チュートリアルで退場するはずだったモブですが、実は最強の魔法使いになる素質を持っていたようです
えながゆうき
第1話 よみがえった、いつかどこかの記憶
「トリスタン王国でもっとも由緒正しき魔法学園へようこそ。ここでの三年間、しっかりと学びなさい。あなたたちが一流の魔法使いになる日を楽しみにしているわ。さっそくだけど、一週間後にあなたたちの力量を見させてもらうわね」
ガブリエラ先生からその言葉を聞いたとき、頭からつま先まで、百万ボルトの電流が走ったように衝撃が走った。
ボクはこの言葉を知っている。
いつの時代かも分からない。はるか遠い昔に、同じ言葉を聞いたことがある。いや、見ている?
断片的に思い出した”いつかどこかの記憶”は黒い箱に映る絵だった。その絵には先ほど先生が言った言葉と全く同じ言葉を映し出していた。初めて見る文字だが、なぜか読める。
う、頭が痛い。頭の中を流れる絵はそのまま動き、ボクとエリクという名前の生徒が戦っている場面が映し出される。どうやらそれはチュートリアル戦と呼ばれるものらしい。
そして、ボクは負けた。完膚なきまでにボロ負けした。そのまま続けて不吉な文字が映し出される。
『何という無様な戦いだ! このマルモンテル伯爵家の恥さらしめ。平民ごときに負けるとは。お前の顔など二度と見たくない。どこでも好きなところへと行くがいい。お前を伯爵家から追放する!』
そこにお父様の姿はなかったが、ボクの姿だけはポツンと描かれていた。そしてその先ずっと、ボクの姿が出て来ることはなかった。
ボクにはめちゃくちゃ優秀な弟がいる。そうなる可能性は十分すぎるほどあるのだ。
何だよこれ。これがボクの運命なの?
「ジルベール、ジルベール! あなた、ひどい顔色をしているわ。具合が悪いのなら遠慮なく言いなさい」
「だ、大丈夫です、ガブリエラ先生」
いつの間にかガブリエラ先生がすぐそばまで来ていた。心配そうにボクの顔をのぞき込むガブリエラ先生。
だが、授業を抜けるわけにはいかない。ボクはこれからの一週間で、チュートリアル戦で勝つための力を身につけないといけないのだ。そこで勝つことができれば、きっとさっき見た運命を回避することができるはずだ。絶対に負けられない。
とは言ったものの、勝つのは簡単ではないはずだ。優秀な魔法使いの血筋を引いている貴族が通う魔法学園に、平民にもかかわらずエリクは入学しているのだ。相当な魔法の才能がなければ、門前払いされていたことだろう。
そして先ほどの記憶によると、エリクはすごい才能の持ち主のようである。全属性の魔法に適性を持っており、将来はトリスタン王国随一の魔法使いになることだろう。
今から頑張ってもなんとかなるのだろうか。不安に押しつぶされそうになりながらも、必死にその日の授業を受けた。記憶の中で使っていた魔法は火属性魔法。それがきっとボクの得意な属性なのだろう。それならば、火属性魔法に絞って練習するべきだ。
さいわいなことに、この学園には自由に使っていい魔法練習場がいくつもあった。そのうちの一つを使わせてもらおう。
そう思っていたんだけど……現実はそう甘くはなかった。
どこもかしこも先輩たちが使っているのだ。入学したばかりのボクが使える場所はなかった。
先輩たちも必死だ。卒業試験の結果によって、その後の人生が大きく変わることだってあるのだ。学園で優秀な成績を収めることができれば、将来は約束されたようなものである。
授業が終わってすぐの時間帯は無理だな。今のうちに寮に戻って宿題と夕食を終わらせておこう。夜になれば、どこか一つくらい使えるようになるはずだ。
そうと決まればいつまでもこんなところをうろついてはいられない。急いで部屋に戻ると、ガブリエラ先生から出された宿題に手をつけた。
でもさ、宿題、多くない?
なんとか鬼のような量の宿題を終えて、だれも使っていない魔法訓練場を探す。学園の中でも一番奥の利便性が悪い場所だけが
まずは基本のファイヤーアローの練習からだな。授業では二回しか使えなかったが、ここなら何回でも使うことができる。初級魔法のファイヤーアローは火属性魔法が得意な者なら使えて当然の魔法だ。
ガブリエラ先生が言うには、この初級魔法を何度も使うことで、魔法の操作が上達するらしい。そしてこうも言っていた。毎日使うことで、息をするように魔法を使えるようになると。
魔法的に向かって魔法を放つ。ガブリエラ先生の話によると、この魔法的は特殊な魔道具だそうで、的に当たった魔法を打ち消してくれる効果があるらしい。
今もファイヤーアローが当たる度に”シュン”という音を立てて魔法が消えている。
どんな原理になっているのか気になるが、今は我慢だ。
何度かファイヤーアローを使っていると、だんだん体が重たくなっていた。
まだだ、まだ終われない。まだ基本練習しかしていない。
「模擬戦をするならファイヤーボールは必要だよね。あれなら広範囲に火を放つことができるから、相手の行動を妨害することができる。足が止まったところにファイヤーアローだ」
神経を集中し、ファイヤーボールの魔法を使う準備をする。だんだんと杖の先端に魔力が集まってきた。初めて使うけど、なんかいけそうな気がする!
……気がつくと、自室のベッドの上にいた。着ていた服はそのままだ。
「あれ? いつの間に自分の部屋に戻って来たんだろう。全然記憶がないぞ。それにファイヤーボールが成功したのかどうかも覚えてない。これは一体……」
腕を組んで考えるが答えは出なかった。
こんなときはお風呂に入ってから寝よう。明日また頑張ればいい。
翌日、眠たい目をこすりながら授業を受ける。
おかしい。これは一体どうしたことか。しっかりと睡眠を取ったはずなのに体が重い。もしかして、風邪でも引いてしまったのだろうか。でも喉も痛くないし、くしゃみも出ない。熱もなさそうだ。
「ジルベール、体は大丈夫かしら?」
眠たそうにしていたのがバレたのだろう。授業が終わると同時にガブリエラ先生から呼び止められた。その声が鋭い。
だが新緑のような目はどこかボクを心配しているかのようだった。ガブリエラ先生の絹のような白い髪が不安げに揺れる。
「大丈夫です。きっとまだ学園生活に慣れていないだけだと思います」
「……無理をしてはダメよ。若いうちに無理をすると、大きくなってから大変なことになるわ。今はしっかりと体を作ること。いいわね?」
「ありがとうございます! 気をつけます」
もしかして夜に魔法の訓練をするのはよくないのかな? でも禁止されているわけでもないし、問題ないはず。
ガブリエラ先生は腕を組み、その右手がリズム良くほほをトントンとたたいている。ボクを見る目はどこか疑っているかのようだった。
なんだかいたたまれなくなったので、挨拶をしてその場から離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。