸くして見入っている。


「これはぁ、なにをぉしているんですかぁ?」

「です~?」

「あんちゃん、また何か面白いことをしているな!」


 水着を着た三人娘もやってきて、積もっていく氷を眺める。

 おしっ、こんなもんかな?

 俺は手を止めて、霧夢の腕輪からシロップと練乳を取り出した。

 積もった氷にシロップと練乳を掛けていく。


 かき氷の完成だ!

 まずは製作者のクーデリアからだな。

 スプーンを添えてクーデリアに差し出す。


「ほれ、クー。かき氷だ」


「え、雪を食べるんですか?」


 まぁ、まずは食べてみなさいよ。

 俺はニコニコとしながらクーデリアを見つめる。

 クーデリアがスプーンを手に取りかき氷を口に運ぶ。


「! 冷たくて甘いです!」


「おう、溶けちゃう前に食べちゃってな」


 俺は次の皿をセットしてハンドルを回し始めた。

 シャリシャリシャリ……

 氷が削れる小気味好い音を聞きながら、かき氷を次々と作っていく。


「わぁ、冷たいぃですぅ」

「ですです♪」

「雪を食べるなんて思いつきもしなかったんだぜ」


 キャイキャイとかしましく騒ぎながらも、かき氷は三人娘にも好評のようだ。


「ぷぽ~……」

「……」


 ポテポテとポポがビーチパラソルの影から出てきた。

 ルンも形を崩しながらズルズルと這い出てくる。


「お? お前たちも食うか? かき氷」


 俺はポポとルンにもかき氷を作った。

 ポポの小さな手がスプーンを掴む。

 さて……どうだ?


「ぷぽっぽ!」


 ポポがぴょんこと跳ねて感情を表す。

 お、口に合ったようだな。

 ルンも丸っとした形に戻ると、ぷるぷる震えだす。


「あんまり一気に食うと頭が痛くなったりお腹を壊したりするから気をつけてな?」


 俺は皆がかき氷を食べるのをニコニコと眺めながら氷を削っていくのだった。



「ふぃ~、お姉ちゃんちょっと休憩……」

「あい~」


 お? エウリフィアとノーナが戻って来たようだな。


「キミはアレを出してよう~。シュワッとしたヤツ」

「あう! ノーナも!」


 エウリフィアはこう見ると水着姿のナイスプロポーションのお姉さんなんだけどな……。

 中身はおっさんっぽい駄龍だ。

 ノーナもぴょんと手を上げて跳ねると、アホ毛が左右に揺れた。


「へいへいっと」


 俺はダンジョンマスターの権限でパネルを立ち上げると、操作してコーラを生成した。

 1,5㍑のヤツな。


「実は今日はコレだけじゃないぜ?」


「ん~? いつもの黒いヤツじゃない。他に何があるのよ」

「あう~?」


 エウリフィアがおとがいに人差し指を当てながら尋ねてくる。

 ノーナも首を傾げながらアホ毛を揺らしていた。


 ポチポチッとな。

 俺はダンジョンマスターのパネルを操作して食べ物を取り出す。

 そう! バニラのアイスクリームだ!

 モリッとアイスをすくい、コーラの入ったコップに投入する。


「お姉ちゃんは~、別に黒いのだけでも良いんだけど~」

「あい」


 まぁまぁ、お上がんなさいよ。

 俺は無言でコップを二つ彼女たちに差し出した。

 長いスプーンも添えてな。


「~~! くぅ~、冷たくてンまぁ~い!」

「あい! おいしいです!」


 そうだろう、そうだろう。

 俺はうんうんとうなずきながら、皆にも配るべくコーラフロートを作っていった。


「ボクも一ついいですか?」


「マロンもぉ、いいですかぁ?」

「です~?」

「あんちゃんたち、ずるいぞ!」


 はいはい、そう言うと思って準備は万端なんだぜ。


「とは言え、かき氷も食ったばっかりなんだからほどほどにな?」


 俺は少しため息をつきながら、腰に手を回して言った。

 お腹壊しちゃうからね。


「ぷぽ~?」

「……」


「クルルゥ?」

「キュアッ?」


 おっと、おちびーずたちもご所望か。

 キミたちにはアイスをあげよう。

 俺は皿にアイスを盛ると、おちびーずたちに渡してやるのだった。






――――――――――――


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