第136話 リトルベヒーモス






 ベヒーモス。

 ドラゴンと並ぶ有名なモンスターだ。


 その巨体を揺らしながら起き上がると、デカい! これでリトル・・・か。

 アースドラゴンもデカかったが、それに並ぶ巨体さだ。

 四腕熊みたいだとか言ったけど比じゃないな。

 四本? の前足があり、大きな角は途中で捻れて前へと向いている。


 中の部屋は洞窟をくり抜いたような様相で、天井も高い。

 巨体のリトルベヒーモスが身を起こしてもまだ天井には届かない。


「……ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」


 リトルベヒーモスは俺たちを視界に入れると唸り声を発しながら仰け反る。


「! ブレスが来る!」


 俺が警戒の声を上げると、皆がアインの後ろに集まった。

 アインが前でドラゴンシールドを構える。


「無いよりはマシでしょう」


 ヒュガッ ズンッ

 ティファがそう言うと巨大な氷の盾が俺たちを覆った。

 俺も無属性魔術の障壁を張った。


「ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!」


 リトルベヒーモスのブレスだ!

 氷と雷の複合のブレスだった。

 吹雪と稲妻の混ざった何かが俺たち目掛けて飛んでくる!


 パキパキパキ バキイイイイイイイイイイイイイン!

 ティファの張った氷の盾が破られる!


「くっ」


 ティファが悔しそうな声を上げる。


 パリイイイイイイイイン!

 俺の障壁も破られる。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアン!!

 アインの構えているドラゴンシールドにブレスが刺さる。

 アインを中心に放射状に広がるリトルベヒーモスのブレス。


 くっそ! ビリビリくるなコレ。

 直撃したらビリビリでは済まないだろうブレスをやり過ごす。


「ガアッ」


 リトルベヒーモスの前腕の一つが振るわれる。


 ダッ ズガアアアアアン!

 アインが前に出てヒットポイントをずらして受ける!


「あい!」


 カッ! ズドオオオン!

 ノーナの雷魔術がリトルベヒーモスに放たれる!


 バチバチバチッ

 しかしリトルベヒーモスの巨大な角に吸収されるように軌道が変わった。

 角の間の真ん中辺りに雷の球が出来上がる。


 ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ……


「グロロロロロロロロオン!」


 バギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 リトルベヒーモスの眉間から雷の球が放たれた!

 アインはリトルベヒーモスの前足の一本に押さえつけられている!


 マズい! そう思った時には世界が真っ白になった。




 一瞬とも数分とも取れる時間の中、俺はハッとした。


「クルルゥ」

「キュアッ」


 ヴェルとアウラの鳴き声で俺は顔を青くした。

 二匹とも無事か!? みんなは?


 周りを見ると皆が地面に倒れている!

 クソっ!


 抱っこ紐に手を当てると温かい力が流れてくるのを感じる。

 お前ら……お前らが俺を守ってくれたんだな。


 こんなに小さいのに……。


 俺は何処かで慢心していたのかも知れん。

 今回も何とかなるさ、と。

 その結果がコレだ。


 俺はリトルベヒーモスを睨みつける。

 リトルベヒーモスは前足の一本でアインを押さえつけたまま、ニヤリと口を歪めたように見えた。


―吠え面かかせてやる。


 俺は地面に手をつくと大地の力を流し込み、奥底から引っ張り込むイメージを作る。

 胃がせり上がり、ねじれるような感覚が俺を襲う。

 ぐっ! 相変わらずキッツい!


「グロロロロロロロロオン!?」


 ズウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 リトルベヒーモスを重力の枷が襲う。

 地面に伏せるリトルベヒーモス。


 ここまではいい。

 ここからだ。

 どうする!?


 俺が逡巡していると


「む、婿殿……我が、やる」


 と、ガーベラがプルプルと震えて大剣を杖にして立ち上がる。


「ぐ……い、いけるか……ガーベラ」


「いけるか、いけないか、ではない。……やるのだ!」


 そう言うとガーベラは立ち上がり、大剣を担ぐように構えた。


「っおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 ガーベラが吠える!

 目の瞳孔が縦に裂かれ、爬虫類の瞳に変わる。

 パックリと開かれた上着の背中から竜の翼が現れる。

 手足には鱗がびっしりと生えてきて、爪も極太の物に変わった。


 バキンッ!

 大剣がその刀身の真ん中から二つに分かたれ、中心の空間にはバチバチと魔力が迸る!


 ブウン!

 大剣が変形し魔力で構成された、さらに大きな大剣に変わる!


「斬る!」


 ズアッ!

 ガーベラが地面を蹴り、飛び立つ!

 まるで射出されたかのように、はじき出されたかのように、ガーベラは飛んだ。

 低空を滑空し、リトルベヒーモスの手前で上昇していくガーベラ。


「っおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 まるで一つの流星のように赤く輝いたガーベラがリトルベヒーモスに落ちていく。


「グッグロロロロロロロロオン!?」


 リトルベヒーモスもマズい、と思ったのだろう。

 身を捩らせるが、そうは行くか!


「っらああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 俺は有りっ丈の気力を振り絞り、ヤツを大地に縛り付ける!


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


 地面が響く。

 土埃が辺りを覆い尽くした。


 土煙が晴れるとそこには地面に大剣を突き刺し寄りかかるガーベラと、ザアっとドロップアイテムに変わっていくリトルベヒーモスの首が転がっているのだった。






――――――――――――


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