【短編版】可愛い義妹ができるので会ってみたら王子様系イケメンのクラスメイトがいた ~義妹は俺への好きがおしころせないようです~
浮葉まゆ@カクヨムコン特別賞受賞
第1話 義妹はイケメン
俺こと
同い年の義理の妹と一つ屋根の下で暮らすなんて羨ましいと思っているかもしれないけど、俺の妹は金髪、ロリ、巨乳のお兄ちゃん大好きって感じの妹ではない。もちろん、俺だってそんな妹がいればきっと同い年であっても甘やかして楽しく暮らしたかもしれない。
だけどうちの義妹はなんというかとてもイケメンだ。
「蓮君、教科書忘れたなら見せるよ」
響きの綺麗な女性にしてはやや低音の声が俺を捉える。
数学の授業開始直前になってから授業の準備を始めた俺は教科書が見つからなくて、机の中だけでなく鞄の中もごそごそと荒らすように探していた。
そんな慌てている俺の姿を見て声を掛けてくれたのは隣の席の
黒のショートボブを手で流しながら髪を耳に掛けるだけの仕草なのに、その整った顔のパーツとぱっちりとした目に流れるような視線が加わることで可愛いではなくかっこいいという印象を受ける。
王子様系イケメンとしてすでにクラスの女子を虜にしている薫がそんな仕草をすれば、その一挙一動を見逃さんとする薫推しの女子の黄色い声が聞こえる。
「でも、そんなことをすると佐藤さんが見づらくないか」
俺がこうして他人行儀な態度をとるのは俺と薫が義理の兄妹であることをみんなにカミングアウトしていないからだ。ありがたいことに佐藤というこの国で一番多い苗字なので俺と薫が互いに佐藤であっても俺たちが家族であるなんて怪しむ奴はいない。俺の苗字が十文字ヶ丘とかじゃなかったことに感謝だ。
お互いに佐藤ではあるがクラスメイトからはイケメンの方の佐藤とじゃない方の佐藤と言われている。もちろんイケメンの方は俺ではない。
俺が遠慮がちにしていると薫はすっと机をくっつけてきて、俺の椅子をぐっと薫の方に近づけてきた。
「全然そんなことないし、そんなに離れていたら一緒に見る意味がないよ」
薫は椅子を引き寄せるだけでなく俺の腰に手を回して身体もなるべく薫の方に近づくようにした。
薫のファンたちからは薫様の腰回しが出たとか、やばい鼻血出そうとか、なんでじゃない方の佐藤なの別のイケメンとチェンジすればもっとご飯が食べられるのにとか散々な言葉が飛んでくる。
みんなもう少し慎もうここは神聖な学び舎だ。
もちろんそんな言葉は俺だけじゃなくて薫にも届いている。薫は特に気にする素振りも見せず、彼女たちの方を向くと人差し指を口に当てた。
「ほら、もうすぐ授業始まるから静かに」
放たれた言葉の矢はファンたちの心を射抜き、この言葉一つで三名の女子を一撃でキュン死に追い込んだ。
俺の義妹は本当にイケメンで俺よりずっと男前だ。
●
親父が再婚を考えていると聞いた時はさほど驚かなかった。どうもここ一年くらい急に身だしなみに気を使うようになっていたし、休日も出かけることが前より増えていたのでそんなことがあるんじゃないかと心の隅で思っていた。
俺が高校生になって前よりは手がかかることもなくなってきただろうし、これから年を重ねるのにいつまでも一人でいるよりはパートナーがいた方がいいに決まっている。
お相手のことを聞くとなんと苗字がうちと同じで佐藤ということだ。まあ、佐藤なんてすごく多い苗字なのだから、佐藤さんと佐藤さんが結婚なんてことはそう珍しいことでもないのかもしれない。あと、俺と同い年の娘さんがいるということも聞いた。
少し古い写真だけどと言いながら親父はスマホの画面に娘さんの写真を表示させた。
写真を撮ったのは小学校の高学年くらいだろうか。ロングのストレートヘアにぱっちりした目、整った唇をしており、この歳にして可愛いというよりもすでに美人という言葉の方が適切かなと思わせるような子が写っていた。
ヤッバ、小学生でこんなに美人なら今はどんだけなんだよ。こんな子と一緒に暮らせるなんてすごくラッキーじゃん。でも、これだけの美人ならきっともう彼氏いるよな。
脳内で下世話なことを考えつつ、これだけ綺麗なら見ているだけで目の保養になるからキモいと思われない程度にちゃんとしようという結論に至った。
顔合わせ当日、会食の場に先に着いていた俺と親父のもとに再婚相手と一緒に現れたのは黒のロングヘアーの美人ではなく、キラキラした男性アイドルのようなクラスメイトだった。
ど、どうして、佐藤さんがここに!?
佐藤さんとは同じクラスで席も隣だ。イケメンの方の佐藤とじゃない方の佐藤ということでモブキャラである俺をさらにモブへと押し上げている一因となっている。
酸素のない水槽の水面で口をパクパクさせている金魚のような顔をしているであろう俺に佐藤さんは爽やかな笑顔を振り撒き、
「やあ、佐藤君というかこれからは佐藤同士だし、蓮君って呼んだ方がいいかな」
目の前にいるイケメンな彼女に俺の胸は今まで感じたことのないキュゥゥというような感覚に襲われた。
もしかして、これってまだ開かれていないそっちの世界への門が開く感覚なのか!?
まずいと思った俺は心の城門を硬く閉ざし、守りを固めることにした。
心の中で般若心経を唱え続けた顔合わせの会食の記憶はそこまでで、その後の飯の味も何を話したかも記憶が定かではない。
残っている記憶はイケメンとの食事も悪くないということくらいだった。
●
「ただいま」
放課後に委員会の仕事あったので今日はいつもよりも遅めの帰宅だ。
玄関ドアを開けるとそこには薫のローファーが綺麗に揃えられていて、キッチンの方からは美味しそうなカレーの匂いがする。その匂いに反応したのか靴を脱いで廊下を歩く時にはすでにお腹が鳴っていた。
ダイニングに入りそこからキッチンを覗くとゆったりとしたルームウエアに紺色のエプロンをした薫が立っていた。
クラスの女子がこの姿を見たら何と思うだろう。いつもの王子様のイメージが崩れると思うだろうか。
でも、俺にしてみれば薫は凛としたオーラが強いのでルームウエアを着ていても眩しい。
「おかえり、蓮君、もうお腹すいた?」
お玉で鍋をかき混ぜながら振向いた薫の姿は芸能人のやっている料理番組の一場面みたいだ。
「ああ、空いてる。ってか今日、親父たちが遅いのすっかり忘れてた。薫にだけ夕食の準備させてごめん」
「それなら、なんでもないよ。今日は委員会の仕事でしょ。それに蓮君の手伝いはあまりあてにしてないから」
「うぐっ」
薫はキラキラした笑顔で俺のことをいじるがそこには嫌味みたいなものはない。
俺と違って家事能力も高いなんて……。
かっこよくて家事までできるってことになると、どこまで薫の市場価値は上がっていくのだろう。
「それじゃあ、すぐにご飯にするから手を洗ってきて」
「はーい、薫のカレーは美味しいから楽しみだな」
そうして、俺はダイニングを出て洗面所へ向かった。
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