第108話 金月亭






「は~い! お決まりですか?」


「うむ。このフレッシュジュースを一つ。コウヘイは?」


「お、おう。これとこれを下さい」


「は~い。かしこまりました~」


 俺は訳のわからないまま適当に注文をする。


「み、ミーシャとこうしてゆっくりするのも久々だな」


 俺は若干の緊張から少しどもる。

 なんせ女の子とデートなんてしたこと無いからな。


「うむ。最初の頃はミーシャと二人きりだったな」


 そうなのだ。

 最近、人が多くなってきたのもあって中々二人きりというわけにはいかない。

 すると、頭の上でスライムのルンがミョンミョンと上下運動した。


「ははっ。そういや今はルンが居たな」


 俺は頭の上のルンを一撫でした。

 しかしこの店、よくよく見てみたら客が女性ばかりじゃねーか!

 後はポツポツとカップルがいるくらいだ。

 若干の場違いさを感じながら、俺はますます上がってしまう。


「お待たせしました~」


 飲み物が運ばれてくる。


「もう一品はもう少しお待ち下さいね」


 ミーシャの前にフレッシュジュースが置かれ、俺の前にはソーサーに乗ったカップが置かれた。

 んん? これなんだ?

 俺はメニューをもう一度見ながら答え合わせをする。


 メニューには“カッファ”と書かれていた。

 匂いと見た目はなんだかコーヒーっぽいぞ。


 カップを手に取り、口に運ぶとまず苦味が先にくる。

 湯気と一緒に立つ香りは芳香で独特のものだ。

 後味はすっきりとしていてほのかに酸味が感じられた。


 うん。コーヒーだなコレ。


「はい~。残りのチーズケーキです~」


 コーヒーもどきの香りと味を楽しんでいるとも一つの料理が届けられた。

 チーズケーキだ。

 それもワンホールの。

 おっと!? おれ何かやっちゃいました?


「これは……すごく、大きいな」


 ミーシャが驚いている。


「う、うん。残りは包んでもらってお土産にしようか……」


 ミーシャと俺でチーズケーキを取り分け、それぞれ口に運ぶ。

 うん! これもなかなかいけるじゃないか。


 表面に焦げ目が入ったチーズケーキはまろやかな口当たりと、ほのかな酸味を提供してくれる。

 土台のクッキー生地もサクサクだ。

 それをコーヒーもどきで流し込む。

 なんとなく立ち寄った店だけど、当たりの店だな。


「今回は公爵邸に寄らなくても大丈夫だよな?」


「うむ。仲の良いノーナも今回は居ないことだしな。また今度で良いだろう」


「それでミーシャは実家の方は大丈夫なのか? たまに手紙が来ていたみたいだけど」


「む? 実家か。家は兄上がいるから大丈夫だろう」


 ミーシャが遠い目をして言う。


「寄らなくても良かったのか? 時間は取れたぞ?」


「うむ。大丈夫だ。問題ない」


 問題ないらしい。


 俺はチーズケーキの切れ端をテーブルの上に移動したルンに与える。

 ルンはチーズケーキの欠片を体に取り込むとプルプルしている。

 おもむろに体をギュッと螺旋状にねじるとポンっと元に戻ってふらふら、べチャリとした。


 ルンの方は大丈夫じゃ無いらしい。

 美味かったのか?


 俺たちは一切れずつチーズケーキを食べた後、残りは包んでもらった。

 宿のみんなにお土産だな。



 ミーシャと金月亭へと戻り、お土産のチーズケーキを配る。

 特にゼフィちゃんが喜んでいた。


「これは! ……甘露なのじゃ! 妾の国でも作れるようにならなければ!」


「叔母上……あまり皆に無理を言ってはなりませんよ?」


「ええい! アルカちゃん! これは至上命令なのじゃ!」


 この後、神樹の森でチーズケーキが一時流行ったとかなんとか。



 一息ついたら夕食の時間だった。


 俺は抱っこ紐の中にヴェルとアウラを入れ、頭の上にルンを乗せて食堂へ。

 ヴェルとアウラは自分の尻尾をあむあむと噛んでいる。

 お前らも腹が減ったか。俺もだ!


 銀月亭と似たような造りの食堂は盛況で人がたくさん居た。


「コウヘイ! こっちだ!」


 テーブルを一つ貸し切ったミーシャに呼ばれる。

 皆も揃っているようだ。


「遅れたか?」


「いや、皆来たばかりだ」


「はい、お待ちどう様。今持ってきますからね」


 女将さんが料理を運んでくる。


 饗されたのはポークソテーのようなものとパンとエールだ。


「今日はファングボアのソテーよ。そいじゃごゆっくり~」


 ファングボアだったか。


 まずは一口、とソテーにナイフとフォークを突き立てる。

 柔らかい!

 切り分けて口に運ぶ。

 粉をまぶして焼き上げられたそれは、外はカリッと中はふっくらジューシーだ。


 マスタードソースのようなものがいいアクセントになっている。


「美味しいぃですぅ」

「ですですー!」

「アタシは好きだぞ!コレ」


 三人娘も舌鼓を打っている。


「うむ。さすがは金月亭と言ったところか」


「あなた様。とても美味です」


「むう。チーズケーキもたまげたものじゃが、こちらの料理も美味なのじゃ。人族の国もあなどれんのう」


「マスター。言葉はいりませんね。何を言っても蛇足にしかなりません」


「おう。さすがは銀月亭の兄弟店だな。味わって食おう」


 ソテーを一噛じりしてパンを食べる。それをフルーティなエールで流し込む。

 最高だな!


 従魔達にも小分けにした物を与える。

 ヴェルとアウラはあむあむと噛じり、ルンはシュワシュワと溶かしていた。


 銀月亭に負けず劣らずのクオリティ。

 やるな。金月亭。






――――――――――――


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