三十二枚目 高輪之明月
「つけ上がるなッ! 所詮死体だろうが!!」
一番合戦はそう吠えたが、それが
死体であるが故に、元々人権が無く、従って自由もない。斬っても斬っても、
数で言えばこちらが有利である。しかし一番合戦とて、持ち前の『自由』……『全人類に勝つ自由』などを振るい、
思うに、彼は楽しんでいたように見えた。誰も自分の相手になってくれない……強すぎる故なのだが……強者の退屈を、
かと言って、まさか自分が負けるとは夢にも思っていなかっただろう。
一番の敗因は、
「会長! 目を覚ましてください!」
「年貢の納め時じゃあ! 潔く道を譲らんかい!」
「会長! みんな貴方が好きなんです! お願い……私たちの話を聞いて!」
彼らを『
「自由はッ!!」
カッ!!
と中央で、太陽のように眩い閃光が迸る。たちまち闇は払われ、舞台は神々しく光り輝き、群がっていた
「自由は決して滅びぬ!! 絶対に誰にも屈しない、それが『自由』だ!!」
光っては、薙ぎ倒され。光っては、押し潰され。
徐々に、徐々に一番合戦が七緒の方へと這いずり寄ってきた。七緒は尻餅を着いたまま、動けなかった。
「喜べ。お前に『俺より先に死ぬ自由』をやろう」
「ひっ……!?」
「七緒ぉ!」
遠くで六太の叫び声が聞こえる。しかし、やはり彼も
七緒と一番合戦の間に、不意に黒装束が現れ、立ち塞がった。
煙のように消えては現れる少年。六太と七緒の子供を名乗る、未来から来た時間旅行者である。
「今更何しに出て来た……」
反応を見るに、二人は面識が会ったのだろう。刀を振り下ろしながら、一番合戦は特に気にも止めず、興味が無さそうに吐き捨てた。
「此処はお前の出る幕ではないぞッ! 小僧ッ!!」
咆哮が空気を震わせる。十三日は黙ったまま動かない。凶刃が、今にも少年の肩を切り捨てる、その刹那、七緒はふと思った。
全てを超越する一番合戦の『能力』。『全人類に勝つ自由』……だけど、
間近に迫る白刃を前に。十三日がニィィ……と笑った。
「切れない、よ」
七緒には、そう聞こえた。十三日は確かにそう言った。次の瞬間、激しい衝突音がして、刀が止まった。
「何……?」
切れなかった。一番合戦が、一瞬戸惑ったような表情を浮かべる。その隙をついて、十三日は短刀を構えると、そのまま一番合戦を連れてまた何処かへ消えてしまった。
消えた……
舞台がシン……と静まり返った。
七緒は息を飲んだ。その息を飲む音さえも、宇宙の果てまで響いてしまいそうな、底知れぬ
一番合戦が消えた。十三日と共に。
後に残されたのは、月明かりと、荘厳な花畑のみである。
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