第2話 手紙
「マチルダさまへ
ぼくのかみの色と、ひとみの色ですが、少しはずかしいのですが、聞かれたのでこたえます。かみは金色で、ひとみの色は青です。
せの高さは、クラスの中では、いちばん小さいですが、すぐにマッチョになります。きんにくもムキムキになります。すぐにです」
「シモンさまへ
かみの色と、ひとみの色をおしえていただき、ありがとうございます。
わたしのかみの色は、こいちゃ色です。ひとみの色もちゃ色です。すこしじみです。わたしもシモンさまみたいな色がよかったです。
シモンさまからいただくお手がみを、まい回たのしみにしています。ただマッチョという言ばが分かりませんでした。ガッツィごでしょうか? ガッツィごのおべんきょうを、がんばります」
「マチルダ様へ
ハンカチをありがとうございます。僕のひとみの色で名前をししゅうしていただいて、とてもうれしいです。大切に使いたいと思います。ただ、ハンカチのまわりにレースがあると、つかうのにもったいないと思ってしまいます。つぎにいただけるのなら、レースがない方がいいです」
「シモン様へ
私がはじめてしたししゅうです。とてもヘタではずかしいので、ハンカチのまわりにレースをつけてみました。気にせずにつかって下さい」
「シモン様へ
お誕生日のプレゼントをありがとうございます。とても嬉しいです。物知らずでお恥ずかしいのですが、いただいたプレゼントは、ダンベルでよろしいのでしょうか? とても重くてビックリしました。侍女達の中にダンベルのことを知っている者がおりませんでしたので、探しましたら、ゆいいつ庭しが知っておりました。毎日使うものだと教えてもらいました。がんばって使ってみようと思います」
「マチルダ様へ
ダンベルの使用せつ明書をお付けせず、申しわけありません。レディへのプレゼントに何をおくったらいいのか分からずに、おじに聞いたのが間違いだと、おばからおこられました。今度からは、分かりやすい物をおくりたいと思います」
「シモン様へ
ケガをされたとお聞きしました。大丈夫なのですか? とても心配です」
「マチルダ様へ
心配をかけてすみません。そんなにひどいケガではないので大丈夫です。お見舞いの品をありがとうございます。これは寝間着でしょうか? 全身にリボンとレースが付いていたので、着方がよくわかりませんでしたが、愛用しています。
僕の住む屋しきは、海ぞいにあるのですが、野生のクラーケンが陸に上がってくることがあるのです。クラーケンはそこまできょうぼうではないのですが、とても大きいので、出会った時は注意しなければならないのですが、僕はクラーケンの干した物が好きなので、思わず野生のクラーケンに近づいてしまったのです。叔父たちに、とても怒られました。マチルダ様にも、クラーケンの干した物を送ります」
「シモン様へ
クラーケンの干物をありがとうございます。とても美味しかったです。こちらの国ではなかなか手に入らない珍味だということで、父や兄に取られそうになりました。
寝間着ですが、シモン様へ贈ろうと思い、少し気合が入ってしまいました。寝にくくなるといけないので、背面にはリボンもレースも付けていないので、着る時の目安にして下さい」
「シモン様へ
スクワットという運動を毎日されているのですね。私も庭師と一緒にやることにしました。ダンベルも毎日使っています。シモン様のおかげで、体力がついてきたようです」
「マチルダ様へ
体力がつくのはいいことです。僕もマッチョになるために、毎日がんばっています。まだまだクラスで一番小さいですが、すぐにクラスで一番大きくなります。すぐにです」
「シモン様へ
シモン様、大変なことになってしまいました。
私は知らなかったのですが、私の父とシモン様の叔父様は知り合いだったのですね。父が本家に当たるウインスター辺境伯家を訪ねた時に、シモン様の叔父様とお会いしたそうです。そこで何故か私とシモン様の婚約を約束したのだと言っておりました。
本当に申し訳ありません。いくら家同士の取り決めだとはいえ、シモン様には何とお詫びをすればいいのか分かりません。父の話を聞いてから、私は泣いて部屋に閉じこもっております。今も部屋の中でこの手紙を書いております。なんとか父に婚約を取り消すようにいいますので、少しお待ちください」
「マチルダ様へ
僕も婚約の話を叔父から聞き、ビックリしました。ですが、僕はマチルダ様との婚約を嬉しいと感じています。マチルダ様とは、お会いしたことはありませんが、こうやって手紙のやり取りを通して、僕はマチルダ様のことは良く分かっているつもりです。僕はマチルダ様のことが好きです。
僕に謝ることはありません。部屋に閉じこもるのは止めてください」
「うううう~」
マチルダはシモンからの手紙を握りしめて、涙を流す。
マチルダもシモンに会ったことはない。
なんとシモンはウインスター辺境伯家に来ていたそうなのだ。そこでシモンに会った父親の話では、自分の兄姉たちと同じで、線の細い美少年だと言っていた。
次から次へとマチルダの涙は止まらない。自分の厳つい容姿を嫌という程に知っているから。
庭師と一緒に毎日シモンのおすすめの運動をしているが、細身になるどころか、体格が増し増しになってきている。
まだ12歳の少女だというのに、厳つい顔に合わせたように、ガッチリとした体形になってきているのだ。身長も女子にはありえないほどに高く伸びてきている。
クラスの女子どころか、学年の男子にさえ、マチルダよりも体格のいいものはいないのだ。
シモンは自分のことを好きだと言ってくれた。
手紙の中だとはいえ、嬉しい。とても嬉しい。
でもそう言ってくれるのは、シモンが自分の姿を見たことが無いのだからと分かっている。
自分を一目でも見たら、シモンの顔が歪んでしまうことをマチルダは分かっているのだ。
なんとか婚約を解消しないと、シモンに嫌われてしまう。それこそ、今まで文通を通して関わりを持っていたことを嫌悪されてしまうだろう。
シモンとの楽しかった文通の思い出を自分の容姿が踏みにじってしまうのが、マチルダは悲しかった。
涙に暮れるマチルダは、ますます部屋に引きこもってしまうのだった。
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