【第三章完結!】堕落天使はおとされる

真白はやて

第1巻 『1クール』

プロローグ 『神様がいないと気付いた日』

 ――ああ、神様なんて存在しないんだ。


 【天使】の中でただ一人、俺だけがそれに気付くことが出来た。

 目尻に溜まっていた涙などとっくのとうに枯れ切っていて、目の前の絶望をただただ呆然と見続けることしか出来ない。


「……父、さん」


 ぼそりと、そう呟く。

 顔前には首を刎ねられた白髪の男、俺の父親だけが土の上で倒れていて、そこからは大量の血溜まりが出来上がっている。


 そして父さんの目の前には、漆黒の刀を手に持ち冷酷な瞳で父さんを見下ろして立ち尽くしている一人の【魔族】がそこにいた。


 俺達のような純白の髪色とは真逆の、漆黒の髪色。

 辺りを見回さなくとも半分ずつ白髪の騎士と黒髪の戦士が金属音を奏でていて、絶叫と悲鳴、断末魔を上げながら世界は真っ赤に色作っていた。


『――――』


 死ぬ前に、何かを言ってくれたような気がする。

 俺に視線が重なった時一瞬だけ寂しそうに笑って、何か大切なことを言ってくれた気がする。


 それでも俺はいつまで経っても言われたはずの言葉を思い出すことが出来なくて。


「……ははっ」


 どうしようもないほど、乾いた笑みを思わず浮かべた。


 ……こういう時に神様は手を差し伸べてくれるのではないのか。

 つい先程まで俺はそれを信じて疑っていなかった。

 純白の翼は力なく垂れ、頭上に浮かぶ光輪も弱々しく光を灯らせている。


「……ははは」


 もう一度乾いた笑みが漏れる。

 深紅に輝く瞳孔が輝きを放ち、ただただ全てが真っ赤に染まる父さんを見続けていた。


「――ぁぁ」


 こんなに不幸が重なっても尚、神様という奴は何もしてくれない。


 天使は神の為に生きる。

 その結果がこれだ。

 見たこともない神様とやらに命を捧げた結果がこれだ。


 ――そうだ。

 神様なんて存在しないんだ。


 疑いもしなかったこの小さな世界で、俺はようやくそのことに気付くことが出来た。

 この真っ赤な死体を見続けるだけで、この気持ちに疑いなど一切持つことが出来ないのが何よりの証拠だった。


 齢12歳の少年の天使としての純粋な心は、深く、黒い闇へと呑まれて行くだけだった。


「そうだ……最初っから、神様なんていなかったんだ……」


 だから俺は何度も想い、何も変われなかったこの世界で。

 天使の中でただ一人、そのことに気付くことが出来たんだ。


 あれは4年前。

 天使と魔族が殺し合う『魔天戦争』が始まった年。






 ――あの日確かに俺は、堕とされた。

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