第14話 悪友キャラでも超展開(ご都合主義)は起こり得るものである

 ギャルゲにおいて、ご都合主義というのは日常茶飯事なものである。


 ギャルゲは世の男子が理想とする世界を描いているのだから、それも当然と言えよう。


 例えば突っ込みどころ満載なこんなエピソードがある。


 パンを咥えた女の子と曲がり角でぶつかって、女の子の胸を意図せず揉んでしまう主人公。


 そして、その女の子は絶対と言っていいほど美少女。それだけでも凄い確率なのにその美少女は転校生と来た。それで、席はなぜか主人公の隣の席になる。


 普通の感性を持っている人からすれば、突っ込みどころが満載だが、ギャルゲを愛すユーザーなら突っ込むことなどしない。


 現実感ない?


 知ったことじゃない。

 俺含めユーザーはフィクションの中でくらい理想や夢を見させてほしいのだ。


 だから、多くのギャルゲ愛好家は……空から女の子が降ってくる展開だって突っ込みはしない。少なくとも俺はそう。ラッキースケベを起こしてしまった美少女が隣の席になっても驚きはしない。だってギャルゲだから。その一言に尽きる。


 そこに現実感がどうこうって突っ込みは野暮なのだ。


 もちろん、現実に即した作品だったり現実にある程度寄せた素晴らしいギャルゲもあるので一概には言えないが。



 さて、ご都合主義(要は突っ込みどころ満載な展開)の話であるが、この『ソードマジックラブリー』の世界にもその概念は存在していた。


 いや、ご都合主義な展開は満載だったはずだ。


 だが、そのご都合主義には……共通して言えることがある。


 どのギャルゲも主人公に都合の良い展開が起きるのだ。


 そして裏を返せば、主人公以外の男キャラに都合の良い展開は起きない。

 すげー良い男キャラでも起きない。


 ギャルゲの神様は主人公のためだけに動いているみたいだろう。


 まあ、それも考えてみれば当然な話。

 主人公の目線で物語が進行するのだから、他の男キャラのキャッキャウフフな展開は不要なのだ。


 いや、主人公にその展開は寄越せよって話に帰結する。


 それは『ソードマジックラブリー』の世界でも同じだった。


 主人公には都合の良いヒロイン達とのキャッキャウフフな展開が多く用意されているが、その隣で悔しそうにする神崎琢磨にはそんな都合の良い展開は起きない。

 これっぽっちも起きない。


 それが原作通りであるはずなのに……俺は目の前の光景に唖然とする他なかった。


(なんで、ご都合主義が起きてんだよ……)


 神崎家で立ち寄ったファミレスで俺は来栖家と共になぜか一緒に食事をとることになっていたのだ。


 どうしてこうなったかって? それは俺が聞きたい……。



♦︎♢♦︎


 時は愛奈と特訓を終えたところまで遡る。


 魔力がさすがに枯渇気味になってヘトヘトな状態で家に帰ると、今日は家族全員で久しぶりに外食に行こうと父が言いだして、そういった流れとなったのだ。


 大衆向けのファミレス店。


 そこへ神崎家は訪れたのだが、案内された隣のテーブル席。そこに居たのが何と来栖愛奈の家族……来栖家一家だったのだ。


「(なんでここに……!)」

「(なんでこんなところで!?)」


 きっと俺たちは目があったとき同じことを思っただろう。

 お互いに目が合ったことでそれに気づいた神崎家の者たちがそれぞれ口を開く。


「ん? 知り合い?」

「琢磨、どうした。そんな驚いた顔をして」

「お兄ちゃん。あんな可愛い子と知り合いなわけ―――え、もしかしてそうなの?」


 そして、それは来栖家の家族も同じようで……。


「あら? 愛奈どうしたの?」

「愛奈……知り合いなのか?」


 そんな反応を来栖家の両親も取っており、俺たちは揃って家族の前で―――


「「いや違うけど」」


 と、声を合わせたが両家は一斉に口をこう合わせたのだ。


「「「「「それは無理がある」」」」


 誤魔化せなかった。


♦♢♦


 神崎琢磨と愛奈が知り合いだと家族にバレてからは俺たち家族は席をくっつけ盛り上がりを見せていた。


 趣味が合うらしく父親は父親同士で母親は母親同士で盛り上がっていた。


 子供たちが同じ魔法学園に通うことも判明すると、共通の話題も多いのか家族は総出で話に花を咲かせる。


 正直、現段階で相当なご都合主義だと思わざるを得ないが……驚くのはこれから。


 なんとゲーム知識がある俺でも知らなかった驚愕の新事実。


 どうやら来栖家と神崎家は家がご近所であるらしい。


 正直言って、突っ込みどころ満載なくらいご都合主義をかましていた。


 内心で困惑を深めていると、ふとこんな母親たちの会話が聞こえてくる。


「―――そうなの。うちも息子が最近特訓ばっかりしてて心配で。来栖さんのとこに預けられたら安心するわ」

「ええ、うちの愛奈も危なっかしくてねえ。お互い困ってるみたいだし、琢磨君がいたら安心できるわ」


 ダンジョンやら魔法やら。


 危険が付き纏う魔法学園に入学するのに、心配なんてしても仕方ないとは思うものの両親は心配が尽きないらしい。


 両家の親は仕事で忙しく子供たちにもかまってあげられない現状に共感を示していた。


 そこで、名案とばかりに来栖家の母が口を開く。


「……家もご近所さんだし、愛奈と琢磨君……幼馴染みたいな関係性にならない?」


 ギャルゲは超常現象のオンパレードである。


 だからどんな展開がきても驚かない覚悟を俺は持っていたが、いざ自分の身にそれが降りかかると突っ込まざるを得なかった。


(……いや、そうはならんだろ)

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